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田中亜矢、近藤研二、イトケン、宮崎貴士 この4人の音楽家によるひとつの物語、「図書館」。待望の発売です。豊かな声をもつシンガー・ソングライター田中亜矢。栗コーダーカルテットの活動を中心に、米アカデミー受賞「つみきのいえ」の音楽も担当した近藤研二。多くのユニットに参加、国内外で活動を続ける音楽家イトケン。2枚のソロアルバムが多方面で年間ベストに選ばれたシンガー・ソングライターの宮崎貴士。この4人が揃って生まれるひとつのポップスの「新世界」。新しい音楽がここにはじまります。
HP→http://www.toshokan.net/
図書館の音が揺れている。
この音楽は、縦に割ることができない。
ここはボーカル、ここでハイハット、ここにギターのリフ、
そんな、誰のものかがはっきりした場所はない。
それでいて、誰もが自在にこの場所に入ってくる。
見事な曲をきくときに、わたしたちはつい、
「誰のアレンジ?」「誰のプロデュース?」と問い、
一人の力を称えがちだけれども、図書館の場合、
そのような誰かの存在を考えるのは難しい。
そもそも、時間軸を前に後ろに揺らす図書館の音楽は、
譜面を整然と縦に割り、アレンジメントをほどこす思考とはなじまない。
閉じたまぶたを柔らかく照らし出すような田中亜矢の声。
その歌の歩む時間を、それぞれの楽器が揺らせている。
歌より先を行くかと思うと、後からついてくる。
演芸場の一本のマイクを大人数で使い分けるように、
すいと入っては退き、確かに鳴ったと気づいたときには去っている。
それもそのはずこれらの音を奏でるのは、
近藤研二、イトケン、宮崎貴士という練達の音楽家たち、
ほんの一音にも気配と名残りを込める彼らのプレイが、
生々しく録音されているのだから。
それにしてもなんて不思議な歌の数々だろう。
足立守正の作詞は、むずかしい理屈を何一つ唱えていないけれど、
きき手の意識をあれあれとくつがえしていく。
眠りを見守る夢、黄昏てゆく新しい世界。
この世の恋の歌が決まって、出会いから別れへという因果を
歌い上げるのに対して、彼の書く詞では、
出会うことと別れることとが、まるで右足と左足のように、
ひとつの歩みを織りなしていく。
宮崎貴士の書く美しい調べには、
あちこちにおやと思わせる拍子の変化や転調がほどこされているのだが
(「わかれのうた」の曇りのないイントロ!きくたびに、自分がどこに
いるのかわからなくなる)、プレイヤーとしての彼には、
さあここがききどころですよと気負う様子もない。
メロディと出会いながら別れるかのようなつつましいそのプレイは、
歌詞世界をそのまま体現するようだ。
そしてなんといっても、ことばとメロディを実現するボーカル田中亜矢
の声。伸びやかで温かな余韻を残す彼女の歌声は、歌に埋め込まれた
小さなできごと、小さな問いに静かなリアリティを与えて、思わぬ種を
芽吹かせる(賭けてもいいけれど、アルバムをきき終わったあなたは
きっと、もう一度あの声でパンダの居場所を問われたい、
と思うでしょう)。
親しげな調べなのに、耳に新しい。どこかできいたことがあるのに、
こんな風に響いたことはない。
「図書館」の音楽が、あなたとわたしの境を揺らせながら、
新世界の到来を告げている。
いざや楽しきまどいせん。
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細馬宏通(ほそまひろみち):滋賀県立大学教授。またの名をかえるさ
ん。夢見がちで報われない歌詞と曲をひっさげて、バンド「かえる目」
で歌を唄う。2ndアルバム『惑星』発売中。
かえる目ホーム:http://www.12kai.com/kaerumoku/
Toshokan / 図書館