2025.07.03
スティーヴ・ハケット来日公演 大阪より圧巻の初日スタート!
文:松井 巧 撮影:畔柳 ユキ
STEVE HACKETT Genesis Revisited 2025 公式サイト

70年代にはピーター・ガブリエルやフィル・コリンズらと並ぶジェネシス黄金期のメンバー、75年からはソロとしても、80年代以降にはソロのほかにスティーヴ・ハウ(イエス)とのGTRやブライアン・メイ(クイーン)との双頭バンド、クリス・スクワイア(イエス)とのスクアケットの一員としてもキャリアを積み上げてきたスティーヴ・ハケット。エディ・ヴァン・ヘイレンのライトハンド奏法に影響を与えたことでも知られる至高のギタリストが、ついに10度目の来日を果たした。
ジェネシスの正統的継承者 さらにその先の進化へ
“Genesis Revisited 2025”と題された今回の日本公演では、ジェネシス黄金期のアルバムのなかでもとりわけ傑作の誉れ高い『フォックストロット』(72年)、2枚組コンセプト作『眩惑のブロードウェイ』(74年)の2作から選りすぐったナンバーと、ソロの代表作で構成されたステージであることが、予告されていた。ピーター・ガブリエルにせよフィル・コリンズにせよ、ソロではジェネシスと異なる世界観を打ち出したのとは対照的に、ハケットのそれはジェネシスのオリジナリティを継承したものといってよい。だからこうした構成のステージが違和感なく成立するのも、それ自体が彼の個性だ。しかも、ただ継承しているだけではない。そこには、彼自身がジェネシスにもたらした楽曲、コンセプト、ギター・テクニックといったあらゆるものをときどきのやり方で発展させていこうという強い意志が感じられる。50年ロンドン生まれのハケットは、今年75歳という年齢に達した。けれど、音もルックスも、そんなことなどまるで意識させないのは、彼の気持ちが常に若々しく、ポジティヴな方角を目指しているからにほかならない。アンサンブルを固めるメンバーが、ロジャー・キング(キーボード)、ロブ・タウンゼンド(サックス、フルート、キーボード、ヴォーカル)、ナッド・シルヴィアン(ヴォーカル)、アマンダ・レーマン(ギター、ヴォーカル)、ヨナス・レインゴールド(ベース、ギター、ヴォーカル)、クレイグ・ブランデル(ドラムス)という面々であることも、ハケットの意欲の表れとして興味深い。彼らはいずれも、90年代後半から2000年代くらいにかけてスティーヴ・ハケット・バンドに名を連ねるようになったプレイヤー。プログレッシヴ・ロックはもちろん、ブルース、ジャズ、クラシック、ポップス、フォークなどにも、それぞれ多様なバックグラウンドを持つミュージシャンの集合体は、ひとくちにプログレとはいえそこに複雑な要素を内包する(今では完成されたスタイルと捉えられがちだが、そもそもプログレッシヴ・ロックとはそういう音楽だ)ジェネシスの再演ナンバーやハケットの初期ソロ・ナンバーを取り上げるうえでも、それらの面々が直接オリジナルの録音に参加した近年の楽曲を取り上げるうえでも、最良の人選といえよう。10年の来日公演で様々な意味のある存在感を放っていたアマンダが、15年ぶりのステージ参加というのも見逃せない。日本公演は、4月23日のスウェーデン・オスロから5月16日のオランダ・ティルブルフまで14か所を回る欧州ツアーに続いてのステージとなる。
以上を予備情報とする本ライヴレポートは、初日にあたる7月2日の公演(大阪・なんばHATCH)に参加した時のものだ。同4日(金)~6日(日)に予定されている東京・EXシアター六本木でも同様の構成となっているので、東京公演に足を運ぶ予定の人、今からチケットの購入を検討している人は、予習を兼ねてお読みいただければと思う。
バンドの個性を活かしながら オリジナルをアップデート
会場入りした最初の印象は、予想を超えて若いファンが多い、というものだった。もちろん、70年代からリアルタイムで聴いていたと思しき人たちも少なくはないのだが、それにしてもこれだけ若い聴衆の比率が高いコンサートは、大ベテランの大物ロック・ミュージシャンとしては異例といってよいだろう。まさにハケットならではの現象だ。
2部構成の前半は、ソロを中心とするセット。ここでのっけから彼の最新スタジオ・アルバム『サーカスと夜鯨の秘話』からのナンバーが3曲立て続けに演奏されたのには驚いたが、これもハケットの攻めの姿勢を示す一例といえるだろう。24年リリースのアルバムを未聴の人が多かったのか、あるいはライヴで聴くのは初めて故の様子見だったのか。いずれにせよ、イントロが鳴り出せばすぐに盛り上がるという風ではなかったものの、それぞれの演奏が終わるたびに大きな拍手と歓声が巻き起こったのは、その楽曲と演奏の高さに対する純粋な反応として注目に値する。
ただ、そう書いてしまうと、ファンにとって馴染み深い曲が、ただ馴染みがあるというだけで喝采を浴びたかのような印象を与えかねないが、これは即座に否定しておこう。たしかに、ハケット本人も自作ベスト3の一つに挙げる『スペクトラル・モーニング』から選曲された「エヴリ・デイ」をはじめ、この後の曲ではどれも聴衆の盛り上がるタイミングが早かったのは事実である。だが、演奏が進むにつれ、その盛り上がりは、知っている曲が聴けたという喜びから驚嘆へと変わっていく。ハケットと彼のバンドがここへきてまたさらに引き出しを増やし、表現に深みを加えているのは、彼が何度も来日して聴かせてくれた曲だからこそわかることだ。むろんその素晴らしさは、ライヴ初体験の人にも伝わったにちがいない。なかでも圧巻だったのは、ソロ1作目『ヴォヤージ・オブ・ジ・アカライト』に収録されていた「シャドウ・オブ・ザ・ハイアラファント」。アマンダの美声をフィーチャーした英国トラッド・フォーク風のヴォーカル・パートで幕開け、徐々にリズムが激しさを増しながら、バンド全体でシンフォニックに上り詰めていくドラマティックな展開は、これぞライヴならではの、きわめてファンタスティックな演奏だった。
そしてステージの後半は、いよいよジェネシスのナンバー。前半のソロ・ナンバーがあまりに素晴らしかっただけに、かえってこちらが見劣りしてしまうなどということはもちろんなく、こちらはこちらで、オリジナルのテイストを絶妙に残しつつもそこかしこにアップデートを施すなど、良質の仕上がりを見せていた。『眩惑のブロードウェイ』から取り上げられたのは全部で9曲。これは、コンセプト・アルバムのストーリー性を維持するのにも有効な数だった。オープニングに「ザ・ラム・ライズ・ダウン・オン・ブロードウェイ」、ラストに「イット」を配するなど、構成もしっかりと計算されている。一方の『フォックストロット』からは「サパーズ・レディ」のみだったが、この曲自体が7部構成で20分超の大作。これをフルコーラスで、しかも高い集中力で演奏し切るだけでも凄まじいのだが、そのなかでやはりアレンジの改変を試みたり、ギター・ソロに変化をつけたりしながら、なおかつ作品の質を損なわないところがハケットの魅力である。
アンコールは、これから東京公演に足を運ぶという人のためにネタバレはしないでおこう(ヒントは、良い意味で裏切られた、である)。ただ言えるのは、これがまた本編に勝るとも劣らない名演だったこと。そしてそれは、ハケットは言うに及ばず、他のメンバーも同様だったことだ。
25年におけるスティーヴ・ハケットの来日公演、以上がその初日の模様である。公演を重ねるごとに進化する、あるいはそうあろうと弛まぬ努力を続けるハケットと彼のバンドの様を、とにかく見せつけてくれるコンサートだった。75歳のハケットがいつまで現役であり続けるのか、さすがにそれはわからない。もしかしたら、これが最後の日本公演になるかもしれない、という焦燥感をもってライヴに臨むのは、もちろんありだ。ただ、少なくともこの日の演奏を聴くかぎりにおいては、まだまだ現役であり続ける気配しか読み取れなかった。もしハケットが今後も現役にこだわるならば、我々もまた、進化を続ける彼の変わらぬ姿を追うことになるだろう。
https://diskunion.net/progre/ct/news/article/1/131400
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