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大成功を収めた前作から更に日本のレゲエポップの歴史を掘り下げるコンピレーション第2弾。ラバーズやニュー・ウェーヴを昇華させ、それまでの日本やジャマイカのどちらにも無かった多彩で実験的なサウンドを探求した入手困難な激レア音源を数多く収録した傑作集!
坂本龍一が生まれて初めて日本を離れたのは1978年。彼が向かった先はアメリカでもヨーロッパでもなく、なんとジャマイカだった。Y.M.O.はデビューアルバムのリリースを目前に控えていたが、坂本はキングストンにあるダイナミック・サウンド・スタジオで日本のアイドル歌手、テレサ野田の曲でシンセサイザーを演奏するために招かれていた。バンドにはジャマイカが誇る精鋭ミュージシャンが集い、あのリタ・マーリーも参加。あまり知られていないエピソードだが、この時から坂本はダブに目覚め、同時に日本全体におけるレゲエへの情熱的な愛の始まりを告げる事になる。
日本が誇る先駆的音楽家の加藤和彦がプロデュースし、坂本が参加したそのテレサ野田の2楽曲「トロピカル・ラブ(A1)」と「イエロー・ムーン(B4)」はフィラデルフィア・ソウルばりの豪華なストリングスやホーンがフィーチャーされ、奇しくも同じ年にイギリスで産まれたラバーズロックよりも更に洗練されたポップ感を誇るレゲエとして本作の冒頭と最後を飾る。他に収録された楽曲の多くも、80年代のグローバル化する音楽的傾向を助長するような形で当時のシティ・ポップ・サウンドに爽快な異国情緒が加わり全く新しい音楽を生み出している。
京都のポスト・パンク・バンド、EP4のキーボーディスト、川島”Banana”裕二がサウンドプロデュースを務めた井上陽水の「あなたを理解(A2)」はニューウェーヴ以降のレゲエ・リドゥムの上にASMRを先取りしたような謎の音が随所に散りばめられ、実験的で遊び心の効いたダブ処理が施されており、陽水のシュールな歌詞と相まり独特の世界感を演出。さらに、石黒ケイはJレゲエの草分け的存在であるペッカーを迎え入れ、スティービー・ワンダーを彷彿させる大胆な楽曲『レッド・ドリップ(B2)』を生み出した。
グレイス・ジョーンズに代表されるスライ&ロビーやワリー・バダロウのスタジオ・ワークの代名詞とも言えるコンパス・ポイント・スタジオの影響が色濃く現れているのがジューシィ・フルーツによる「オ・シ・エ・テ・ア・ゲ・ル(A3)」や、なかやまて由希による「3/Trois - トロワ(A4)」。南理沙の「蒼いジャマイカ(B1)」の歌詞には説得力が欠けるものの、ドラムマシンを用いた非常に独特なリドゥムはジャマイカの影響よりも様々な意味で当時の日本社会をより反映した作品になっている。
前作がシティ・ポップ系のサウンドを中心とした選曲に対して本作ではより幅広く実験的な作品が並ぶが、その最たる例が亜蘭知子と清水靖晃、そしてマライアとのコラボレーションによるハイブリッド・ダブ・ポップの「悲しきボードビリアン(B3)」で、レゲエがここまで遠く旅をしてまったく新しい形に再構築されているのが分かる。このようにして日本のレゲエは西洋の文化的支配権とは異なる音楽言語を築き、当時の資本と創造性によって形作られた非常に独特な世界観に到達していた事に気づく。
V.A.