2,934円(税込)
※5,000円(税込)以上買うと送料無料!新品でも中古品でもOK!
10年ほど前にGazellレーベルのオフィスを訪問したことがある。バルト海に面した街で、「シリアライン」というヘルシンキとストックホルムを結ぶ豪華客船の発着場バッタハムンの近くだった。「大きな客船だなぁ」と思ったが、その船が経由するオーランド島にウラジミール・シャフラノフが住む小島がある。飛行機から眺めると、この辺りには無数の小島が浮かんでいて壮観だ。今回のレコーディングはストックホルムの近郊のスタジオで録音されたが、それは、そのシリアラインに乗れば、一番近い都会だからというのが理由だ。またメンバーとして参加した、ベースのハンス・バッケンルートとドラムスのベント・スタルックは共にストックホルムを拠点に活動している実力者、という利点も活かせた。
ハンスとは、昨年の6月グレン・ミラー・カフェにライブを観に出かけたところ、偶然声をかけられた。丁度Facebookに演奏の模様を投稿し帰ろうとしたところ「ミスター・ヤマモトっ」と追いかけてきてお互いの自己紹介をしたのだった。スウィート・ジャズ・トリオ以外にも実に多くのセッションをこなすベテランだ。
個人的にウラジミール・シャフラノフを認識したのは、18年前だ。偶然見つけた『ホワイト・ナイト』が素晴らしくて、寺島靖国氏を巻き込んでの大賑わいとなった。その後の躍進は衆知のとおりだ。
今回の作品で興味を引いたのは、ロシア生まれのシャフラノフ自身がロシアの曲で一枚を作りたいと発奮したことだろう。ジャズの名曲、トラディショナル、クラシックの大名曲にいたるまで選択の幅を広げた。全体的にマイナー調の曲が多いので、なにやらダークなものに包まれているという気持ちが強くなってくる。おそらくロシア民謡にしても、他の楽曲にしても、日本人の心に通じる旋律やメロディーがあるのだろう。そんな中でシャフラノフはそれを内包しつつも、強力なタッチで盛り立て行く。ピアノ・トリオスタイルの王道を堪能できる。
シャフラノフ独特のスウィング感溢れる演奏で、それら名曲の数々に新しい息吹を吹き込んだ。筆者は残念ながらまだ一度もロシアに降り立ったことがない。レコード関係の知り合いが住んでいるが、用事がないので行けない。一度行けばその空気感がわかり、これらの曲への理解も更に深まったに違いないと思うと残念だ。
「ビーズと指輪」は好きな曲だけど、「ロシアと何の関係があるの?」と思って解説を読んだ。それによるとボロディンの弦楽四重奏曲第2番のメロディーをもとにアレンジされた曲なんだそうだ。初めて知った。(山本隆)
VLADIMIR SHAFRANOV / ウラジミール・シャフラノフ