今年のヴェネチア国際映画祭|受賞結果&関連作まとめ
第83回ヴェネツィア国際映画祭が9月12日に閉幕。日本でも映画祭選出作品が続々と公開しています。
今年は戦争、労働、女性の社会的立場、権力や社会構造といった現代社会が抱える課題をテーマに据えた作品が目立った印象。審査員による公式賞はもちろん、批評家団体や学生、文化団体などが選ぶ独立賞でも、幅広い作品が評価されました。さっそく作品の見どころや劇場公開情報、関連作品とともに受賞結果を振り返りましょう!
(★)は関連作品も紹介
公式賞
(★)金獅子賞 ― Golden Lion for Best Film ―
最高賞である金獅子賞を受賞したのは、メイ・エルトーキー監督の『Woman Unknown』。第二次世界大戦直後のデンマークを舞台に、戦時中にドイツ兵と関係を持った女性が受ける偏見や葛藤、その後の運命を描いた作品です。主人公として描かれるのは、ナチスへの協力を強いられた、あるいは生存のためにそうせざるを得なかった女性、いわゆる「Horizontal collaboration」の過去を持つ家政婦。独ソ戦の実態を描いたノンフィクション小説『戦争は女の顔をしていない』を彷彿とさせる内容です。当初、エルトーキー監督は16世紀の魔女狩りを題材にした映画を構想していたそうですが、題材が変わっても掘り下げようとした核の部分は変わりません。また、恐怖を抱えながらもそれを抑え込むような繊細な演技が高く評価された、主演のマティルデ・アーセルが女優賞を受賞し、主要2部門受賞の快挙となりました。
(★)銀獅子賞(審査員大賞) ― Silver Lion for Grand Jury Prize ―
金獅子賞に次ぐ審査員大賞には、イ・チャンドン監督『もしもの愛 (Possible Love)』が選ばれました。『バーニング 劇場版』以来8年ぶりとなる最新作で、会社を解雇された労働者とその妻、そして労働問題をテーマにドキュメンタリーを制作する女性とその夫という、全く異なる境遇にある二組の夫婦が出会う物語。それぞれが置かれた状況や抱える欲望に向き合う姿を通して、行き過ぎた競争や資本主義の膨張によって失われていく自己という、現代の韓国社会が直面する課題にも目を向けています。出演者はイ・チャンドン監督作『シークレット・サンシャイン』のチョン・ドヨン、『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』のソル・ギョングに加え、『パラサイト 半地下の家族』のチョ・ヨジョン、『その冬、風が吹く』『密輸 1970』のチョ・インソンと、韓国を代表する俳優陣が顔を揃えました。さらに、批評家の視点から映画的完成度の高さを称える国際批評家連盟(FIPRESCI)賞も並行して受賞。10月23日(金)より日本公開。11月6日(金)よりNetflixで世界独占配信予定。
銀獅子賞(監督賞) ― Silver Lion for Best Director ―
監督賞を手にしたのは、『DAU』のイリヤ・クルジャノフスキー監督です。本作はクルジャノフスキー監督が20年にわたり取り組んできた企画「DAU」の一部で、ノーベル物理学賞のレフ・ランダウらソ連の科学者に着想を得た伝記プロジェクトの集大成ともいえる作品。旧ソ連の秘密研究所を舞台に、科学への野心や特権意識、監視体制のなかで主人公の自由や自律性が失われていく様子を描いています。キャリア初期の挫折を経験しながらも、このプロジェクトに長い年月を費やしてきたクルジャノフスキー監督。ウクライナに建てられた巨大セットで撮影された700時間分もの素材をもとに、2019年からパリやベルリンで断続的に上映されてきましたが、その中核をなす物語が、今回ついに一本の長編映画として公開されました。第39回東京国際映画祭ワールド・フォーカスにて上映予定。
ヴォルピ杯(男優賞/女優賞) ― Coppa Volpi for Best Actor/Actress ―
今年の女優賞は『Woman Unknown』のマティルデ・アーセルに授与されましたが、男優賞はマーティン・マクドナー監督『ワイルド・ホース・ナイン』でベテランCIAエージェントを演じたジョン・マルコヴィッチに。本作は1973年のチリ軍事クーデター前夜のイースター島を舞台に展開されるブラックコメディ・クライム・スリラー。マルコヴィッチが役に与えた深みや、相棒を演じたサム・ロックウェルとの掛け合いや高く評価されました。会見でマルコヴィッチは、まだまだ引退する気はないと、俳優として第一線であり続ける姿勢をのぞかせました。ロックウェル、スティーブ・ブシェミ、トム・ウェイツら共演陣にも注目が集まっています。第39回東京国際映画祭ガラ・セレックションにて上映予定。2027年1月より日本公開。
公式サイト↓↓
https://www.searchlightpictures.jp/movies/wildhorsenine
脚本賞 ― Best Screenplay ―
脚本賞はステファヌ・ブリゼ監督『A Good Little Soldier』に贈られました。脚本はブリゼ監督と、濱口竜介『急に具合が悪くなる』のキャスティングに携わったコラリー・アメデオ、そしてオリヴィエ・ゴルスが共同で手がけています。『ティエリー・トグルドーの憂鬱』『戦争 (At War)』などで資本主義構造の中に置かれる労働者を描いてきたブリゼ監督が、今回は家庭を犠牲にしてキャリアを築いてきた女性を主人公に、大企業幹部という立場から同じ問題を扱いました。本作では、特に企業が掲げる「従業員のウェルビーイング」と、実際の職場環境とのギャップをブラックユーモアを交えて描いています。
(★)審査員特別賞 ― Special Jury Prize ―
そして審査員特別賞を受賞したのは、ユヴァル・アブラハムとラヘル・ショールによる『NAZA』。現在も続くパレスチナ・イスラエル戦争下、イスラエル軍のガザ侵攻を匿名の軍関係者などの証言から追ったドキュメンタリーです。タイトルの「NAZA」は、空爆による民間人の予想死者数を示すイスラエル軍の軍事略語のこと。イスラエル側は匿名証言の検証可能性などを理由に本作の内容を否定していますが、映画は軍事システムの内側からの証言を通して、ガザでで起こる虐殺の実態を鑑賞者に突きつけています。ホロコースト生存者を祖父母に持つユヴァル・アブラハム監督は、イスラエル国防軍(IDF)への入隊経験もあるイスラエル人ジャーナリスト。ラヘル・ショール監督と共に制作に関わった監督デビュー作『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』がアカデミー賞を受賞し、国際的な注目を集めました。10月24日(土)公開決定。
公式サイト↓↓
https://transformer.co.jp/movie/naza/
マルチェロ ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞) ― Marcello Mastroianni Award for Best Young Actor ―
期待の新人俳優に贈られるマルチェロ ・マストロヤンニ賞は、セドリック・カーン監督『15/18 (A Place to Heal)』のマルー・ケベジが獲得。ケベジは2024年公開の『Wild Diamond』でデビューを果たしたフランス出身の女優で、本作では公立病院の青年精神病棟への入退院を繰り返すティーンエイジャーを繊細かつリアルに演じています。セドリック・カーン監督は今作の制作にあたって、実際にセラピーセッションやワークショップを取材し、10代の患者やその家族、医療従事者たちの声をもとに脚本を作り上げました。
独立賞
公式賞での受賞こそなりませんでしたが、日本人監督による作品は、映画祭とは独立した団体や審査員が選出する独立賞で存在感を示しました。
(★)『ルックバック』是枝裕和
是枝裕和監督による藤本タツキ原作『ルックバック』は、優れた映画芸術に対して贈られるシネマ&アーツ賞、人間の尊厳・精神性・倫理などの観点から選ばれるSIGNIS賞、ほかUNIMED賞、CinemaSarà賞、Fanheart3賞(特別賞)の5つの独立賞を受賞しました。ヴェネチア国際映画祭と是枝監督は、初長編映画である『幻の光』が1995年のコンペティション部門に選出されて以来の深い縁があります。9月11日(金)より全国公開中。
公式サイト↓↓
(★)『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』塚本晋也
情報解禁時から国内外で大きな話題を呼んでいる塚本晋也監督の最新作は、イタリアの高校生20名が選ぶ Leoncino d’Oro賞 (小金獅子賞)を日本映画として初受賞。ベトナム戦争の最前線で戦ったアレン・ネルソン氏の語りをもとに、「戦争に行くと人はどうなるのか」を切実に映しています。塚本監督は受賞スピーチにて「特に若い人に観てほしいという気持ちが強くあります。若い審査員の皆さんに選んでいただいた、というのは、何よりもうれしいこと」とコメント。世界各地で緊張が高まる昨今の国際情勢を思えば、イタリアの若い世代がこの作品を選んだこと自体に、大きな意味があるといえるでしょう。9月11日(金)より一部劇場にて公開中。
公式サイト↓↓
『襲名』三池崇史
さらに、三池崇史監督初のドキュメンタリー『襲名』もシネマ&アーツ賞を受賞。十三代目市川團十郎の襲名に密着した本作は、歌舞伎の舞台裏や家族の物語を3年以上にわたって記録しています。父から子へと受け継がれる伝統芸能、その歴史を背負う重責がある一方で、現代を生きる一つの家族としての日常もある。襲名という大きな節目だけでなく、伝統を継承する人々の日々の生活にも丁寧に目を向けている点が、本作の見どころです。9月25日(金)劇場公開。
公式サイト↓↓
『太陽(てぃだ)ぬ色 (The Color of the Sun)』ザビエル(グザヴィエ)・テラ
第二次世界大戦終結後から沖縄に駐留する在日米軍と地元住民の衝突と帰属意識の問題を描いた『太陽(てぃだ)ぬ色』は、進取的な映画に与えられる 国際批評家連盟(FIPRESCI)オリゾンティ部門作品賞を受賞。本作は日本人監督によるものではなく、カナダ・イタリア・日本による合作です。かつてフランス領、後にイギリス領となった歴史を持つモントリオール出身のザビエル(グザヴィエ)・テラ監督は、コロナ禍に訪れた沖縄でその複雑な歴史と独自の文化に深く共感したそう。『ブンミおじさんの森』『君の名前で僕を呼んで』のサヨムプー・ムックディプロームを撮影監督に迎え、35㎜フィルムの豊かな色彩で沖縄の光と風景を捉えています。
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