サンパウロ在住の男性SSWファビオ・カドーレの3作目となるアルバム『アクト・ウン』。本作は、アルゼンチンのピアニスト、 エルナン・ハシントを迎えて吹き込んだ意欲作で、ファビオのギター、ヴォーカルと、エルナンのエレガントなピアノが織りなす、ジャズ色の濃い気品溢れるデュオ作品。自身が影響を受けたであろうサンバ/MPB、フォルクローレと、ジャズへのアプローチのバランスが絶妙で、ファビオの程よくソウルフルな歌声もより際立つ傑作に仕上がっている。それぞれサンパウロ、ロサンゼルス、ブエノスアイレスで行われた録音の空気感も心地よく、一括りにブラジル音楽としてしまうのはもったいジャジーな1枚だ。語りかけるようなピアノのフレーズが愛らしくもメランコリックな「01. Acto 1」から作品が持つエレガンスがしかと伝わるが、全編通じて貫かれるその世界観はどこまでも上品なムードを保つ。弾むリズムに乗せてギターとピアノが小刻みに掛け合うような「02. Tempo」、ほどよく青さがにじみ出る「04. A queda」、ドラマチックな高揚感に彩られた「08. E depois」など、全収録曲のクオリティと作品の統一感が素晴らしい、穏やかな傑作。部屋でゆっくりとじっくりと聴き込みたい、そんな作品だ。
