特集:サルサ名盤紹介 ”サルサの音楽力の源は、実はピアノに有った?!”

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2018.12.05

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突然ですが、ラテン/ブラジル/ワールド部門が担当する広大なエリアは地球儀上にみえる陸地部分のおよそ2/3以上と言ってもよいのではないでしょうか。そこには夜空に煌く星の数ほどともいえる無数の音楽があります。そんな世界の音楽をご紹介するコーナーが始まりました。トップバッターは弊社で一番熱い男、ラゴア氏がサルサの魅力を語ります!

 

特集:サルサ ”サルサの音楽力の源は、実はピアノに有った?!”
text by ラゴア

唐突で、すんません…。とにかく、サルサが好きで好きでたまらないんです。 昼も夜も聞いては、にかわに心踊る毎日…どこに惹かれるかっていうのも理屈じゃないけど、やっぱり正直に身体が反応するからなのかなぁ。その反応は、どの音に対してなんだろう…?

そりゃ、ラテンですから。特長といえば…弾けるパーカッション、熱く彩るホーン・セクション、こってりしたリードヴォーカルやコーラスも相まってグイグイ攻めてくるのがサルサ!でも...特に、ワタシがサルサを聞いて、いちばん「ムラムラ」する瞬間って、ピアノが弾(ハジ)けた時なんですよねー。独特のリフ、ちょっとした即興タッチ…あぁ、考えただけでムラムラする!笑

そんな「ムラムラ」を促す有名作品で聞ける「ピアノ」にフォーカスしたら、踊ってナンボのサルサ音楽も、ちょっと違った面白さが見えるかなぁ…なんて勝手な思考で、ツラツラと綴った、題して「サルサの音楽力の源は、実はピアノに有った!?」はじめてみよう!

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■Willie Colon / The Hustler (FANIA RECORDS 1968)
focused track - A1: The Hustler
focused pianist - Mark Dimonde



いきなりの超名盤。サルサの悪童ウィリー・コローンが、当時18歳っていうのも驚きだけど、気鋭ピアニスト、マーク・ディモンも同じく18歳!若気の至りを音にぶつけた「サルサ」は、まさにこーゆー音になるということ!やっぱりタイトル曲「Hustler」でしょう。リーダーのトロンボーンも唸りまくるが、このピアノもバリ凄い。強いタッチと奔放な運指...ラテン・ピアノのメソッドなど、なかばお構いなしに炸裂するピアノ(っても音楽の基本は当然押さえてるでしょう)。立ち上るギャング臭と問答無用の疾走感で、この後に続く極太セッションを牽引。マークは、この後ソロ作なんかも出して、ドス黒系NYラテンの名ピアニストへとのし上がることになるんですね~。既に片鱗は十分すぎ!
ムラムラ度★★★★
若さゆえのほとばしりサルサ度★★★★★




■Eddie Palmieri ‎/ Azucar Pa'Ti (TICO RECORDS 1965)
focused track - A3: Azucar
focused pianist - Eddie Palmieri



泣く子も黙るサルサ・ピアノの巨人も、時代によってそのスタイルがかなり違う。正統派のかっちりしたピアノもあるし、オルガンでグルーヴィーに攻めてみたり…。そんなキャリア中でも衝撃だったのは、既製概念を逸脱したかのような前衛的なリフや即興を体得した、このアルバムから70年頃までの時期かなぁ。何というか…ムラムラ+ゾワゾワ感が半端ない。予測不能のコード進行にあり得ない転調、独特の弾き回しは、サルサという音楽の本質を鬼気迫る形で表したような雰囲気が、かなりたまらんのですよねー。有名なプレイヤーにして、本当の意味でサルサの異端児だったように思う、真の天才!若い頃は見た目もけっこうジェントルなんですけどねー。
ムラムラ度 ★★★★
サルサ・ピアノ狂犬度★★★★★




■Jose "Cheo" Feliciano / Cheo (VAYA RECORDS 1971)
focused track - A1: Anacaona
focused pianist - Larry Harlow




アーナカオーナ…♪ やっぱり、何度聞いてもいいなぁ。ファニア・オール・スターズのチーター・ライブ盤のハイライト曲としても超有名だけど、やっぱり、名手ルイ・ラミレスのヴィブラフォンが彩る、このバージョンはテッパンやねー。チェオの渋声もいいし。で、ピアニストは…おー、サルサの申し子ラリー・ハーロウ! ハーロウは、どちらかというとバンドリーダーのイメージだけど、そつなくサルサな!?仕事する流麗ピアニアストという音楽的才能でも、右に出るもの無し(と勝手に思っている)。端正なモントゥーノ(サルサ・ピアノの基本奏法の一つ)が、名曲のムラムラ屋台骨なんですよねー。もちろん、ソロでもきっちり魅せる!
ムラムラ度 ★★★★
滑らかサルサ・ピアノ度★★★★★



■Chi Huahua / Latin Cuban Session (FONSECA RECORDS 1967)
focused track - A1: Cosquilla
focused pianist - Javier Vasquez



これはですねー、リフレインで聞かせるピアノか、たまらなく興奮させて、なおかつ気持ち良い。サルサのルーツの一つであるキューバのジャム・セッションを、ニューヨーク・ラテン的にアップデートした傑作なんですが、そのリズムの核にあるのが「デスカルガ」と言われる、反復の曲調で盛り上げるアンサンブル。ピアノもどこか練習曲みたいな単純なコードを軸に、様々なシンコペートを織り混ぜて進行。各パートのソロ回しなんかも、ちょっとジャズ的で楽しかったり…。ピアノのハヴィエル・ヴァスケスは、アレンジャー、プロデューサーでもサルサ全盛期に君臨した超有名人。しかもキューバ出身という出自だから、もちろんこの素敵にムラムラさせるピアノが奏でられる!めっちゃ、余裕綽々。さすがです。
ムラムラ度★★★★★
キューバ的サルサ・ピアノの懐深さ度★★★★★
Roberto Roena Y Su Apollo Sound / 5 (INTERNATIONAL RECORDS 1973)
focused track - B4: Ponte Duro
focused pianist - Jorge Millet



ボンゴセーロ(ボンゴ奏者)にして、作曲家、そして「アポロ・サウンド」なるサルサ・セッションを率いて一時代を築いたプエリトリカン・マエストロ、ロベルト・ロエーナ。アポロ・サウンドの名演は数多く知られているが、通算5作目に収録されたハイテンション・デスカルガ「Ponte Duro」のスタジオ・バージョンの凄さにアタック!元は偉人ジョニー・パチェーコの傑作曲で、前年のチーター・ライブでファニア・オール・スターズへ参画したロエーナが、自身のバンドでも満を持して演奏すべし!と満を持して出来上がったのがこのテイク。注目のピアニストは、アポロ・サウンドでは三代目?となるホルヘ・ミジェー。この人も百戦錬磨のサルサ・ピアニスト。リズム・キープでもまったくブレないだけでなく、豊かな感性とヤサぐれた味わいが共存するような、ムラムラ度を上げる要素に満ちたプレイは、一度聴いたら病みつき必至!
ムラムラ度★★★★★
正確無比で艶のあるピアノ度★★★★★



■Sonora Ponceña / Night Raider (INCA RECORDS 1981)
focused track - A1: Ramona
focused pianist - Papo Lucca



プエルトリコ・サルサ屈指の伝統楽団、ソノーラ・ポンセーニャのブレイン、パポ・ルッカ。初代団長の父の手解きで、すぐに神童ぶりを発揮。サルサ・ピアノの酸いも甘いもひと括りにして、作曲・演奏する希代の名手。この「Ramona」は、80年代ポンセーニャの代表曲にして、パポのピアノの魅力が凝縮した名テイク。耳馴染みはオーソドックスなサルサ風情なのに、独特の麗しき手癖とも言えるウィットなフレーズが要所に散りばめられ、有名曲のワンフレーズをちょこっと入れてみたり…と聞くほどにニンマリ。ピアノに嗜みのある知人曰く、同格のエディ・パルミエリほど奇をてらわないのに、スゴく高度な技とセンスを使って、しかも親しみやすいって、きっと、人知れず音楽への探求心が強いんだろう…だそうな。そこまで解るって、なんやねん!?と思ったけど、妙に納得。
ムラムラ度 ★★★★★
真似してみたいサルサ・ピアノ度★★★★★




■Charlie Palmieri ‎/ Latin Bugalu (ATLANTIC 1968)
focused track - A1: Mambo Show
focused pianist - Charlie Palmieri



弟エディを音楽の世界に導いた兄チャーリーも、シーンを牽引するピアノ名手。サルサ・オールスターズ、ジャム・セッション系の作品にも多数参加して、自由闊達で熱いピアノも得意だけど、兄のほうが優雅でスタイリッシュなタッチかなぁという印象を受けたのが、名盤に収録された「Mambo Show」。このアルバムは、あの深夜ラジオのオープニング曲をラテン・カバーしたことでも有名だけど、大所帯バンドでもピアノの輪郭が鮮明で、かつ全体をビシっとまとめ上げるサウンドは、なかなか王道的。が、そこはパルミエリ家の血なので、もちろん色んな表情も端々から聞こえてくる。スゴい兄弟がいたものだ…
ムラムラ度 ★★★★
デカい兄貴のサルサ度★★★★★



■Ricardo Ray ‎/ Jala Jala Y Boogaloo (ALEGRE RECORDS 1967)
focused track - A1: Richie's Jala-Jala
focused pianist - Ricardo Ray 

 

四つウチ的なリズムをラテンに取り入れた疾走サウンド「Jala Jala (ハラハラ)」。ブーガルーを、もう少し早くしてサルサ寄りにした…で合ってるかなぁ。まぁ、こうしたミクスチャーの感性もサルサの肝っすね。そのハラハラといえば、ピアニスト・リカルド・レイの代名詞。もう、なんというか、ピアノの弾き回しすべてが遊び心満点。走る走る!どこまでも走る!これを聴いて踊らずにはいられないでしょう...がこれでもかと押し寄せる陽気なテイスト。こんなピアノがホールで鳴り響いたら、楽しいだろうなぁ。この後も、歌手ボビー・クルースと組んで数々の名作を生み出すリカルド・レイ...サルサ・ピアノのエンターテイナーとしてもピカイチ。
ムラムラ度★★★★
ハラハラ?度★★★★★
■Ray Barretto ‎/ Acid (FANIA RECORDS 1968)
focused track - A1: El Nuevo Barretto
focused pianist - Louis Cruz



サルサ・コンガのレジェンド、レイ・バレットのサルサ全盛期を支えた職人、ルイ・クルース。名門レーベル、ファニアの作品に、多くフィーチュアされたピアニストの一人としても有名なんですね。で、レイ・バレットのファニア出世作といえばやっぱり「ACID」。そして、このアルバムから、強烈なインパクトを与えるブーガルー・ナンバー「El Nuevo Barretto」。これが新しいバレットだ! というタイトル・センスの自信もなかなかなんだけど、曲に佇むワイルド臭は、鼓舞する声に、ルイ・クルースのアタックの強いピアノがジリジリと作用するところもかなり大きい!(と思っている。)問答無用に...かっこいいっすねー。ルイ・クルースはソロ昨もありで、他の参加作品でも、また違ったセンスも垣間見えるし、注目して聞いてみると、その良さが再発見できるピアニストとしてもレコメンド。
ムラムラ度★★★★★
サルサ・ピアノ低pH度★★★★★



■Tipica '73 / Rumba Caliente (INCA RECORDS 1976)
focused track - A1: Rumba Caliente
focused pianist - Sonny Bravo



レイ・バレット楽団から派生してキューバン・ルーツに特化したサルサを売りに人気を博したオールスター・セッション、ティピカ73。その卓越したサウンドを支えていたのが名ピアニスト、アレンジャーのソニー・ブラーヴォその人だ。今回ピックアップしたのは楽団結成から数えて4作目の長尺ナンバー。当初は長閑なキューバの味わいを感じさせていたが、この曲はディープで重厚なルンバ・テーマのサルサで、ティピカ73の挑戦が一つの完成を見た名曲。力強くて、少しセンチ。出だしの麗しいピアノから一転、堰を切ったような怒涛のアンサンブルを引き出して、ムラムラ度を押し上げる。クセの無いタッチながらも主張も強く、バランス感覚に長けたサルサ・ピアノが絶品。ソニーは、後にティト・プエンテの誘いを受けて80~90年代の専属ピアニストとして活躍。やはり本物だ。
ムラムラ度★★★★★
激熱ルンバ度★★★★★



■Hector Lavoe ‎/ De Ti Depende (FANIA RECORDS 1976)
focused track - A1: Vamos A Reir Un Poco
focused pianist - Joe Torres
 

 

「エル・カンタンテ」といえば、エクトル・ラボー!映画でその波乱の人生に感銘した音楽ファンも少なくないはず。そんなサルサ界不世出の歌手と互角に渡り合った(かどうかは解らないけど...)代表作「De Ti Depende」をピアノで支えたのが、「エル・プロフェソール(プロフェッサー=教授」と称されたジョー・トーレスだ。「シンプル、謙虚、親切、陽気、自発的、正確、才人...」とあるサイトでの彼への評(を直訳)が物語るように、真摯な姿勢で音楽と向き合ったサルサ・ピアニストであり作曲家。どのフレーズからも、その実直さと潜在的なIQの高さが窺い知れるような気もして。破天荒なラボーとのバランスが取れていたがゆえの名演なのかなぁ...とも思ってみたりするのも面白い。サルサ~ラテン音楽への貢献度の高さは計り知れない偉人。
ムラムラ度★★★★
サルサ・ピアノ教授度★★★★★


なんと!気づけば11人ものサルサ・ピアニストを焦がしてしまった..あちーっ。こうやって聴くサルサも良いもんです。次は何のパートにしようかなぁ。 そうそう、思えば昔、仕事を始めた頃に敬愛する上司が、とある記事で書いてた一言を引用すると、これだから...サルサ・ラヴァーは止められない! の気持ちですね。ぜひ、ミナサマもご参照あれ!

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