【アジア・インタビュー連載企画Vol.1】韓国のレコードショップDOPE RECORDSのオーナーKEVINさんに聞く韓国の音楽カルチャー

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2024.07.23

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アジア各国のレコードショップ・ミュージシャンにインタビューを行う連載企画をスタートします。


本連載企画では、アジア各国のレコードショップやミュージシャンにインタビューを行っていきます。その国の特徴地域での人気盤、カルチャー的側面なども探り紹介していくほか、旅行した際に寄っていただきたいミュージックスポットの紹介など幅広いトピックを扱っていきます。


第一弾として、韓国・ソウルのレコードショップ「DOPE RECORDS」のオーナーであるKevinさんにインタビューを行いました。DOPE RECORDSは、韓国ソウルにお店を構え、韓国でも随一の品ぞろえで有名なレコードショップです。Kevinさんにインタビューすることとなった経緯としては、インタビュアーであるディスクユニオンのスタッフが、韓国にレコードショップ巡りに行った際、DOPE RECORDSにもおじゃまさせていただき、内装であったり、陳列の仕方、価格帯、ラインナップなど様々な点において気に入り、それ以降何度か利用していたことがきっかけで、今回のインタビューにつながりました。


お店のアクセス方法などはこちら

→ホームページ : https://doperecord.com/shopinfo/company.html

→Instagram : https://www.instagram.com/doperecordskorea/




( 文 / インタビュー : ディスクユニオン・田川 )

韓国のレコ屋カルチャー、ミュージックカルチャーについて


ーまずは、韓国でのフィジカルアイテムの立ち位置がどういったものか、日本やその他の国とどのような違いがあるか教えてください。特にヴァイナルですと、レコードの人気が高まり各国で大きく値上がりしましたよね。アジア各国では、日本のように比較的求めているものが見つけやすいケースから、タイのように骨董化しており全く見かけることができないケースなど様々ですが、韓国でのヴァイナルの立ち位置はどうでしょうか?


そうですね。韓国ではヴァイナル文化に対する感覚は日本の方に近いと思います。 主に聴くことが目的ではありますが、コレクション的な価値という部分も確かに存在します。 ただ、店舗よりもオンラインショップの方が安いので、そちらをよく利用するところが日本とは少し違うと思います。ここ数年、韓国でもヴァイナル文化が再び始まり、それに伴って需要が高まり、価格も相当上がりました。例えば当店で言うと、2018年頃、80/90年代のK-POPのレコードは300円コーナーに数多くありましたが、今はそれぞれの価格が全て異なり、少なくとも1,000円以上はします。


ここ数年の推移についてなにか良い具体例があれば教えてください。


具体的に、ユ・ジェハ(YU JAE HA)のデビューアルバムの場合、2018年に1,000円程度で販売された記録がありますが、今はオリジナルプレスが10,000円台で取引されています。 (去年リイシューされるまでは15,000円まで上がっていましたね)


※ユ・ジェハ(YU JAE HA)

韓国歌謡史における重要人物のひとり、1987年にリリースした1stアルバム『사랑하기 때문에(愛しているから)』は、2018年実施の「韓国大衆音楽100大名盤」に見事一位で選出されているほか、過去に実施された同選定においても同様に上位を獲得しており、広く認められた一作。本作リリース後事故で急死してしまい、唯一作である本作は希少性も高く、オリジナル盤は近年非常に高騰している。



ー韓国でのアナログ人気や音楽嗜好など実際にレコード店オーナーとしてどのように感じていますか。また、具体的にDJの方、コレクターの方、若い方・・・などどんな方によくご来店いただいているのでしょうか?


そうなんです。ここ数年で韓国のアナログ市場も急成長し、もはや店頭やオンラインコミュニティで「まだLPを扱っているの? 」という話は見かけなくなりました。当店は主に若いMZ世代のお客様が多く来店されますが、それでも40~50代のジャズやヘビーメタルをお好きな方もたくさんいらっしゃいます。もちろん、韓国を訪れる旅行者や韓国駐在員、大使館にいる外国人も多く、また、芸能人がレコードやカセットテープを買いに来られることも多々あります。


※MZ世代 : 韓国でよく使われる「ミレニアム世代」と「Z世代」を組み合わした造語。


ー 幅広い商品を扱っているのもあってか、様々な方が来店されているのですね。カセットテープの話がありましたが、世界的にもレコードだけでなく、CDやカセットテープといった媒体のリバイバル現象が起きていますよね。それらの人気についてどのように感じていますか?


韓国ではレコードブームは2022年がピークだったと思います。 今はやや落ちついている状況ですが、まだまだアナログに対する需要は絶大です。カセットテープのリバイバルもありましたが、繰り返し再生時の音質の低下などに対して不満を感じることが多く、現在はCD需要が高まっています。



ー韓国でもCDのリバイバル現象があるんですね。CDの取り扱いが多いお店はなかなか無いのでこれは一つお店の強みかもしれませんね。


※韓国におけるCDリバイバル現象の例 : K-POPアイドルのAespaがまもなくリリースする予定のファーストアルバムに、CDプレーヤー付属ヴァージョンの「CDP版」が発売されることがアナウンスされ話題になっています。





DOPE RECORDSの特色など

ーDOPE RECORDSはどのようなお店ですか?

2017年に、より様々なオリジナルグッズをレコードと一緒に紹介するために設立しました。「LIFESTYLE RECORD STORE」として、音楽にまつわる様々なグッズを生活の中で楽しんでもらうために豊富なラインナップを揃え、楽しく買い物ができる空間を追求しています。


お店の名前にもなっている「DOPE」とは、なにかKevinさんがお好きなバンドや、ジャンルからの影響でしょうか?

ドープレコードは、前身であるロック専門レーベルDOPE ENTERTAINMENTからスタートしました。DOPEという意味自体が中毒という意味なので、音楽への中毒という健全な(笑)趣旨で始めた名前です。関係ないですが、DOPEというアメリカのバンドの曲も何曲か好きです。


ーDOPE RECORDSの特徴として、レコードの販売にも重点を置かれているほか、CDの棚、カセットテープの棚がしっかりされていますよね。韓国におけるCDのリバイバル現象であったり、韓国ポップスのCDやレコードに注目が集まっているというお話を伺いましたが、そういった点を踏まえ、陳列・品揃えにはどのようなこだわりを持っているのでしょうか?


CDやカセットテープは探しやすい収納を原則としています。J-POPも含め、AからZの順に収納しており、ジャンル別に分けるようにしていますが、常にその状態を維持することが容易ではないことを日々実感しています。

※韓国ではハングル順(ᄀᄂᄃᄅ(kanatara)順)で陳列しているお店も多数存在。韓国でレコードショップ巡りをしてみると、例えば、明洞と南大門の中間にある有名な地下街であったり、東廟あたりのフリーマーケット街に露店で構えるお店などは、基本ハングル順での陳列となっていることが確認できます。そのほかアジア圏の例としては、台湾の注音記号(ㄅㄆㄇㄈ(bpmf)順)による陳列なども、Digにも知識が無いと太刀打ちできないと思い知らされるケースがいくつか存在します。


ーアルファベット順に陳列してくださるお店は、外国人にも非常に優しいのでとてもありがたいですね。前にお店に伺った際、しっかりとジャンル分け・陳列がされており、求めているものを非常に探しやすかったことを覚えています。



ーCD、カセットテープは適当に山積みされているだけ、もしくは一律の金額に設定していたり、高すぎる値段設定をしているお店も少なくはないですよね。一方でDOPE RECORDSのように、CD、カセットテープ、そのほか雑貨やファッション用品、ポスターなど幅広いラインナップを揃えていたり、そのうえで良心的な値段設定をされているお店はなかなか珍しいという感触を持ちました。また、こういった点に対し、ディスクユニオンのスタッフとしてとても共感を覚えましたがいかがでしょうか。


おっしゃる通り、私はWAVEとディスクユニオンを長く愛用しており、2000年代に入ってからはディスユニオンの取り扱い方法を好んでいます。 しかし、個人的にはVGのような等級よりA、B、Cの方がはるかに合理的だと思います。非常に良いわけではないのになぜVERY GOODという等級を使うのか分かりません。



価格設定に関してはそうですね。レコードとカセットテープブームが始まった時点から、私たちは過度な価格の上昇を懸念してきました。実際、市場価格を守らずにお店の利益のことだけを追求することは、明らかにコレクターにとって悪影響を与え、長く続く趣味に繋がらなくなってしまうからです。


ーDOPE RECORDSでは、等級を「S、A、B、C」の4段階で表示されていましたよね。価格設定の考え方などを聞けて、より日本の方にぜひお店に来店していただきたいという思いが強まりました。





お店の売れ筋アイテム&おすすめアイテム


ー売れ筋の商品やおすすめのアルバムなどを教えてください。


よく売れたレコードは、KOREAN HIP HOPアーティストのC JAMM『Keung (킁)』です。


※2015年『Good Boy Doing Bad Things』をリリース、2016年には、Mnet「SHOW ME THE MONEY 5」で準優勝し華々しいデビューを飾る。薬物使用により一度はキャリアに曇りがかかったが、カムバック作『Keung (킁)』が、Korean Music AwardsにおいてAlbum of the Yearにノミネート、さらにはBest Rap & Hip Hop Albumを受賞を果たした。そのほかにも、Korean Hip-hop Awardsにおいて、Hip Hop Album of the Yearを獲得している。



基本DOPE RECORDSはポップミュージックに重点を置いています。しかし、よく売れているもの、人気のレコードを紹介するのであれば、いくつかおすすめがあります。 個人的には以下のレコードがおすすめです。(ただし、KOREAN MUSICのレコードはほとんどすぐに売り切れてしまいますが)


・신세계(邦題:新しき世界) 【MOVIE SOUNDTRACK】

ギャングや闇社会を題材とした映画のMASTERPIECEです!!本作は、秘密潜入警察を素材にした本格アクション映画で、日本でも2014年に公開されているので記憶にある方も多いのではないでしょうか。おすすめのトラックは「Big Sleep」です、韓国でもこの曲は非常に人気があります。




・나의 아저씨(邦題:マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜)【DRAMA SOUNDTRACK】

椎名林檎や坂本龍一も強くおすすめしていた一作です。韓国の国民的歌手IUの楽曲や、韓国インディ界の大物、イ・ヒムンが歌う「그 사나이(その男)」、유재하(前述のユ・ジェハ)の「내 마음에 비친 내 모습」のカバー作などを収録した豪華作になっています。



・SURL - of us  【KOREAN INDIE】



※SURLは、1998年生まれの4人組、ソル・ホスン(VO. / GT.)、キム・ドヨン(GT.)、イ・ハンビン(BA.)、オ・ミョンソク(DR.)からなる韓国発インディ・バンド。2018年に韓国国内で初のEP作品『AREN'T YOU?』をリリースし、数々の新人賞を受賞。2019年、2023年と2度の来日、全米ツアーも成功させ、世界的に注目を浴びる実力派バンド。

https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008841530


・Dark Mirror Ov Tragedy ‎– The Lord Ov Shadows  【KOREAN METAL】


 


※韓国が生んだ驚異のダーク・シンフォニック・ブラック・メタル・バンド。トレモロリフとブラストビートを主体とするメロディック・ブラック・メタルの王道サウンド。

https://diskunion.net/portal/ct/list/0/70453


ーサントラから、インディー、HIPHOP、メタルなど幅広いジャンルから紹介していただきありがとうございます。



ーそういえば、お店にはJ-POPコーナーが充実していましたよね、Kevinさんもよく日本にも来られているとお聞きしました。なにか韓国でのトレンドや売れ筋商品などはありますか?


韓国で人気のあるJ-POPは主にロック系が多いです。もちろん、昭和時代のアイドル音楽に懐かしさを感じる中高年層もいますが、基本的には現在の日本のトレンドと似ているようです。KING GNUや東京事変、RADWIMPS、ONE OK ROCK、あいみょん、そしてレコードショップを運営してからわかったのですが、嵐のようなex-JOHNNY’s系のファン層も意外と多いです。



ーでは次に、最近ディスクユニオン新宿ラテン・ブラジル館が公開した韓国レコードの買取リストについてお伺いしたいです。

https://diskunion-shinjukulatinbrasil.blog.jp/archives/24656411.html




ーDOPE RECORDSに前回伺った際、買取リストに掲載した、イ・ウンミ、イェ・ミィン、ユン・ヨンアなどを店頭でも販売されていましたが、韓国で人気のタイトルや、おすすめの名盤などをおしえていただけますか、掲載されていないものでもなにかありましたら教えてください。


はい、本リストを拝見しました。非常に充実した、よく整理されたリストだと思います。 大体、80/90年代の韓国ポップスのマスターピースがほぼ完璧に用意されていますね。すでにリストアップされている100枚のリストは、ほとんどをカバーしていると思います。ヘビーメタルファンとして1枚だけ、Crashのアルバム『Endless Supply Of Pain』をおすすめしたいです。

※韓国メタルシーンのトップ・バンドの1994年作、レコード移行が遅かった韓国でも1994年となるとプレス枚数が限りなく少なく高額盤になっている一枚。本作はTOYS FACTORYから日本盤がリリースされている。





おすすめのスポット


ー 次にお伺いしたいのは、日本人の観光客向けのおすすめスポットなどについてです。私が初めて韓国に旅行に行った際、韓国の音楽カルチャー、スポットのバリエーションの広さや豊かさに驚かされました。ミュージックバーやレコードカフェなど、おしゃれで最先端なスポットが韓国にはいくつかありますが、なにかおすすめはありますか?


はい、韓国に来る日本人観光客が多くなりましたね。 基本的に韓国人も音楽がとても好きなので、韓国には音楽バーがたくさんあります。最近は「LP BAR」と呼ばれているお店がソウルや釜山にもたくさんあります。もし韓国に旅行に来たら、ホテル周辺でGoogleマップなどでLP BARを検索すると、意外とすぐ近くにあるはずです。 ドリンクを注文して、リクエスト曲もほとんどのお店が可能です。マスターに翻訳機を使って韓国の80~90年代の名曲をおすすめしてもらったらどうでしょうか?このようなところでは最近の韓国のアイドルポップスは難しいですが、韓国のオールドポップスは大歓迎です!  


一軒だけおすすめするなら(もし、ホテルの場所から遠くないなら)、マスターが日本のオールドポップスにも詳しいここがおすすめです。


LP bar Woodstock, 신림 우드스탁 엘피바

https://www.instagram.com/woodstock.sillim/


様々なイベントが開催されているみたいですね・・・ぜひこの記事を読んでくださった方や音楽好きの方に行ってみてほしいです。LP BARも調べてみると本当にたくさんありますね。次に韓国に行った際には、ぜひ韓国のオールドポップスをリクエストしてみようと思います。




今回はインタビューに答えていただきありがとうございました。






韓国おすすめ商品一覧


記事で触れた韓国買取リスト掲載タイトルのリイシュー盤 ( DEUX(듀스)、LIGHT & SALT、YANG JOON-IL )、韓国のR&Bの近年作などいくつか入荷しています。こちらは今後も更新予定ですのでぜひチェックしてみてください!


韓国のアナログは非常にプレス枚数が少なく、ディスクユニオンでの入荷もごくわずかとなってしまっています。ディスクユニオンのアジア音楽アカウント(@diskunion_Asia)で最新情報を更新しているので、フォロー&チェックをお願いします!



本インタビュー記事は、メールインタビューによって行いました。

以下、原文になります。


翻訳

韓国語 : 李美來 (DOPE RECORDS)

英語 : ディスクユニオン・田川



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