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藤本敦夫とのプロジェクト、カラード・ミュージックが世界的に再評価され、独自の世界観でボーダレスにその表現をアップデートし続ける音楽家、橋本一子。
果てしなく繊細なアプローチのピアノ、ヴォーカルの概念を超越したヴォイシング、共鳴し合い増幅された深遠な響き。生まれていく美しきディープ・アンビエンス。
菊地成孔(as)、類家心平(tp)、藤本敦夫(dr, b)ら強力なサポートを得た、12年ぶり待望のソロ・アルバム。
闇、幻影、美しきディープ・アンビエンス。
ソロ活動や数々のプロジェクトを通じて、常に先鋭的な音楽表現を続ける橋本一子。藤本敦夫とのユニット”カラード・ミュージック”のデビュー・アルバムは、1981年のリリースから40年の歳月を経た今もクラブ・ミュージック・シーンに大きなインパクトを与え、『Ichiko』『Beauty』をはじめ80年代に発表した多くのソロ・アルバムは、現行のアンビエント/ニューエイジ・シーンやジャパニーズ・ポップスのリバイバル・シーンにおいてもワールドワイドに高い支持を得る。
彼女の音楽は時代、世代、国境を超えて、今なお多くの人々に共鳴し続けている。近年では、中村善郎とのボッサ・デュオで見せた軽やかな身のこなしや、昨年11月に公開された手塚眞監督作品『ばるぼら』のサウンドトラックで描いた光と影のコントラストなど、特定のジャンルやスタイルに括ることが無意味なまでに多彩なクリエイティビティを発揮している。
一方で、自身の名を冠したアルバムは長らく発表されていなかったが、待望の新作が遂に誕生した。2009年の『Arc'd-X』以来、実に12年ぶりとなるニュー・アルバム、『view』。橋本一子は今、何を見つめているのか。
自らがプロデュースを手掛け、彼女の音楽性を誰よりも理解する藤本敦夫がディレクションをつとめた本作には、書き下ろされた5曲のオリジナルと6曲のカヴァーが収めれられている。果てしなく繊細なアプローチのピアノ、ヴォーカルの概念を超越したヴォイシング。それらは互いに共鳴し合い、増幅され、深遠な響きを生む。藤本敦夫による微細な粒子を放つドラムとクールにグルーヴするベース、類家心平のエフェクティヴなトランペットと菊地成孔によるアルト・サックスの浮遊感、完璧なハーモニーを奏でる橋本眞由己のコーラス。参加したゲスト・ミュージシャンたちは、彼女の音楽に欠かすことのできないエレメントを明確に付与する。アルバムの全体像をかたちづくるその美しい響きの連なりには、これまでのどの作品にも増して、橋本一子という音楽家の本質的な身体感覚のあらわれを感じさせる。静謐な音の世界の内側にある、計り知れないほどのディープな身体性。彼女は自らの潜在意識の奥深くまで潜り、個の存在の先に浮かび上がる闇や幻視に身を委ねる。恐れ、悲しみ、祈りに共鳴した響きを呼吸しながら全身に振動させる。その振動はピアノの旋律やヴォイスへと姿を変えて、美しい音楽が生まれる。そしてまた、深く響いていく。
Inside, Outside. Don't be afraid.
Chee Shimizu
ICHIKO HASHIMOTO / 橋本一子