ユニオンバイヤーが行く!音楽コレクション観光/音盤同盟vol.2

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2021.11.24

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ユニオンバイヤーが行く!音楽コレクション観光 / 音盤同盟 Vol.2
インタビュー・文=山中 明
 
 
2021年9月都内某所。地下に誰もが夢見る広大なコレクション・ルームが広がる、aI氏の邸宅を訪ねてきた。そう、まさに邸宅という言葉がピッタリなご自宅で、階下に降りていくとまずその風景に圧倒された。膨大なレコード・コレクションを中心に、CDや書籍で壁という壁が埋め尽くされ、多種多様なオーディオ・システム、そしていくつもの巨大スピーカーがそびえ立つ、音楽愛好家の夢が詰まったような部屋だった。1950年代後半生まれのaI氏が、音楽に夢中になって早50余年。その間、レコードとオーディオに目一杯注がれた、氏の並々ならぬ情熱をお伺いしてきた。
 
音に目覚めたきっかけ
 
 
──まずどうしても目がいってしまいますが、すごいスピーカーが並んでいますね! いつからこういったオーディオの世界にのめり込んでいったのでしょうか?
 
大学を出た後に、中古で買ったJBL4320がきっかけだね。お茶ノ水のオーディオユニオンで買ったんだけど、当時中古で40万円ぐらいだったかな? その時は知らなかったんだけど、1970年代にアビー・ロードで導入されていたモニター・スピーカーなんだよ。ピンク・フロイドの『炎』とか『狂気』とか、その時期はみんなこのモニターを使っていたね。
それまでのアビー・ロードでは、こっちのアルテックの銀箱(アルテック612、通称「銀箱」)が使われていたんだよ。ビートルズともよく一緒に写真に写っているしね。これで50年代のジャズとか、60年代のUKロックとかを聴いているよ。それと、あっちのJBL4344では、スティーリー・ダンみたいな70年代後半の音楽を聴いているね。
あと、イコライザー・カーブにもこだわってるかな。色々変えながら聞いて楽しんでるよ。

 
──レコードによって使い分けられているんですね……うらやましい限りです。では、音楽との出会いはどのようなものだったのでしょうか?
 
育ちは東京で、父が会社を営んでいたんだけど、家の裏手に会社寮があったんだ。そこには大勢の人がいたから、毎日たくさんの音楽が流れてきて、知らず知らずのうちに色んな音楽を耳にしていたんだよ。ビートルズはその時に初めて聴いたんだけど、たしか「アイ・フィール・ファイン」だったな。
そして中学生になってからは、自分でレコードを買うようになったね。その時、ロックの先生みたいな人がいたんだけど、その人にまずはこれを聴けって教えられたのが、オールマン・ブラザーズ・バンド『フィルモア・イースト・ライヴ』、ビートルズ『リボルバー』、ローリング・ストーンズ『アフターマス』、ディープ・パープル『イン・ロック』、あとピンク・フロイド『原子心母』だったかな。
 
当時のレコード屋事情
 
 
──その時には色々なレコード屋に行かれていたと思うんですが、どのようなところで買われていましたか?
 
お茶ノ水の小学校に通っていたから、ユニオンレコード(ディスクユニオンの前身。2018年に新宿、2019年には渋谷で復活)も知っているよ。あと中学生の時には丸善の上にあって、ディスクユニオンにはその時からずいぶん通っているよ(笑)。
 
──私が生まれる前から通っていただいてるとは……筋金入りですね(笑)。
 
その時は、バーゲン品を除けばイギリス盤が3,500円から3,800円、アメリカ盤が2,300から2,800円、そして日本盤が2,000円ぐらいだったけど、なるべく輸入盤のLPを中心に買っていたよ。国内盤が出るまでにはタイム・ラグがあったし、待っていても出ないこともあったしね。だから重宝したのは、輸入盤がたくさんあった秋葉原の石丸電気とヤマギワだったね。特にヤマギワの一番上は結構穴場だったなぁ……。今思えばあの時買っときゃよかったっていう、UKの激レア盤もいっぱいあったよ(笑)。
そして1980年代になってからは、タワーレコードができて環境は激変したね。それまでシングル盤を手に入れる時は苦労していて、米軍の基地に出入りしている友達に買ってきてもらったりしていたよ。でもタワーレコードができて、普通に店頭に並ぶようになったからね。あとは中古も買っていたけど、行っていたのはハンターぐらいだったかな? まだ中古市場は大きくなかったと思うしね。
 
 
オリジナル盤を買うようになったきっかけ
 
 
──そのあともロックを中心に聴かれていたんですか?
 
80年代になってMTVが全盛期になった頃には、ストラヴィンスキーとか管弦楽の虜になったんだよ。でも、90年代に入ってから家族の不幸が続いて、そこへバブル崩壊も重なったんだよ……。色々なことが立て続けに起こって、管弦楽を聴く気分じゃなくなっちゃって。それでまたロックのエネルギーが欲しいって思うようになって、また聴くようになったんだ。
でもクラシックを聴いていたおかげで、ずいぶん前からラベルとかマトリクスとかにもこだわっていたんだ。(詳細なレコード情報が記載された、国内盤レコードの解説文を見ながら)ほら、クラシックの人はずいぶん前からこういうことを書いていたんだよ。その影響もあって、そのあと90年代中頃にロックをまた聴き始めた時には、自分で研究を進めながらずいぶん買ったね。

──そうしてまた始まったレコード収集が、こんなにすごいコレクションになったんですね。
 
特に集めようと思ったわけじゃなくて、聴いているうちに増えていっただけだよ。定期的にまとめて売ったりもするんだけど、でもまた買っちゃうんだよ(笑)。あと買う時には状態にもこだわっているんだけど、そうじゃないとディスクユニオンに売る時に、安くなっちゃうからね(笑)。
 
──たしかにきれいな方が値段も付きやすいですね(笑)。最後になりますが、ここ最近は「レコード・ブーム」と言われていますが、なにか変化を感じますか?
 
たしかに若い人で買う人が増えたと思うけど、ブームっていうよりも、また戻ってきたっていう感じかな。ブームで片付けられると、ブームが終わればおしまいになっちゃうしね。
とにかく、レコードは楽しいよ、自分だけの世界が作れるよって、若い人には伝えたいな。レコードを聴いていると、もし嫌なことがあっても、その時間は忘れさせてくれるしね。辛いことがあって悶々と悩むんだったら、レコードを聴いて寝る。それが一番だよ(笑)。
 
 
インタビュー終了後、このオーディオ・システムで貴重なレコードを思う存分堪能させていただきましたが、その圧巻のサウンドにドキドキしっぱなしでした。全身で音圧を受け止めるような音量感でありながらも、細部までクリアに鳴り響く音の数々……自身にとっても、かけがえのない音楽体験となりました。私もかつて、こうして素晴らしいサウンドを体験して(しまって?)、レコードやオーディオにどっぷりハマってしまったんだなぁ……と物思いにふけりながら帰路についたのでした。
 

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