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曽我部恵一、コロナ療養中に制作したアンビエントアルバムがLPリリース。
2022年7月末に新型コロナウイルスに罹患した曽我部恵一がその療養期間中に制作したアルバム『Memories & Remedies』。
自身の最大の武器である歌と言葉から離れ、抽象画を描くように音のレイヤーを塗り重ねた先に見えてくる世界。手短にあるいくつかの楽器を使い演奏録音されたこのアンビエント作品は、聴く者の感情の奥深い部分へアクセスし、様々な記憶や風景を呼び起こさせる。
曽我部が病床で幻視したかも知れない遠い景色を想像させる「父の肖像 -Portrait Of Father」「母の住む家 -House Where Mother Lives」というタイトルが冠せられた曲たち。始まりも終わりもないようなサウンドスケープの奥から、言葉のない世界で語られる果てしのないストーリーが聴こえてくる。
高熱が続いた後、半ば無意識に導かれながら紡いだこのアルバムの中に、コロナ禍における音楽のあり方の彼なりの模索を見て取ることもできる。それは個の内に存在する愛やぬくもりの手触りを再確認させるものであるだろうし、分断された希望を繋ぐための調和をもたらすもののはずだ。
シューゲイザー的エモーションが渦巻く最終曲は、ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』に倣い「コロナの時代の愛 -Love In The Time Of COVID」と題された。時代に翻弄されることから逃れられない音楽家の、あるドキュメントだ。
7月の末にコロナに罹った。
40°C手前の熱が4日ほど続き、動けずモノも食べれず、こんなにきついことは、肉体的なことに限って言えば、人生であまり経験したことがなかった。
ライブもいくつか中止になってしまったし、熱が下がったらまた少しづつでも歌いはじめなきゃと思っていたが、実際よくなり始めても音楽に向かう気持ちがぜんぜん持てない。レコードをターンテーブルに載せる気持ちにもなれないのだ。
ひょっとしたらこのまま無気力な人間になってしまうのでは、と、そのことがいちばんの不安だった。いやむしろ、不安感もそこまで感じなかったかもしれない。感情が、うまく出てこないのだ。
そんな療養期間にリハビリのつもりで、これらの音楽を作った。
ただ没入することができる音の方へ、一日の少しの時間をパソコンに向かって録音した。だれに聴かせるつもりもなかった。一曲録り終えるとぐったりして、後の時間は一日中ずっと寝ていた。
曽我部恵一
KEIICHI SOKABE / 曽我部恵一
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Memories & Remedies(LP)
2,050円(税込)
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