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アントニオ・ロウレイロ、ジョアナ・ケイロス、フレデリコ・エリオドロ、アレシャンドリ・アンドレス・・・。現在のブラジル音楽シーンにおいて確固たる存在感を見せるミナスの音楽家たち。アフォンシーニョやヘナート・モタらの次世代にあたる彼らだが、そんな中でもどちらかと言えば年長の部類であり、中心的存在となっているのがこのハファエル・マルチニだ。高橋健太郎氏によるミュージック・マガジン誌での「新世代南米特集」でも取り上げられ日本での知名度もグッと高まったが、そもそもアントニオ・ロウレイロらとともにミストゥラダ・オルケストラやグルーポ・ハモといったバンドで先鋭的な活動を続けてきたアーティストでもあり、才能あふれるミナスの若手たちの間でも一つ抜けた存在である。
初のソロ・アルバムとなった本作は、ハファエルが日頃より活動する仲間たちとともに都会から離れた田舎に集まり、短い期間でレコーディングされたという。録音現場の親密な空気も収めているあたりは40年前にリリースされたミルトン・ナシメント達の名盤『クルビ・ダ・エスキーナ』を連想させるところがある。
"Canção da Voz"に始まり、オーケストラのような緻密なアレンジとブラジルらしい歌心、そして高度でありながらも躍動感あふれる演奏が繰り広げられる全8曲。まさに今のミナス・シーンの若手達が作り出す音楽がたっぷりと収められている。全曲聴きどころに溢れているが、アカ・セカ・トリオのマリアーノ・カンテーロも参加し、コンテンポラリー・フォルクローレ的なリズム・フィギュアを取り入れた "Consuelo"(まるでプエンテ・セレステみたい!)、全盛期のエルメート・グループからエレクトリック・マイルスまでを彷彿させる混沌極まる"Convite"、優秀な女性歌手でありハファエルの奥様でもあるレオノラ・ウェイスマンが素晴らしいスキャットを聴かせる"Baião do Caminhar"がまずはオススメだ。とりわけ"Baião do Caminhar"は躍動するアレグリア(喜び)といった感じで何時聴いても高揚せざるを得ない。
オリジナリティに溢れていながらも決してアヴァンギャルドではない。連綿とつながる古今のサンパウロ~ミナス~ブエノス・アイレス・シーンの遺伝子が進化した最新型とでもいえばいいのであろうか。ブラジルの音楽が今世界で一番面白い。そう確信させてくれる彼らのシーンを切り取ったかのような本作は、間違いなく2012年を代表するアルバムとなるだろう。
【Musicians】
Rafael Martini - piano vo.
Alexandre Andrés -flute
Joana Queiroz - clarinet
Jonas Vitor - saxofone tenor
Felipe José - flute
Trigo Santana - contrabaixo / cello
Antonio Loureiro - drums
Yuri Vellasco - drums
Edson Fernando - percussion
【Guest Musicians】
Marcos Frederico - bandolim (track #3)
Sérgio Krakowski - pandeiro (track #3)
Leonora Weissmann - vo. (track #2)
■ブラジル・インストゥルメンタル・ミュージック・ディスクガイド掲載品■
Rafael Martini はミナスの大所帯楽団Misturada Orquestra をはじめ数多くの作品に関わるミナス新世代シーン~現在のブラジル産ジャズの中心にいるピアニスト/作編曲家/プロデューサーだ。ミナスの大農場に立てられたプライベート・スタジオで仲間達と録音したという初の自身名義作は、そんな和気藹々とした雰囲気をそのまま収めたようなカルテット~大編成アンサンブルと、新世代らしい緻密な楽曲構成が同居する聴き応えある一枚に。アルゼンチンからAca Seca Trio のMariano Cantero も参加するなど、周辺地域にまで波及する彼らの動きは今後も見逃せない。
(ディスクガイド・レビューより)
渋谷ジャズ・レアグルーヴ館 江利川侑介
RAFAEL MARTINI / ハファエル・マルチニ