2020.12.25
混沌と不安に満ちた2020年に彼女たちが新たな作品を世の中に啓示した意味とは?
アルバムのコンセプト、そして今の音楽の在り方について
SPOOLのフロントマンであるVo.こばやしあゆみにインタビューしました!
-前作の1stアルバム『SPOOL』から1年10ヶ月ぶりとなる2ndアルバムですが今回の制作期間は?
「SPOOL」をリリースして4月に発売記念のイベントをやって、その後2019年の夏頃からちょこちょこ録り始めて今年の夏に録り終えたので、ちょうど1年ぐらいですね。
-最初からアルバム用として録り始めたのですか?
そうですね。今の時代は1曲ずつ単体・配信で出していくという流れがありますがわたしとしてはこんな時代だからこそ、フルアルバムを出したいというのがあって。ただ聴く人の立場からするとアルバム1枚を通して聴くのは時間や労力もいるし・・・どうやったら飽きずに聴いてもらえるかというのは考えました。前作もそうだったんですけど、通勤や通学の30~40分くらいの移動中で自然に1枚聴けるような長さを意識して作りました。
-確かに配信も含め、アルバムや作品をリリースすること自体、ミュージシャン側も考える時代ですよね。
受け入れつつ、流されすぎないバランスは大事だと思います。「スーサイド・ガール」を先行シングルのような形で配信リリースしたのはその流れがあったからこそというのもありますが、その曲がアルバムに入ることによってまた違う聴こえ方がすると思いますし。
-制作や活動をしていく上でコロナの影響はありましたか?
すごくありましたね。今年は2月以降ずっとライヴをやってなくて、3月以降も決まっていたんですけど中止になってしまい。外に向けて発信する機会だったライヴが無くなってしまうことで精神的に落ち込んだり、どこに向けてやっているのかが分からなくなって。その中で今できることといったら作品を出すことなんだと思って、絶対今年中に出すぞと。ライヴは一旦この機会にお休みして、作品を作ることに集中してみようという考えになりました。
-レコーディング時のエピソードがあれば教えてください。
やはり不安が大きかったので、レコーディングの時はピリピリしてましたし、怒ったり泣いたり辛いことの方が多くて。アルバムにもそのギスギス感は反映されていると思います(笑)
-作品に集中することによってハードルが上がってしまった部分もありましたか?
良いものを作らなくてはいけないというプレッシャーはありました。この状況だからみんなも気持ちが下がったりはしていたんですけど、わたしは逆境の方が燃えるタイプなので、しんどい時こそ「やってやるぞ」と思ったし、自分がやっていかないとバンドとしても動いていかないし。そのプレッシャーとの戦いは辛かったけど作品として良い方向にいったと思いますし、モノを創るっていうのはそういうことだと思います。
-今作はM-1「opening」とM-10「ending」を設けたことでコンセプト・アルバムのように感じますし、ある意味、王道のような作り方が逆に新鮮でした。
学生時代に聴いていたバンドがそういったコンセプト作品が多くて、自分たちもやってみたいなと思いました。
ストーリー構成にするのも良いなと思って。
街の雑踏から耳を塞ぎたく階段を下って地下に入る(opening)、ドアを開けたらそこに「cyan」と「amber」の物語の世界。そしてまた階段を登ってドアを開けて元の現実世界に戻っていき、羽ばたいていく(ending)という設定です。聴いているあなた自身がこの物語の主人公みたいな、そんなコンセプトです。
-「cyan」と「amber」は一般的に色のことですよね?
そうです。これも好きなバンドの話になってしまうんですけど、「赤盤」「青盤」とか「白」「黒」とか、対になっている作品が良いなと思っていて。
-具体的に影響を受けた対になっている作品はありますか?
ビートルズの『1962~1966(赤盤)』『1967~1970(青盤)』もそうですが、ポルノグラフィティの『PORNO GRAFFITTI BEST RED'S』と『PORNO GRAFFITTI BEST BLUE'S』や、ゆらゆら帝国の『ゆらゆら帝国のしびれ』と『ゆらゆら帝国のめまい』とかですかね。
今作の場合「cyan」と「amber」の2色に分別してそれをまた1枚の作品にまとめたという感じです。ブルーとオレンジだとストレート過ぎるし、逆に普段から耳にしていないような色の表現だとしっくりこないと思って。青をシアンと言い換える表現やシアンという言葉自体の響きもいいなと思ったし、アンバーは琥珀色なんですけど鉱石や宝石を表しているという意味でも、自分の作っている曲と頭の中で描いている色がマッチするなぁと思って付けました。
-色のイメージもそうですが、先ほどのストーリー構成のお話も興味深く、どういったところから着想されるのでしょう?
うーん、具体的にこれというよりかは今まで生きてきて触れてきたもの、音楽、映画、小説などの作品や関わってきた人すべてが混ざり合っているんだと思います。
-アルバム・タイトルが『cyan/amber』ですが「cyan」と「amber」の曲としては最初からあったのですか?
後からですね。アルバムのタイトルは先にできていて、M-4「スーサイド・ガール」やM-5「ghost」は配信で出していたし、「opening」と「ending」を入れることも決まっていたので、そこからパズルみたいに足りないピースとなる曲を当てはめていって最後に表題曲となる「cyan」「amber」の2曲を作ったという流れです。
-やっぱりアルバムの真ん中で区切りとして分けたんですね。アナログ盤で言えばA面/B面みたいな。
そうです。「amber」の始めにカセットテープのスイッチ音を入れてるんですけど、それはB面に切り替わりましたという合図の音です。
-M-8「アリスとテレス」のタイトルの付け方も面白いですよね。
この曲はできた瞬間パッとひらめくような形でタイトルが浮かんできて。
おとぎ話の世界に住んでいる女の子アリスと男の子テレスの空想世界って感じですね。
-言葉遊びも面白いのですが「スーサイド・ガール」配信リリース時のインタビューでもありましたが、韻を踏むということも意識されていますよね?
曲から先に作るということもあって伝えたいことがあるというよりも、言葉の響きを常に意識していて書いているので、その影響で韻を踏むようになったと思います。それと自分の中で大切にしている部分として、情報量を多くしたくないというのがあります。聴く人に自由に想像してほしいから余白を残すようにしてますね。
-詩の部分でミュージシャン以外に影響を受けた方はいますか?
小説ですかね・・・文章が並んで塊になっているのを見たときに、配置とかバランスが綺麗で余白が多いものが好きです。特に女性の作家さんの作品が好きで・・・吉本ばななさんとか、江國香織さん、小川洋子さんの作品の言葉の表現って柔らかくて、漢字で表現してもよいところを「ひらがな」にしたりとか。自分で歌詞を書くときも視覚的に見たときに柔らかい印象になるように仕上げています。そういった意味で、詩の部分では影響を受けているかもしれないです。
-女性は柔らかくもあり核心を突きますよね。
野生の感というか直感が鋭いんですよね。何となく分かってしまうんですよ、考えてるというよりもピンとくるというか。
-恐いですね(笑)
自分でも恐いなって思います。それが4人集まってますからね(笑)
-「女性バンド」にこだわりはありますか?
男性が入ったらまた違うものが生まれるんだろうけど、この感じは出せないと思うので、男性は入れません(笑)
女子だけでやってやるぞ!という、わたしたちの意地でもあります。
-話を作品に戻しまして、M-3の「あめ」が今作の中でも印象的で、あえてメロディをズラしているというか、不協和音的な感じが耳に残る曲ですよね。
19才くらいの時に作った曲なんですけど、気に入っていた曲だったのでブラッシュ・アップさせて作品化したいなと。
J-POPでいう一般的なAメロ→Bメロ→サビ→Aメロ~ みたいな反復の概念があまりなくて・・・Aメロ→Bメロ→Cメロ→Dメロで常に進んでいく感じの曲作りが多いんですが、この「あめ」はその中でも独特だし、今の自分ではもう作れない曲。
ソニック・ユースが好きだなぁって・・・それで自然と収まりが悪いのが落ち着いてしまうんですよ。そういう意味では一番オルタナ色の強い曲かも知れない・・・。
-アルバムの3曲目は、いわゆるリード曲をもってくる位置かと思うので、これもこれで凄いなと思いました。
「cyan」側にリード曲の「スーサイド・ガール」と「ghost」が続いているのもアルバムの構成として珍しいと思いますね(笑)
というのも、ストーリー的に「スーサイド・ガール」が死んでしまって「ghost」になったというジョークも織り交ぜたいなって。
「cyan」側が“死”だとしたら「amber」側は“生”がテーマで、どん底まで落ちてしまうけど、また生き返って浮上していって最後は天使になって世界へ羽ばたいていく(M-9「天使のうたごえ」)というストーリーです。
-落ちたままで終わるのではなくて良かったです(笑)
このアルバムを聴いて何かが変わるということではないと思いますが、自分と同じように生きづらさを抱えている人を少しでも楽にさせてあげたいなという宿命みたいなものは感じて音楽をやっている気がします。そこは喜んで背負っていきたいです。
-配信リリースの「スーサイド・ガール」と「ghost」はアルバム収録の際にミックスを変えています?
配信用、CD用、アナログ用でミックスを分けています。5月にリリースした『ghost/tip of a finger』(7”)のアナログ盤の良さもぜひ味わってもらいたいですし、それぞれの違いを楽しんでもらいたいですね。アルバムはヘッドホン・ミュージックのような感じで通勤・通学で「行きたくないなー」という時に聴いてもらいたいです(笑)
-前作までと比較して音作りが変わった印象を受けました。
一番は自分たちの意識が変わったことが大きいです。
前作は籠っていてフワフワしているような浮遊感を意識して作っていたんですけど、今回は透明感のある音像で輪郭をはっきりさせたいというのをエンジニアさんとも相談したし、レコーディング時でもそこは意識しました。
作品としてオルタナティヴ・ロックだという意思表示はできたかなと思います。
-オルタナの中にある一つのジャンルをシューゲイザーだと考えた場合、源流に戻っているという感じはしますね。
芯は変わってないですけど、表現の幅や曲や歌詞の世界観を考えると、大元に戻っている部分はあるかも知れないですね。J-POPって音像うんぬんではなく音楽そのものの浮遊感があって。そこに行きたいという気持ちもありますし、なによりもっと多くの人に聴いてもらいたい。アルバムによってカラーや表現の仕方が変わるバンドでありたいと思っています。まだ成長途中の段階ですが、ジャンルの枠を超えるようなものを作れるようになりたいなと。
-1stアルバムは文字通りデビュー作で、いわゆる3rdアルバムで爆発するとしたら、2ndアルバムは過渡期となる作品が多いですよね。
本当に過渡期です(笑)どっちに行くんだろうという曖昧さがありますよね。ホップ・ステップ・ジャンプで言うところの「ステップ」の作品ですね。
-CDパッケージが凝った作りですが、今の時代にフィジカル作品を出す意味を考えますか?
今はSNSやサブスクが普及していって、モノとして実際に手に取って触れる機会が減ってしまったからこそ、ジャケットの仕様をこだわって作ってみようって思ったんです。透明の歌詞カードが1枚ずつあってそれを重ね合わせると、1枚の絵(ジャケット)になるんです、素敵ですよね。宝物っぽく所有欲を満たしてもらえるものとして。
-こうしてお話を聞いていると、こばやしさんご自身がバンドを宝物と感じているような気がします。
そうだと思います、バンドは自分が自分でいられる場所なんです。アルバムを出してその思いがより強まったような気がします。
-今後の展望をお聞かせください。
無事こうして新しい作品をリリースして世の中に発信できて本当にうれしいです、来年はバンドとしての成長を感じてもらえるようなライヴができるように頑張ります。
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