2021.05.28
1) 『Golden Earth Girl』 Paul McCartney 【1993年 アルバム『Off The Ground』】
この美しいメロディは定型から大きくはずれたコード進行によって作られています。他に同じ進行をもつ曲はなかなか見当たりませんが、あくまでも自然に流れるメロディをもつ楽曲として聴くことができます。流れるように聴こえていても、コード進行などが定型からはずれている。その構造が実は〝耳に残る〟秘密なのです。
2) 『Daytime Nighttime Suffering』 Wings 【1979年 シングル『Good Night Tonight』B面】
思いついたメロディをどのような順番で組み合わせて曲にしていくのか? 同じパートを繰り返すときにアレンジをどう変えていくのか? この曲には思いつくかぎりの方法と技術が注ぎ込まれていると言っても過言ではないでしょう。曲中のサビをイントロに変奏する例は一般的ですが、アウトロでも変奏して終止させる作り方は見事です。他にもヴォーカルの割り振り方などなど、彼のスタイルの真骨頂のような曲です。コード進行よりメロディの組み合わせで曲を展開させていくところも〝ポール流〟そのものですね。
3) 『Heart Of The Country』 Paul& Linda McCartney 【1971年 アルバム『Ram』】
なんといっても中間部の展開。このフレーズを〝思いついた〟ことが、この曲を異様なる魅力に仕立て上げています。この展開部は分析しても意味がない典型例ですね。「なんですか? ここは? 」としか言いようがありません。この曲が収録されているアルバム『ラム』、ソロ以後のアルバムとしてはオールタイム・ベストとして挙げている人が多いのは、この曲のように「定型から逸脱しようとするポールの意識」が全開だからだと思っています。
その意識の源泉は自分を追いやった当時のビートルズ、彼を取り巻く状況に対しての怒りでしょう。彼の〝怒り〟が感じられるアルバムは『ラム』だけです。ネガティブである感情すらも強度ある作品に反映させてしまう「〝全身音楽家〟ポール・マッカートニー」。(ちなみにジョンもポールへの怒りを転用させて曲を作っていますね。ポジティブ、ネガティブにかかわらず、感情の揺れは創作に転用可能なんです。)
4) 『Silly Love Songs』 Paul McCartney & Wings 【1976年 アルバム『Wings at the Speed of Sound』】
私のポール・マッカートニー・ベストソングです。同じコード進行《C~Em7~FM7》でベースラインふくめて6通りのメロディを組み合わせています。
おそらく最初にBサビの“I love you”のメロディを彼は(鼻唄などで)思いついたのではないでしょうか。4分音符でシンプルなメロディ〈ソ~レ~ミ~〉―― その肝は〈レ(love)〉がコード《Em》におけるセブンス(7th)、〈ミ(you)〉がコード《F》におけるメジャー・セブン(△7)のテンション・ノート(主要3和音以外の音)になっていることでしょう。思いついたメロディにコードをあててみたら見事なテンションを含んでいた ……「これは使えるぞ」と自覚する瞬間です。そしてAメロを考え出して展開していくうちに、同じコード進行で多種のメロディがからむ楽曲構成を思いついた。
この曲におけるメロディは〝意識的なメロディ作り〟その作例として、ポール流のわかりやすいメソッドが使われています。まずはメロディの出だしの音をコードの構成音(主要3和音)で分け、休符を使って出だしのメロディの入り方、リズムの縦割りをずらす。その後は大きな起伏を思い描いて、メロディを振り分ける。
Aメロは(アタマに)休符を含んだ8分音符を中心に作られ(試しに、出だしを〈ン〉と休符を入れずに歌ってみて下さい。メロディ全体が崩れてしまいます) / Bメロのサビ“I love you”は4分音符のみのメロディ / “I can't explain the feeling's ~ ”ではじまるCメロは上昇と下降を繰り返す(アタマに休符はなし) / 間奏を挟んでのDメロ“How can I tell you about my loved one”はアタマに4分+8分の休符が入り、メロディが下降していく …… 歌メロがそれぞれカブらないよう、意図的にメロディの流れが作られています。休符の使い方を工夫して、メロディが縦軸で重ならないように調整しているんですね。
和音構成としては、Aメロの最初の音は〈ソ〉、Bメロサビはその1オクターブ下の〈ソ〉、Cメロは〈ド〉、Dメロは〈ミ〉です。4種の歌メロをあわせればこの曲のKeyでもある《C》の主要3和音《ドミソ+ソ》になるのです。ちなみにブラスによる間奏のメロディはアタマに4分休符が入り〈ソ〉から始めるメロディです。そして曲の最後で3種の歌メロが重なる瞬間の美しさ。
この曲は何度聴いても心が動かされます。だからこそ〝曲の作り方〟を分析してみたくなるのです。すると、そこには〝ポール流の(かなりシンプルな)メソッド〟がみえてくるのです。〝ポール流〟を学んでみるとしたら、『Silly Love Songs』のコード進行で新たなメロディを作り、組み合わせてみるのもいいかもしれません。ポールが実践していることをなぞってみる練習方法ですね。
そして間奏前のミドル・エイト(ブリッジ)、ブレイクの重要性。ストリングスと管楽器の(シンプルかつ効果的で)見事なアレンジ。そして全編リード楽器のように響くポールのベースプレイ。その存在感はかつて彼がエンジニアに求めたベース・サウンドそのものです。
このように『Silly Love Songs』はポールが体得している作曲メソッドとサウンドに対する意識が丸ごと込められているような楽曲なのです。
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