ディスクユニオン ジャズスタッフ 11月度レコメンド・ディスク

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2023.11.30

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




ALBERT AYLER / MORE LOST PERFORMANCES REVISITED / JazzTOKYO 西川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008753919


EZZ-THETICSのリヴィジテッド・シリーズからアルバート・アイラーのレア音源をまとめたCDが入荷。全てREVENATのHOLY GHOST : RARE & UNISSUED RECORDINGS (1962-1970)ボックスからの既発音源となる。(1)~(3)は1967年ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのパフォーマンス、(4)はジョン・コルトレーン葬儀時の演奏、(5)はセシル・テイラーのトリオにアイラーが加わったコペンハーゲンでのライブ。現在ボックスは廃盤ですが、選りすぐりの音源が一枚にまとめられているので聴きやすく、どの演奏も迫力のあるパフォーマンスが魅力的だ。(4)の音質は落ちるが、教会での響きも生かされて熱くも神々しい演奏に心が震えてしまう。





WILLIAM HOOKER / Flesh and Bones / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008755922


2023年の今も70年代ロフトジャズ/80年代変異種アヴァンギャルドの血脈が受け継がれていることを嬉しく思う。圧倒的な熱量のWilliam Hookerの爆裂ドラムに煽られて、サックスとエレクトリック・バイオリンが狂おしく絡み合う8曲目が個人的に最高な聴きどころ。





STEVE LEHMAN / Ex Machina / 新宿ジャズ館 木村、JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008721992


ざっくりな感想としては、スティーヴ・コールマンとジャズラージアンサンブル(かなりフリー寄りな音楽にも対応可)が共演したみたいでかっこいい!
そうは言いつつも、スティーヴ・リーマンをほぼ聴いてなかったことや、スティーヴ・コールマンを聴き込んではいない事をこの際白状します。
でもトリッキーなサックスフレーズがアヴァンギャルドな雰囲気ぷんぷんの管弦楽団の上で繰り広げられる様は、驚きを覚えつつグッと引き込まれてます。
共演のJonathan Finlayson(TP), Chris Dingman(VIB), フランス国立ジャズ管弦楽団(ONJ)と共にSTEVE LEHMANが目が離せない存在になりそうです。(新宿ジャズ館 木村)


11月も末。スーパーに陳列された灯油缶や鏡餅に妙な侘しさを感じずにはいられない、苦手な季節である。一方で、現行音楽ファンにとっては、年間ベストの検討が楽しい季節でもある。X(旧ツイッター)音楽界隈は今年も、誰に命令されたわけでもなく、謎の使命感に突き動かされて今年の重要リリースを振り返るオタクたちで、例年通りの賑わいを見せている。というわけで、年間ベスト級の新譜をご紹介。フランスの名門ビッグバンド、ONJこと国立ジャズ管弦楽団と、NY出身でティム・バーンの後継者ともいわれる前衛サックス奏者、スティーヴ・リーマンの共作『エクス・マキナ』である。形態としてはビッグ・バンド・ジャズという古典的かつ大衆的なものではあるが、実際の態様はまるで違う。放たれた音のすべてがIRCAM(ポンピドゥー・センター内の音響研究機関)のシステムによってリアルタイムで変成され、即興演奏が孕むそれとはまったく異質の緊張・圧迫となって作品全体に横たわっている。Photoshop加工による予測不可能なイメージの形成が常識化した現代写真アートと非常に似た現象がそこでは起きている。こうした類の試みが古典的形式でもって、しかも国立の楽団・研究機関によって遂行されているというのはかなり興味深い事実である。(JazzTOKYO 菅原)





HAROLD LAND / Peace-Maker(LP/180g) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008741753


待ちに待った嬉しい久々の再発!中古LP, CD共にプレミアがついてしかも中々見つからないから、この再発盤は6,160円するけど相対的に安いので即買いした。
このアルバムから始まるHAROLD LANDとBOBBY HUTCHERSONの双頭コンボはモーダルな演奏するHAROLD LANDがカッコ良くて大好きで、正直に言うとJOE HENDERSON類似(雰囲気)の分類で愛聴している。
また、JOE SAMPLE(P)の新主流派ど真ん中の演奏や、BUSTER WILLIAMS(B)のふくよかで厚みのあるアコースティックな音もひとときの煌めきの記録として素晴らしいと思う。これ以後このメンバーでの録音が無い点でも貴重なアルバム。





JEANNE LEE / Conspiracy / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1006618829


JEANNE LEEと言えばRAN BLAKE(P)との静謐な対話を聴ける「The Newest Sound Around」が印象的だが、ソロデビュー作「Conspiracy」でもハスキーなウィスパーヴォイスは魅力全開で、GUNTER HAMPELやSAM RIVERSが脇を固めるアヴァンギャルド色強いメンバー達との相性もバッチリ。





LUTHER THOMAS / Funky Donkey Vol. 1(LP) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245776457


LUTHER THOMAS HUMAN ARTS ENSEMBLEの1973年ライブ盤のアナログ・リイシュー。
LESTER BOWIE(tp)やCHARLES BOBO SHAW(ds)らフリージャズ/レアグル系ミュージシャンらによる熱気で蒸せかえるファンク名演!
もっともっと有名になって良い作品!
レアグル名盤のBYARD LANCASTER率いる「SOUND OF LIBERATION」が好きならば、このアルバムも必ずハマるはず!!





Miguel Atwood-Ferguson / Les Jardins Mystiques Vol.1 / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739475

ミゲル・アトウッド・ファーガソン / LES JARDINS MYSTIQUES VOL.1(国内盤CD)

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739470


念のため説明しておくと、ミゲル・アトウッド・ファーガソンはヴァイオリン/ヴィオラ奏者、オーケストラのアレンジャーとして、フライング・ロータス、サンダーキャット、カマシ・ワシントン、カルロス・ニーニョなどと共演してきた、LAシーンのキーパーソンである。カルロス・ニーニョとの連名でJ.Dillaをトリビュートした『Suite For Ma Dukes』が最も有名なプロジェクトだろう。本作は彼の初リーダー作にして、3枚組3時間半、3部作構想という超大作。レーベルも同じカマシの『The Epic』と並べたくもなるが、2011年に端を発する500時間ものレコーディングから製作された本作は「超大作」ではあっても「重量級」といった感じではない。DOMi&JD Beckが弾きまくっていたり、故オースティン・ペラルタとのデュオ、ジャズ・セッションがあったり…とこれは3枚組のほんの一瞬。メディテーティブな雰囲気とは言えるが、とても全体を一言や二言で表現できるものではなく、多様な音楽性を持ちながら繋がりあっているLAシーンそのものが詰め込まれているかのようだ。かつて9.11を契機に製作されたLAスピリチュアル・ジャズの傑作『Peace With Every Step』のように、2023年、信じられないことが起こり続ける現代に刻む"Peace With Every Step"の一歩目。そんな気がしてならない。





Martin Leiton / Caravana /  JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008744205


DVDサイズの変形スリーヴでおなじみ、スペインSeed Musicのジャズ部門から2023年新作。こういう特殊パッケージはちょっと保管に困るよなーという悩みもあるが、内容よかったよね、と印象にも残りやすい。で、実際内容は申し分ない。私のようなイマドキのコンテンポラリー・ジャズ、現代ジャズをメインに聴いている者にはもったいない、真っ当なワンホーン・ハードバップ。リーダーのベーシストはジェフ・バラードやペリコ・サンビート、デイヴ・キコスキーなどとも共演、リーダー作もこれまで4作をリリース。数年間ツアーで経験を積んできたカルテットというだけあり、メンバーはスペインの実力派揃いと言えそうだ。特にテナーには現代へ連なるサックス奏者の系譜をどことなく感じ取れるし、トランペットがゲストで参加した1曲で、ほんの少しアンサンブルに緊張感が生まれているのがいい。なんにせよスッと聴ける良作である。
「Tuareg」や「Gimbri」と、アフリカ由来のリズムを取り入れた変化球もあり。チーフ・アジュアーとかスナーキー・パピーとか最先端の現代ジャズのミクスチャー度合いには程遠いとはいえ、ここだけ少々現代的な匂いがしているのも面白く、いーぐる後藤氏語るところの「エスニック・テイスト」(『ジャズ喫茶いーぐるの現代ジャズ入門』)、と言えるのかもしれない。





Michael Feinberg / Crystalize / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008752435


フレッシュ・サウンドやクリス・クロスでリリースのあるベーシストの新作。あまり気付かれていないのだが、アーロン・パークス、ナシート・ウェイツ、ジョン・イラバゴン、とメインのカルテットが超強力な上、イマニュエル・ウィルキンスなどゲストも豪華、NYの最先端がギュッと詰まったような座組なのだ。マイケル・フェインバーグは前作も強力なメンバーだったし、現代NYシーンの重要人物かもしれない。楽曲でいえばやはり耳目を惹くのは"戦メリ"。このメンバーで戦メリやるとは思わなかったが、アレンジではなく演奏でグォっと盛り上げている感があってこれがとてもよい。他にもロイハーのトリビュートや、ミンガスからビョークまで幅広く、歴史に対するリスペクトと現代性も両立。演奏は言うに及ばず。現代シーンを追ってる人は必聴に値する作品でしょう。





Gregory Hutchinson / Da Bang / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008733528


御年53歳、ヒップホップに親しんできた世代であることは間違いないが、オーセンティック系のドラマーだと思っていたグレゴリー・ハッチンソンの初リーダー作は驚きのヒップホップ・アルバム。クリス・デイヴのようにJ Dillaやらズレやらヨレやらなんでもござれとはいかないものの、色とりどりのシンガーやラッパーとともに歌う生のドラム・ビートが本作の影の主役。ゴリゴリのヒップホップ・サウンドにジャズ・ドラマーならではの創造性あふれるドラムが踊る。プロデュースはこれまたジャズ/ヒップホップのハイブリッド・ドラマーであるカリーム・リギンスということで、サウンド・プロダクションは文句なしにカッコいい。





Matt Carmichael / Marram / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245764066


アメリカの現代ジャズのトップランナーたちがそろって契約している、今もっともアツいレーベルのひとつであるUKのEditionは、同時に同地の新進気鋭のミュージシャンによる独創的な良作を数々手がけてきたレーベルでもある。昨年10月リリースから1年遅れで入荷した本作は、スコットランドの若手テナー奏者の2nd作。ワンホーン・カルテットにフィドルを加えた、どこか郷愁を覚えるメロディ、サウンドとグルーヴが個性的な一枚。ブルーノートがアメリカーナを、ECMがクラシックを探求するように、Editionはイギリスの民族音楽を探求する、なんて捉えてもよさそうだ。朗々と歌うテナーに、同郷のFergus McCreadie(昨年の『Forest Floor』はマーキュリー・プライズにノミネート)のコンテンポラリーなプレイにも注目。





Emil Ingmar / Pleiades / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008757423


山下達郎の「ルミネッセンス」が好きだ。星空をテーマに、多重録音コーラスと打ち込みのビートで作られた重厚でソウルフルな曲である。全然関係ないタツローを思い出したのは、このアルバムがスウェーデンのピアニストによる、やはり星空をテーマにしたコンセプト・アルバムだからだ。今年の1月と10月に配信リリースされた『冬の星』『夏の星』というEP2作を組み合わせた、40分弱の星空観測。美麗なピアノが響く小品集といった印象だが、楽曲の美しさやアンサンブルのアレンジも聴きどころだろう。前半の静謐な「冬の星」パートに比べ、「夏の星」パートのコンテンポラリーさもまた楽しい。冬の北極圏の極夜ほどではないが、夜も長くなる季節。星空に思いを馳せる美しい作品。





Stacey Kent / Summer Me, Winter Me / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739532

ステイシー・ケント / サマー・ミー、ウィンター・ミー 

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739534


高い人気を誇る米ヴォーカリストの新作は「あの曲はどのアルバムに収録されていますか?」というファンの声に応えたスタジオ録音作品です。これまでライブでのみ披露されてきたスタンダードを中心に選曲しており、M8,9を除いて彼女のどのアルバムにも収録されたことがありません(その2曲も新録です)。夫ジム・トムリンソン書き下ろしの3曲も加わり、ほとんど通常の新作と変わることなく新鮮に聴いていただけることでしょう。
表題曲のM1はミシェル・ルグラン作曲の「Summer Song」に後に歌詞が付いたバージョンを謂います。サラ、シナトラも歌って来た曲ですが、新たに息吹を吹き込むように爽やかで瑞々しい仕上がりに目を瞠りました。そのほか、キャプテン・センシブルのカバーで有名なM6も管楽器のアレンジが楽しいボッサ・ナンバーに仕上がっていますし、トムリンソンの書下ろし曲では一語一語を噛みしめるように歌うしっとりとしたナンバーのM10が光ります。
ジャケットもとても素敵ですよね。ステイシー・ケント&ジム・トムリンソンのコメントや録音時の写真を掲載した24p英文ライナーも付属しています。丁寧にデザインされたデジパックで愛着が湧いてきます。





Laufey / Bewitched / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008713047


2020年代初頭にデビューするや瞬く間に世界中で人気を獲得したアイスランド出身SSWレイヴェイの2nd。1stのCDリリースがなかったため(今からでも出してください!)、この2ndが初めてのCDです。本作で初めて耳にして驚かれる方も少なくないでしょう。低く深みを湛えた歌声と魅力的な自作曲の数々。伝統的なジャズ・ヴォーカルの薫陶を受けつつポップな現代感覚を併せ持つ彼女はノラ・ジョーンズになぞらえられるほどの大型新人であり、2020年代を代表するアーティストの1人として期待されています。
まずはM10を聴いてみてください。ボッサ風の爽やかな楽曲に乗せて報われない片想いの心情を歌っています。サビの「through my heart」やラストの「from the start」と歌い上げる箇所など溜息が出るほど見事でしょう。軽やかなスキャットもどこか苦々しさを含んでいて一つ一つの表現力が実に高く、ピアノやストリングスによる的確なアレンジも相俟ってパーフェクトなリード曲に仕上がっています。続くM11はミスティ。本作で唯一のスタンダードであるこの曲でもぜひ彼女の高い歌唱力をご堪能ください。他にもまだまだ良質な楽曲が目白押しで、今年のベスト有力候補の1枚です。





阿部薫 / MANNYOKA / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1007718315


2018年にリリースされた阿部薫と豊住芳三郎のデュオ未発表音源がまさかの再入荷。廃盤と思われて中古価格が高騰していた強力タイトルで、吉祥寺マイナーと初台・騒での2ライブを収録しています。LPは収録内容が半分(騒のみ収録)のためCDがよりお薦めですが、一番の聴きどころとしては阿部のサックスが怒涛の勢いで吹き荒れる騒でのライブの後半を挙げます。豊住のドラムも相当攻撃的ですが阿部に調子を合わせるでもなく2人の距離感が緊張感のある即興演奏に繋がっていますね。あとは音質が良ければ言うことなしですが悪いわけでもありません。即興演奏好きには見逃せない1枚です。





Jim Campilongo & Steve Cardenas / New Year / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008706211


ノラ・ジョーンズのリトル・ウィリーズへの参加でも知られるテレキャス名手のジム・カンピロンゴとポール・モチアンのE.B.B.B.出身の人気ギタリストによるデュオ作品です。「チェロキー」のテーマをギター2本のユニゾンでゆったりと弾くのがまず新鮮でした。早いテンポで演奏されることも多い曲ですし普通もっと音数を入れてしまうと思うのですが、名手2人の柔らかい発想と落ち着き払ったプレイが秀逸ですね。カンピロンゴのギターは非常に音が良いですし、カーデナスのプレイは癖があって魅力的です。2人の音色やタイム感の違いが心地良く、ラストの小曲まで余韻たっぷりに聴かせてくれます。ビル・フリゼール、ジュリアン・ラージ好きはもちろんのこと、広くギター好きに薦められる作品です。





Simon Moullier / Inception / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008741821


最近のヴィブラフォン奏者というとまずジョエル・ロス、詳しい方ならパトリシア・ブレナンの名前も挙げられるかもしれませんが、より正統派のプレイで出色のヴィブラフォン奏者がこのサイモン・ムリエです。ハービー・ハンコックやクインシー・ジョーンズにお墨付きを与えられた94年生まれの若手で、これが既に4作目。決して派手ではないですがその実力の高さからいま人気を高めていっている奏者です。コロコロっとしたほの暗い音色で次から次へと唸るフレーズを繰り出してくるのが特徴で、伝統的なスタイルと現代的な響きを兼ね備えています。もっと広く知れ渡るのも時間の問題でしょう。ちなみに話題のSSWレイヴェイの2ndにも一曲参加しています。





ロイ・ハーグローヴ / ソングス・オン・HARGROVE / JazzTOKYO 古澤

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245775339


2016年に一度だけロイ・ハーグローヴの演奏を聴く機会に恵まれた。ステージ中央で洒落たスーツに身を固め、大きなflhから放たれる豊かな出音と多彩なフレーズに驚かされたことを覚えている。しかし、何故かその後彼の作品を手にすることなく時が流れてしまった。つい最近クインテットでの作品「earfood」を手にすることになり、即座に虜になってしまったのは言うまでもない。本作「Songs On Hargrove」は49歳で急逝した希有なミュージシャンであるロイの最後の一年を綴ったドキュメンタリー映画のサントラ的作品である。ブラックミュージックの時代とジャンルを、縦横無尽に紡いだ生き様を垣間見ることができる作品であり、ロイの魅力に未だ触れていない方に是非試して欲しいお薦めの一枚である。





Chris Botti / Vol.1 / JazzTOKYO 速水

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008723595

クリス・ボッティ / Vol. 1(SHM-CD)

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245774647


もう何年も前の作品になりますが『クリス・ボッティ・イン・ボストン』の中で「どうして成功できたか訊かれるけど、僕の答えはプラクティス、プラクティス…そしてプラクティス」さらに続けて少しはにかみながら「それとスティングと友達だったことかな」と話すシーンがあります。最後のはジョークだとして、たゆまぬ努力の人であるのは間違いないところでしょう。クリスの印象としてはやはりバラード。心の奥底に染み入るようなプレイを得意としています。そして10年ぶりの新作はプロデュースが名匠デイヴィッド・フォスター。クリスのいま現在のベストを余すところなく引き出しています。スタンダード多め、ヴォーカル曲あり、そしてタイトルが『Vol.1』ですから続編ありますよね。新しい旅立ちに出会えるのはとても嬉しいことです。





WEB WEB & Max Herre / WEB MAX II / JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008742471


ミュンヘンを拠点に活動するジャズ・グループ〈ウェブ・ウェブ〉が、ソングライター/プロデューサーのマックス・ヘレとの最初のコラボ・アルバム『WEB MAX』の続編をリリース。前作で見せた寥廓たる精神世界は更なる拡張・変成を達成し、ポスト・スピリチュアル・ジャズともいうべき地点へ到達した。客演には独ジャズ・ロック・バンド〈エンブリオ〉を率いるマリャ・ブッヒャルトや、LAシーンにおける最重要人物の一人カルロス・二ーニョが名を連ね、単なる客演以上の決定的な役割を担っている。担っているのだが、それでいて作品を置いてきぼりにしない、飲み込んでしまわない絶妙な存在感で、そこはやはり流石の手腕といったところである。





チック・コリア / サルデーニャ / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008731666


2018年、チック・コリア晩年のライブ録音。コンサートはチックのスピーチに始まり、続いてオーケストラのチューニングが行われるが、その中からチックの即興が浮かび上がってくる。チューニングの“A”からめまぐるしい転調を経て“Cm”に至り、そこからKV.491(ピアノ協奏曲第24番)へと繋げられる。これまでモーツァルトに何度か挑んでいるチックだが、短調の曲を採り上げるのは初めて。ジャズ的には第1・3楽章終盤のカデンツァが聴き所だろうが、私としてはハ短調の変奏曲である第3楽章、長調に転じる箇所の慈悲深い眼差しのような優しい響きが、例えば〈La Fiesta〉などで聴ける、永遠の憧れとでも言うべき転調を思い起こさせ、チックがこの曲を弾いた理由が解ったような気がした。もう一方の大曲〈Rhapsody In Blue〉では、ソロ部分が長大に展開され、チックのピアノが自由に跳ね回る。共演する室内管弦楽団も、小編成ゆえ、身軽なチックの音楽にぴったり。ブラヴォー。






SAM GENDEL & MARCELLA CYTRYNOWICZ / AUDIOBOOK / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008762690


2020年以降驚異的なスピードで作品を発表し続けるサム・ゲンデルの最新アルバムが、LPでも発売された。今年三枚目となる本作はアンビエント・ダウンテンポ色が強め。全編にわたって使用されている電子大正琴・和楽IIIの柔らかな音色が、人間的な温かみを感じさせる。音楽的なピークはA面ラスト三曲M5“IJ”、M6“KL”、M7“MN”か。漸次的にBPMが上がっていき、心地よい陶酔感が広がる。ところでトラック名にはアルファベットがAから順に二文字ずつ並んでいる。何か暗号めいた意味を見出したくなるが、むしろ「意味がないこと」こそサム・ゲンデルの意図したところではないか。彼は無意味な文字列を音楽の題名にすることによって、音楽それ自体における純粋性を私たちに喚起させる。ゆえに、マルセラ・シトリノウィッツの描くキース・へリングのようなアートワークとも共存でき、私たちの日常のサントラにもなり得るのだ。音楽の本質を鋭く突いた逸品。





AKIRA SAKATA / LIVE IN EUROPE 2022 / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008729025


最初の3秒でサカタ?と気づき、フランケンシュタイン風の曲調でまちがいないと確信する。いつもの凶暴で心地よい音色だ。音程がどうとか、デタラメ云々ケチをつける人はそもそものスタンスがちがう。各曲名は収録地名だが内容はサカタレパートリー集である。ギリシャ人ギオティス・ダミアニディスのギターがとにかくいい。空間をノイズで鋭く切り裂いて侵入し、気づくと場所全体を音響のドームで覆っている。まるで魔術だ。サブスクで豊富に公開されるサカタ近年の音源群の中でも傑出している。酒ネタも飽きた。今回の併せ推しはマンガだ。現在個人的にひとり黙々と開催中の岡崎京子再読祭で試みに本作を流してみたところ、意外な相乗効果が現れてなかなかの評判である。狂気と倒錯、焦燥と罵詈雑言に満ちた過激作「ヘルタースケルター」の微かに情念を帯びたアッパーな展開とは悶えてしまうほど異様に調和する。音楽の斬新な楽しみ方を閃かせ、マンガ中毒者をフリージャズの無法地帯に誘う危険極まりない2枚組である。





NITAI HERSHKOVITS / CALL ON THE OLD WISE / 吉祥寺ジャズ館 吉良

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008750376


オデッド・ツールのECM2作品『Here Be Dragons(2020)』『Isabela(2022)』で鮮烈な印象を残したニタイ・ハーシュコヴィッツ、ピアノソロによるECM初リーダー作。
タッチもハーモニーも驚くほど繊細でありながら時に燃え上がるようなパッションも感じさせる演奏の振り幅で聴き手の心を揺さぶります。
各曲の演奏時間が短めで、ポジティヴな意味での絶妙な物足りなさのおかげで何度も繰り返し聴きたくなるような、魔術的な魅力に満ちています。





ELLA ZIRINA / Intertwined / 吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008713594


ラトビア出身で現在はオランダを拠点にしている、エラ・ジリーナのデビュー作品の紹介です。収録曲11曲中8曲が自身のオリジナルで残り3曲がスタンダード・ナンバー、編成はギタートリオがメインで楽曲によってはストリングスやサックスが加わります。パーカッシヴでグルーヴィーなM2、そよ風に揺れて踊る草原や地平線に強烈な色を残して溶けていく太陽、母国ラトビアの夏の風景にインスパイアされたM6、可憐な歌声を披露しているM7など、瑞々しくメロディアスでストーリー性の高い楽曲の数々に驚きます。そして技術の高さと脈々と受け継がれている「ジャズ・ギター」の伝統を感じさせる温かみのあるギター・サウンドにうっとりです。ジャズ・ギター界のニュー・ヒロイン登場です。





SULLIVAN FORTNER / Solo Game / 新宿ジャズ館 四浦

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008750917


ピアニストのサリヴァン・フォートナーがかかわる作品は、全て聴かなければならない。現在進行形の本物のジャズがそこにあるからだ。だが、このジャズ・ピアニストの最新作が、ソロで、尚且つ2枚組というボリュームでのリリースということで、聴く側を完全に試している。是非とも真剣に対峙してほしい。ジャズという音楽の凄さがわかるから。
Sullivan Fortner (piano, Fender Rhodes, Hammond B3 organ, vibes, celeste, chime tree, Moog, vocoder, hand percussion,, egg shaker, triangle, vocals, hand claps, shakers, Canopus bass drum,Mongolian gong), Kyle Poole (hand claps on 2-2), Cecile McLorin Salvant (vocals on 2-3)





LAGE LUND / Most Peculiar / 新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245776462


ピアニストのサリヴァン・フォートナーがかかわる作品は、全て聴かなければならない。現在進行形の本物のジャズがそこにあるからだ。本作はギタリスト、ラージュ・ルンド(ラゲ・ルンド)の最新作でクリス・クロスからの6作品目となっている。2014年より活動しているサリバン・フォートナー(p)とタイショーン・ソーリー(ds)をフィーチャーしたこのユニットは、前作の「Terrible Animals」の大成功に続いて、本作の録音に至っている。交代となったベースのマット・ブリューワーとタイショーンのコンビネイションのおかげか、前作では聴けなかったリズムセクションのヴァリエーションに注目だ。
Lage Lund(g), Sullivan Fortner(p), Matt Brewer(b), Tyshawn Sorey(ds)





PAUL GIALLORENZO / Play / 新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008755920

芸術団体の監督であり、音楽会場兼アート ギャラリーのオーガナイザーでもあるという、前衛志向のピアニスト、PAUL GIALLORENZO。2017年に同じくDELMARKからリリースされたトリオと同メンバーでの2作目です。
その間、本作のリズム隊であるJoshua AbramsとMikel AveryはNatural Information Societyでの活動によってヴィジョンの共有が醸成したと思います。
ピアノは誰が聞いても思い起こすモンクやセシル・テイラーの往年のスタイル。その裏にある、現代的にコントロールされた遊びのあるリズム隊が実に妙です。N.I.Sでもお馴染みのミニマリズムも予測不可能な形で飛び出したり、流れを侵食します。
新しさを感じるというより、意図したであろう絶妙な違和感。何かありそうなそのギャップに引き寄せられました。なにせDELMARK。シカゴは今も端から端まで油断なりません。





ENEMY / BETRAYAL / 新宿ジャズ館 荒川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736164


今年大本命の一枚。EDITIONからリリースされたセルフ・タイトル、ECMからのキット・ダウンズ名義による『Vermillion』から数えて、このトリオの3枚目となる。ダウンズ、そしてベースのペッター・エルド共に去年から今年にかけてMVPといえる活躍だが、本作は静謐な『Vermillion』よりも、セルフ・タイトルの直接的な続編というべきだろう。メルドー、バッド・プラスを想起させる場面もあるも、自由自在にリズムが変化していくインタープレイはめちゃくちゃスリリングであり、グルーヴが一切だれることない40分弱。そして、ほんの少しのポスト・プロダクションの味付けがされている(スネアの重ねや、ディケイがカットされているところはKOMA SAXOにも通じる)。10年後、2020年代を代表するピアノトリオを思い出すとき、このタイトルは避けられなくなるだろう。そして、これは声を大にして言っておかねばならないが、James Maddrenのドラムが最高にカッコいい!





JASUAL CAZZ / Memory Guard(LP) / 営業部 池田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245776215


今年の上半期のベストにはストラスブール発のユニット、エミール・ロンドニアンの作品を(心の中で)挙げていたのですが、こちらもフランス・リヨン発のトリオによるアルバム。ヴィンテージ・シンセの音色に”存在しない記憶”が呼び起されそうなノスタルジックなムード漂うフレンチ・フュージョンです。本当はもう少し暑い時期に手に入れてチルのお供にしたかったのですが、良い音楽には季節など関係なく…比較的幻想的なナンバーとダンサブルなナンバーが混ざっているのも魅力。何度もリピートしているおかげで、そろそろこの素敵なジャケットを眺めているだけで脳内で完全再現できそうです。