ディスクユニオン ジャズスタッフ 4月度レコメンド・ディスク

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2024.04.30

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




Charles Lloyd / The Sky Will Still Be There Tomorrow / JazzTOKYO 羽根
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008797372


ロイドの近作はどれも素晴らしかったのだけれども、久しぶりのタッグとなったジェイソン・モランとの相性はやっぱり最高だなぁと思う。ストロングでビューティフルで、伝統と革新を兼ね備えたピアノに加え、ラリー・グレナディアとブライアン・ブレイドなのだから、当然ソノリティは極上。オーディオ的満足度は震えがくるほどの傑作だ。80年代初頭ペトルチアーニを従えセンセーショナルにシーンへ復帰するも、体調面の問題もあって目立った活動ができなかったロイドは、80年代のメインストリーム・ジャズ再興に乗りそこなった形で、同じテナーでも乗れたジョーヘンとの格差は非常に大きく、正直ロイドっていつの間にこんな位置に来ていたのだろうと驚くばかりだ。体調と創作意欲を回復した90年代以降の鬱憤を晴らすかのような快進撃は凄まじく、1990年から2013年までECMにて16作、2015年からBLUE NOTEでの10作目が本作だ。とんでもないペースであるのに加え、なんと1938年生まれの今年86歳が今まさに年々良くなっている(ように個人的に感じる)というのがアンビリーバブル。特にBLUE NOTE移籍後の作品は、加齢からくるテナーサウンドの変化が良い方向に働いているように思う。元々あった華麗な浮遊感から、ぐぐっと重心を下げた音程で的確な音をじっくりと選んで一撃で切るような至芸を聴かせる技とセンスの冴えが今まさに絶頂を迎えんとしているのだから堪らない。20代は天才、30代で名人、40代で凡人といった古き良き芸術家のイメージとはかけ離れたロイドの歩みに感じる違和感こそが、現代ジャズを聴く醍醐味だと感じてもいるので、こうした不可解さは大好物である。





マッコイ・タイナー/ インナー・グリンプス・ライヴ 1986 / JazzTOKYO 羽根
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778939


マッコイ・タイナーのレギュラートリオにフレディ・ハバード、ジョーヘンがフロントに加わるオールスターバンドの1986年のライブ演奏である。お祭りなので理屈抜きに楽しめば良いのだが、折角ならその中で”推し”がいれば尚楽しめるものだ。私の”推し”はジョーヘン。もちろんマッコイもフレディも個性を活かし切った熱演で、蒸気機関車のようなパワーのマッコイ、アステカの仮面のように妖しく輝くフレディもお祭りを盛り上げる演者としては強烈な印象を残す。対してヒョロっとした案山子のような眼鏡の男がステージの上で妙に大人しく礼儀正しい佇まいで、こういう場所苦手なんですとばかりにモゾモゾ、ウネウネと吹いている様にやけに目が引きつけられてしまうのはどうしたことだろう。自分はジョーヘンが参加していると言うだけで無条件にソフトを購入してしまう人間なので、依怙贔屓してしまいがちなのだが、それにしても1986年のスリー・ジャイアンツを2020年代から振り返るとあらば、それはもうジョーヘンに耳が持って行かれるのは致し方ないのかもしれない。折しもBLUE NOTEからヴィレッジ・ヴァンガードでの決定的ライブ盤をリリースした勢い、更には後のREDやVERVEの名盤群を予感させるフレッシュでコンテンポラリーな響きが確かにそこにはある。先に”目が引きつけられる”と書いたのは、このニュルンベルグでのライブの映像は以前よりyoutubeなどでも目にする事ができたからだが、このフェスティバルのプロモーターだったヴィム・ウィグトのTIMELESSレーベルの音源として正規にリリースされたことで、80年台のメインストリームジャズ復興に先がけて、70年代から不遇の巨人達を支えてきたTIMELESSの功績も再評価したい。





Taylor Eigsti / Plot Armor / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778144


テイラー・アイグスティの新作を聴いていて、ベッカ・スティーヴンスやグレッチェン・パーラトの歌声にはっとさせられた。彼女らの歌は何度も、様々な作品で聴いてきたし、彼女たち以降にも様々なヴォーカリストが登場してきたはずだ。しかし耳に入るその鮮烈さに、彼女たちの歌声が現代ジャズを象徴するようなものであったことを思い出させられた。それはひとえに14年前、2010年の『Daylight At Midnight』におけるベッカの貢献、そしてそれを重要作として紹介した2014年の『Jazz The New Chapter』の影響が大きいのだが、10年余りの歳月を経てシーンが多様に変化してきた今なお、ベッカの歌声が象徴的なものとして響くこと、そこには何よりテイラーの卓越した歌ものの作曲/アレンジセンス、メロディーへのこだわりがある。カバーが中心だった『Daylight〜』以降、自らの楽曲を模索しながら磨き続けた成果が前作『Tree Falls』(2021)と本作であり、まさにその部分をベッカとグレッチェンの歌声を通して感じ取ったのだと思う。幼少期から「天才」と呼ばれた、現代ジャズを代表するピアニストのひとりが、模索の末に踏み出した新たなステップ。そんな力作を、リスナーとしてしっかりと受け止めたい。







Norah Jones / Visions / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008798219


本作のプロデューサーはレオン・マイケルズ。エイミー・ワインハウスに代表される2000年代のレトロ・ソウルのムーブメントに関わっていた人物で、ノラとは過去にも仕事をしているが、本格的にプロデュースを手掛けたのは前作『I Dream Of Christmas』からだ。本作はサラっと聴く程度では「いつものノラ・ジョーンズ」なのだが、じっくり聴けば「古き良きアメリカ」とでも言いたくなるレトロでヴィンテージな音作りがじんわりと響く。フォークやカントリー、ゴスペルにくわえて、ロックンロールや60年代の女性コーラス・グループ的な雰囲気も併せ持ち、かつこれまでのイメージよりも明るくポップ。どこか古びたラジオから聴こえてきそうな手触りだ。昨年共演したレイヴェイなど、レトロな作風のジャズ系SSW、というトレンドもあるが、思えば前作も「古き良きアメリカ」のクリスマスの風景を思わせるアルバムだったし、前作と同時期にホセ・ジェイムズがリリースしたクリスマス・アルバムもアナログレコーディングのヴィンテージな音作りだったわけで、"レトロ"や"ヴィンテージ"といったヒントは、2021年のクリスマスに伏線が張られていたのかもしれない。さて桜こそ散ってしまったが、本作の明るい雰囲気は、寒さも和らいだこの季節にぴったり。この春、お気に入りの服を着て出かける日のBGMに推したい一枚だ。





Arild Andersen/Daniel Sommer/Rob Luft / As Time Passes / JazzTOKYO 逆瀬川、新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008830932


ロブ・ラフトの存在感が年々増している。自分と同い年で好きだからひいき目なのもあるが、リーダー作のほかにノルウェーのエレン・アンドレア・ワン、ECMではアルバニアのエリナ・ドゥニと2作、極めつけは英国のフリー系レジェンド ジョン・サーマンのECM新作にも参加。いわゆるUK新世代とは異なる、ECMを中心としたヨーロピアン・ジャズのフィールドで、ラフトの存在は欠かせないものになりつつある。本作はデンマークのドラマー Daniel Sommerと、70年代からECMに貢献してきたアリルド・アンデルセンとの、3人の演奏が絡み合うギタートリオ。ラフトの演奏とサウンドも存分に堪能できるし、しなやかなSommer、アンデルセンの余裕の歌いっぷりも素晴らしい。アンデルセンやサーマンといったレジェンドや、ECMのような名門を刺激するロブ・ラフトが、現代のヨーロピアン・ジャズを牽引する存在になる日もそう遠くないかもしれない。(JazzTOKYO 逆瀬川)


いまさらアリルド・アンデルセンのキャリアを説明せずとも、彼のベースが、彼の音楽観が、ノルウェー・ジャズの発展に不可欠であったことは言うまでもない。本作のトリオは、彼が今、一緒に録音したいと思った若手の二人を従えたものとなっている。やはり注目はギタリストとして迎えた、ロブ・ラフトである。熱心なECMのリスナーに限らず、ヨーロッパ・ジャズを聴く方々に、いま最も注目されているのが彼だ。ギター・トリオの不変と革新がここに。Arild Andersen(b), Daniel Sommer(ds), Rob Luft(g)(新宿ジャズ館 四浦)







Kabir Dalawari / Last Call / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008804950


シカゴの若手ドラマーの2作目がShifting Paradigmから登場。自主制作のデビュー作はアルトのワンホーンカルテットだったが、今回はサックス2管+ギター+ピアノトリオのセクステット。リーダーのドラムがメンバーに広いスペースを与えつつアンサンブルをコントロール、全編オリジナルで作曲・アレンジ力も光るコンテンポラリー系の良作だ。また本作のプロデュースを、マカヤ・マクレイヴン『In The Moment』やジェレミー・カニンガム『The Weather Up There』に参加したベーシスト Matt Uleryが手がけている点も注目。Dalawariが大学で彼の作曲レッスンを受けたのがきっかけだが、主にシカゴ周辺のコンテンポラリー系作品に多数携わっており、大学で教えているという点でも、今後シカゴ・シーンでさらに存在感を増していくに違いない人物である。




Gianluca Vigliar / Eclipse / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008802356


Gianluca Vigliarはローマ出身のテナー奏者。2000年代半ばに音楽学校で研鑽を積みながら、国内のレゲエ、ポップバンドのサポートとして活動。Discogsにはほとんどクレジットが載っていないが、主にイタリア国内のシーンで活動し評価を受けてきた人物のようだ。A.MAからの2作目となる本作では、前作のヴィブラフォン入り2管クインテットという編成をシンプルなワンホーン・カルテットに変更。ドラムには気心知れた同世代のMarco Valeri、ピアノに若手のDomenico Sannaと地元のミュージシャンのほか、ロイ・ハーグローヴ・クインテット最後のベーシストAmeen Saleemを迎えた。重心低めのベースに支えられた腰の据わったアンサンブルに、イタリアらしい軽妙さのピアノと、太めのテナーが歌う良質なハードバップ作。モダンな雰囲気を残しつつコンテンポラリーな楽曲も魅力的だ。





0768707825424 / Willie Morris / Attentive Listening / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008798577


Posi-Toneはモダン系の佳作を数多くリリースしてきたレーベルだ。ウィリー・モリスは昨年同レーベルからデビューした新人。前作からはリズム隊がボリス・コズロフとルディ・ロイストンに交代しているが、本作も前作同様、良質な現行ハードバップが楽しめる作品だ。Posi-Toneの先輩であるパトリック・コーネリアスとの2管は、コーネリアスのアルトのブライトな元気のよさに対し、モリスの音色は新人らしからぬ深みのあるもので、その対比がいいコントラストを生んでいる。ワンホーンの曲ではどこかブレッカーの系譜を感じさせるブロウが聴けるし、脇を固める中堅の名手も終始いい仕事だ。Posi-Toneは現代のNYハードバップシーンをもっともよく写し出していると言っていい。そんなレーベルから登場した期待の若手の存在から、ストレートなジャズが今も面白いことが伝わってくる。





ロバート・グラスパー / ArtScience / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245657098


追悼 ケイシー・ベンジャミン
3月末、アルトサックス奏者、キーボード/シンセ/ヴォコーダー奏者、ケイシー・ベンジャミンが45歳の若さで亡くなった。現代ジャズのリスナーとしては、やはりロバート・グラスパー・エクスペリメント(RGX)での活躍が何より印象深く、ジャズの新時代を象徴するバンドの"声"を担い、ステージ上では"顔"でもあった、アイコニックなフロントマンだったと思う。彼を偲んで、旧譜から1枚紹介したい。
『ArtScience』は2016年リリース。ゲストが多数参加した『Black Radio』シリーズのネオソウル~ヒップホップテイストとは異なり、80sの香り漂うポップなサウンドとジャズ的即興演奏が共存するアルバムだ。裏を返せばそれは、バンドメンバーの色がより濃く反映された結果であり、かつバンドのみで録音した唯一のアルバムでもあり、何よりRGXでの(結果的に)最後のアルバム。『Double Booked』『Black Radio』『Black Radio 2』の名曲・名演の数々はもちろんだが、ケイシーのいたRGXの活動を振り返る上で、本作も忘れてはいけない一枚だ。本作リリース後の来日公演で、ヴォコーダーに、長尺のサックスソロにと、ケイシーがいつにも増して活躍をしていたのも印象的だった。1曲選ぶならば、唯一無二の存在の思い出に「No One Like You」を。





ファラオ・サンダース / ハート・トゥ・ハート~デュオ・コンサート・イン・フランクフルト1986 VOL.2 / お茶の水駅前店 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778938


ジョン・ヒックスとの'86年独フランクフルトのデュオ・ライブは昨年11月に前半部分が先に発売され当店で大いに人気を博しました。ジャケットが同じで一見気づきにくいですが、こちらが4か月越しにリリースされた後編です。モーダルで美しいブロウとダイナミックで煌びやかなタッチの交錯をお楽しみください。1,2が中でもお薦めです。
なお、同時リリースのウディ・ショウとマッコイ・タイナーは今回が初の公式リリースです。プライベート盤をお持ちでなければ初めて聴く方が多いことでしょう。何気ないリイシューでなく、当店初回入荷分は即売り切れました。お客様はやはり鋭いですね。






山本剛 / Sweet for K / お茶の水駅前店 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008775693


TBM以来となる神成芳彦の録音で大ヒットを記録した『BLUES FOR K』の続編となるエロル・ガーナー曲を中心としたバラード・アルバムです。スタンダードを多く取り上げた『BLUES FOR K』と比べて、どうしてもバラード一本調子なところは否めませんが、甘やかな楽曲の中で気品あるタッチを堪能していただけます。自然体でさりげないところが魅力ですね。聴き返すほどに良質なアルバムに思えます。
山本剛は今後のリリースもいくつか控えていて、この4月には韓国の女性ヴォーカリストMoonとのスタンダード集、5月にはイースト・ウィンドの再発があるほか、SOMETHIN'COOLでリクエスト形式でのライブ録音企画も進行中です。ぜひこれらにもご注目ください。





Ruth Goller / Skyllumina / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008801819


エレクトリックベース、ウッドベース、声。その重なりは不協和音のようでいて神秘的。全くもって新しい。シャバカ・ハッチングス、アラバスター・デプルーム、さらにポール・マッカートニーとも共演するなど多彩な経歴を持ち、UKジャズシーンを牽引してきたベーシスト、ルース・ゴラー。'21年の初ソロ作品『Skylla』ではそんな絶対的な唯一無二の音世界を創り上げた。今作はそこに異なるドラマーが参加し、現代ジャズ名門レーベル〈International Anthem〉よりリリース。トム・ヨークの新バンド"THE SMILE"のトム・スキナーらを迎え、その世界は沼のように深みを増し立体的に広がってゆく。シガーロスを彷彿とさせるような映像性も兼ね備えながら、彼女の美しいコーラスワークと微妙なズレが生み出すのは、何かが憑依しているとさえ感じるような静かな狂気。それでも心落ちつくのはなぜだろう。一度聴くと抜け出せなくなってしまう。




Piotr Wylezol / Loud Silence / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/TT-DO3-230828-1008723577


ポーランドの実力派ピアニスト、ピョートル・ヴィレゾウと、日本とポーランドにルーツを持つYumi Itoとのデュオ作が記憶に新しいギタリスト、シモン・ミカによるこちらもデュオ作品。パンデミック期に書かれたという二人のオリジナルを中心に、息がぴったりの演奏が聴いていて心地よい。
瑞々しい響きはまさに今、春に吹くやわかいそよ風のよう。美しいフレーズ、伸び伸びとうたうソロ。お互いの良さを引き出し合うデュオ。控えめだけれど、そこにはたしかな意志と存在感がある。その光はどんどん大きくなって春がやってきた。日々の中でこぼれていってしまう小さなきらめきを包みこんで音にしてくれたみたい。





渋谷毅 / LIVE1989 & 1991(2CD) / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008764673


シブヤオーケストラ伝説のピットインライブ盤が2枚まとめてお得になって再登場。30年以上も前の記録だが、当時からギルエヴァンスオケ、カーラブレイバンドと並んで自由で独創的と語られてきた渋オケ。2枚とも石渡明廣作曲"Great Type"で幕を開ける。酔狂でスチャラカでタリラリなこの曲が渋オケを象徴している。酔狂なのは曲だけではない。その証拠がこのジャケ写真。コルグのキーボードの上には空のタンブラー。中身は焼酎のソーダ割だったにちがいない。ジャズは酔狂なものという原則をリーダー自ら体現している。強者揃いの仲間に囲まれていい気分で鍵盤と戯れる渋谷さん。目玉は武田和命のぶっきら棒なテナー。"Round Midnight"での渾身のブロウに酒を飲む手が一瞬止まる。残念ながらこの後まもなく氏は他界してしまう。訳あって入手困難になっていた川端民生とのデュオ"蝶々在中"も再入荷。この機会にどうぞ。いい音楽は酒が進む。





川嶋哲郎 / A Walk In Life / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778109


いきなりキューバっぽい甘美な弦楽の調べ。それが全編に渡る。最高峰テナーマン川嶋哲郎の新作は、キューバで修行した香月SAYAKA率いるChaka String Quartetとの共演。20年前キップ・ハンラハンの下"Mambo Montage", "Tokyo Lama"2作でNYのキューバ出身リズム隊と格闘したことにその布石があったのかはわからない。全編自らの作編曲ということで熱の入れようがわかる。ジャンルを超越した惚れぼれするテナーの音色。ジャズに拘泥することも一連のニューチャプターな動きに秋波を送ることもなく、芯のある濃密な音色で独自のすばらしい音楽を奏で続ける川嶋哲郎は、ジャズマンである以前にテナーマンであり音楽家である。とうの昔にジャズの呪縛から解放されて自由を満喫していた私を再び魑魅魍魎渦巻くジャズ煉獄に呼び戻したのは先の川嶋2作品。川嶋哲郎は自分にとってそんな存在である。





ウディ・ショウ / ヴィム・アンド・ヴィガー・ライヴ 1985 / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245778940


毎度私見満載なこのレビュー、お次はジョー・ファレル。スティーヴ・グロスマンと並ぶ私的偏愛テナーマンのジョーは過小評価されたままジャズ史の闇に葬り去られようとしている。この初公式発売音源でも表題曲の作者なのに筆頭リーダー格はウディ・ショウに奪われている。不遇な扱われようだ。ハードボイルドな本質を見落とされ、誤解されたまま世を去った。同タイトルスタジオ盤の半裸の女がベースを構える珍妙ジャケデザインも禍を招いた。チック・コリアの"Light As A Feather"をフュージョンとかスムースジャズ云々述べるのがそもそも誤りで、評論指南の類に毒されていないジャズ初心者には、2曲で聴けるジョーの太く高密度なテナーこそジャズの真髄だと吹聴しよう。本盤は混迷の時代に好相性のウディと2管フロントでハードコアジャズを繰り広げた記録。今、Joe Farrell再発見がハイカラだ。





Black Lives (Reggie Washington) / People Of Earth / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008826638


40~50代のベテランを中心としたユニット、ブラック・ライブスによる、2022年の『From Generation To Generation』に続く2ndアルバム。上記1stはコロナ禍により、宅録/オーバーダビングのコンピレーションとして発表されたため、どうしても寄せ集め感が否めなかった。が今回、メンバーがひとところに集い、BapからAfroからFusionからSoulからHip Hopまで、入れ替わり立ち代わり演奏していく。そう、『Black Radio』の系譜だ。ネームヴァリューの低さもあってかイマイチ話題に上っていないが、もったいない!もったいなさ過ぎます!!歌やラップ入りの曲がカッコいいのは勿論のこと、ヒップなドラムに乗ってサックスが「歌詞のないラップ」を吹きまくるM5、アフリカン・ビートの上でギターとキーボードがウェザー・リポートよろしく弾きまくるM8、ハンコックの『Future Shock』の如くターンテーブルが回りまくるM13など、聴き所満載。捨て曲一切ナシ!そして全曲参加のプロデュースも務めるベースのレジー・ワシントンがまた素晴らしい!同じくベーシスト・リーダー作であるデリック・ホッジの『Live Today』と比べても全く遜色ない。New Chapter系の王道を往く、傑作です!






McCoy Mrubata / Lullaby For Khayoyo / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008805182


1959年生まれ、南アフリカのジャズシーンの長老格であるテナー・サックス奏者、マッコイ・ムルバタの最新アルバム。同国の音楽シーンについてお恥ずかしながら何も知らないのだが、M1“Lullaby for Khayoyo”を再生した瞬間、ぐっと引き込まれてしまった。シンプルで穏やかなメロディー、ムルバタ氏はそれを、優しく温かく、丁寧に吹いていく。素朴でじんわりとした、深い味わいだ。この子守唄はムルバタ氏のお孫さんに捧げられている。M4“Ezilalini”(コサ語で「村にて」の意)は熱演。氏のプレイはコルトレーン的ながら、威嚇めいたところは微塵もなく、まろやかで融通無碍、聴き疲れしない。むしろピアノのスティーヴン・フェイク––彼はアメリカ人で、N.Y.で活躍している––の方が、ガコンガコンと激しくコードを応酬する。ジャケットの橋は、氏の娘でデザイナーのヴァネッサさんによる、ハドソン川に掛かるミッド・ハドソン・ブリッジのイラスト。ラストトラックは“Hudson Bridge Crossing”––孫から始まって娘に終わる、なんとも素敵だ。




Kasia Pietrzko / Fragile Ego (Polish Jazz Vol. 89) / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008809758


まずM3“Foggy Dreams”を聴いてほしい。歌心あふれるベースに粛々としたドラム、そこへピアノが、モーダルで穏やかな旋律を紡ぎ出す。3'30"頃からにわかに加速し、今度は速めのテンポとソリッドなタッチでもって、洗練された美しさを表現していく…この弱冠三十歳のポーランド人ピアニスト、カシア・ピエツコは、綿密で繊細なコンポジションの方法と、作為を感じさせない自然な音楽の運び方の両方を、既に体得しているようだ。続けてM4“Widow”を聴こう。儚げな歌声をフューチャーしたこの曲の旋律は、増四度(ド-ファ#)の動きを不安げに繰り返す。それはまるで意識の深層に居る傷つきやすい自我(Fragile Ego)が、か細い声を孤独に上げているかのよう。3rdアルバムにして早くも貫禄のようなものが感じられる。ポーランドの巨匠たちが名を連ねるPolish Jazzシリーズとして出されたのも納得だ。





Geröly Virtual Trio / Seven Samurai Suite / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008772875


黒澤明監督映画『七人の侍』(昭和29年、東宝)のジャズ・カヴァー!演奏はハンガリーのフリー系ドラマー、ゲレイ・タマーシュ率いるゲレイ・ヴァーチャル・トリオなる三人組。神楽のようなM1から既に期待が高まる。そして、シンセと思しき笙の音色に導かれ、サックスのゲルゲー・コヴァーツが篳篥を模して吹奏、M2〈七人の侍組曲〉が開幕する。35分にも及ぶこの曲は、映画内の旋律に基づくいくつかの部分から成り、ゲレイを中心とする幽玄なソロがその間を繋ぐ。ゲルゲーは途中バリサクに持ち替え、村祭りの如き粗野で骨太なソロを展開させる。映画でバリトン・サックスの音色に対応するのは三船敏郎演じる荒くれ似非侍・菊千代だ。それにしてもベースのアイタイ・ペーテル含むこの三人、日本的な空間構成、間の取り方が上手い。アジアにもルーツをもつハンガリーという国のなせる業か。アイタイ作のM3で、侍たちを回想しつつ、静かに幕が下ろされる。





BOB MOVER / Salerno Concert / 吉祥寺ジャズ館 吉良
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008811740


『Davis Cup』でおなじみのウォルター・デイヴィスと、通好みの渋アルト奏者ボブ・ムーヴァーの'89年発掘ライヴ音源。
Cellar Liveは新録中心のレーベルですが、たまーに素敵な発掘音源をリリースするので要チェックです。
いぶし銀の枯れた味わいが楽しめる隠れた逸品。





CECIL TAYLOR / Live At Fat Tueseday's February 9, 1980 First Visit / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008829653


未発表音源にして代表的セシル・テイラー名盤に肩を並べる名演だ。
セシル・テイラー・ユニット黄金期メンバーが顔を合わせていて、なおかつセシル・テイラーが強く前面に出ている。
強力な共演者を従えつつ全体的にセシル・テイラーのエッセンスが強く充満しているのがこのアルバムの魅力だ。
補足すると、1980年2月8〜10日の間ファット・チューズデイLIVEを4回に分けて録音したらしく、今回のアルバムは2月9日午後の収録分。既発の「Cecil Taylor Unit/It Is In The Brewing Luminous」は2月8日午後と9日午前の収録分らしく、今回のアルバムとの収録かぶりはなく、本当に「未発表音源」の様だ。





PAN-AFRIKAN PEOPLES ARKESTRA / Live at IUCC 11/25/79(2CD) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008737387


4/27現時点では数店舗にそれぞれ少数在庫があるだけなので、見つけたら即買いですよ!
Horace Tapscott率いるPAN-AFRIKAN PEOPLES ARKESTRAのLive at IUCCシリーズ全11巻の第5弾。
各DISC冒頭曲がテンションぶち上げ祭系楽曲で始まるのがなんとも良い感じです。
このシリーズの第4〜5弾はリリースに難航した様で、世界中で予約情報が全くなくて、頼りのオフィシャルリリース情報も延期に延期を重ねる頼りなさで、発売されたらされたですぐにメーカー在庫が無くなって廃盤になり、ユニオンの各店に数点を残すのみとなりました。
残りの6作も間も無く立て続けに発売予定との公式情報ですが、正直頼りになりません。しかし発売されたら即売れ入手困難になると思われますので、新発売の情報を常にチェックしておいて下さい。





CHRISTIAN MCBRIDE / BUT WHO'S GONNA PLAY THE MELODY? / 吉祥寺ジャズ館 中村
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008809445


「で、誰がメロディーを弾くの?」。いきなりどうした?と思われたでしょう。クリスチャン・マクブライド新作のタイトルです。と同時に多くの人がこの作品を手にした時の第一印象だと思います。エドガー・メイヤー(あまり名が知られていませんが彼もマクブライドと双璧をなすベーシスト)とのデュオ作品と聞けば、「1時間近くもベース2本だけの演奏?15曲もあるのに?で、誰がメロディーを弾くのよ?」とそのアイデアに戸惑うのも無理はありません。私もそうでした。でもこの2体のベースの雄弁なことと言ったらもう!エドガー・メイヤーの力強いウォーキング・ベース・ライン、クリスチャン・マクブライドが弓や指で器用に奏でる美しいメロディー。エドガー・メイヤーが大半を書いたというオリジナル曲に加えて「Solar」「Bewitched, Bothered and Bewildered」「Days Of Wine And Roses」「Tennessee Blues」といったナンバーも収録、時にはお互いがベースをピアノに持ち替えて演奏したりと、たった2人の人間だけでこんなに豊かな作品を作ることができるのか、と驚きました。音質も素晴らしくあっという間の1時間でした。ながら聴きではなくじっくりと向き合って楽しみたい作品です。





JOHNNY LYTLE / PEOPLE & LOVE / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 板橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008777508


ジョニー・ライトルの隠れた名作とでも言うべきソウル・ジャズ名盤がケヴィン・グレイのマスタリングでLPリイシュー。
収録曲の中でもハープとヴィブラフォンの美しい組み合わせが織りなす「Family」、グルーヴィなスピリチュアル・ジャズ「Libra」が今作のハイライト。
現在、オリジナル盤は市場であまり見かけなくなりましたので、今回しっかりとした作りでリイシューされたこちらで聴くのもおススメです。





LEE MORGAN / Search for the New Land / 吉祥寺ジャズ館 山脇
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008794146


前作の名盤、ザ・サイドワインダーに影を潜めがちであるが、全曲がオリジナル曲であり、冒頭の1曲目から高級な金庫に閉じ込めされた錯覚に陥るかのような重厚さと、1964年のレコーディングである事を忘れてしまうかのような洗練されたサウンドと、本作から間もなく発表されるハービー・ハンコックの「処女航海」を想起させる波のように漂う美しく新しい音色と、ウェイン・ショーターとの共演により、後の2人が70~80年代に織り成す世界観が早くも聴こえてくる贅沢な1枚である。
ビリーヒギンズの端正なドラミングと、ベースにはウェイン・ショーターの「ナイト・ドリーマー」で共演し、腕を鳴らした、レジー・ワークマンときているので、COMTEMPORARYの往年のMODERNを聴く機会が殆ど無い、リスナーも黙る作品と言っても良い。