ディスクユニオン ジャズスタッフ 12月度レコメンド・ディスク

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2023.12.27

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




BOB JAMES / JAZZ HANDS(HYBRID SACD) / JazzTOKYO 西川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008723301


ボブ・ジェームス節全開のスムース・フュージョン作品。どのフレーズもボブ・ジェームス好きが聴けば「あぁ~」と納得の内容です。80年代「微妙な時期!?」やFOURPLAY結成前の「GRAND PIANO CANYON」、また「COOL」に入っていてもよさそうな音を彷彿とさせる懐かしさも感じました。全般彼独特のグルーブやアレンジが随所に楽しめるのです。SACDマルチチャンネル収録を期待していたのですがステレオ収録のみでした。ハイブリッドですので通常のCDプレイヤーでも再生可能です。MQA-CD(MQA-STUDIO 44.1KHz)やLP(9曲収録)でも発売中です。





ジャズ録音日調査委員/日めくりジャズ366 2024年版 / 商品部 川村、JazzTOKYO 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008774738


創業してわずか数年ながら、これまで数々のヒット作を刊行し続けた新進気鋭の出版社『カンパニー社』が、なんと今回、日めくりカレンダーを作成!!!
毎日1枚ずつ、その日付に録音されたジャズのレコードを紹介(365作品!)していますので、単純にカレンダーとして利用するも良し、元旦からレコーディングしている作品とは?自分の誕生日にレコーディングされている作品とは?などの楽しみ方や、一つ一つ丁寧なレビューが書き込まれており、読み物としても大満足です。制作は1部ずつ手作りのようで、大きさこそコンパクトですが、汗と苦労が目に浮かぶ大大作品です。(営業部 川村)


ジョン・コルベットの『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』以来、カンパニー社の仕事にはいつも目を瞠るばかりです。ジャズを中心とした偏執的な知の世界を呼吸するように世に発信し続ける工藤さんという人は本当に稀有な人ですし、これだけニッチな仕事がしっかりとセールスを記録し続けているということは一つの事件だと思っています。実際、ジャズ・レコードの世界に足を深く踏み入れた人でなければ知らないようなタイトルが多くを占める中、この日めくりカレンダーは入荷以来飛ぶような勢いで売れています。
2024年はマニアックな選盤とコメントを日々の楽しみといたしましょう。あるいは、めくってもめくっても知らないレコードが紹介されていることに悦びを見出しましょう。カンパニー社の仕事はいつも類まれな探求心と構想力の産物であり、ジャズの迷宮をあっけらかんと開帳します。(JazzTOKYO 久保田)





TERRY RILEY & DON CHERRY / WDR RADIO, KOLN, FEBRUARY 23, 1975 / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008763227


テリー・ライリーかドン・チェリーのファンなら3曲目「Untitled」12分弱の為だけに買う価値あり!
過去に発売された、同音源を収録したアルバムは全て廃盤かつ入手難になっています。
1&2曲目に関しては「TERRY RILEY DON CHERRY DUO(または直輸入盤国内仕様:Unreleased Sessions Vol.1)」CD盤にフルバージョンが途切れずに収録されているので、中古で探す事をおすすめします。
ジャケットの「Quartet」表記は誤りで、少なくとも収録音源に限定するなら1&3曲目がデュオ、2曲目がテリー・ライリーのソロ。
両者ともインド民族音楽に親和性がある為、相乗効果的にお互いの良さを引き出しあったセッションになっていて堪らなく美味。
DON CHERRYの牧歌的フレーズにアグレッシブに絡むTERRY RILEYとか最高です。





DAVID WERTMAN / Kara Suite(LP) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008745472


Charles Tylerが中心の3管クインテットというのが1番の値打ちのアルバムではないだろうか。
良くドライブしつつ柔軟性もあるSteve Reid(DS)とDavid Wertman(B)のリズム隊。気持ち良いツボを心得た音程の咆哮/トーンをかますSAXの2人。フレンチホルンのRichard SchatzbergがまるでTBとTPの良いとこ取りの演奏で他の4人に引けを取らない。
アメリカン・フリージャズのど真ん中で満足感の高い1枚。





HASAAN IBN ALI / Reaching For The Stars(Trios/Duos/Solos) / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008769370


ベースにヘンリー・グライムスを迎えた曲者揃いのセッション。
エリントン〜モンクの流れにいるHASAAN IBN ALIの音を追いかけるだけでも面白い。
トリッキーでワイルドでありつつ、エリントンよりモンクより熱量高め。
ヴォーカルとのデュオが3曲入ってますが、ヴォーカルを立てる気無いのかと思うほどパッションがほとばしっちゃってて、個人的にはそんなとこが大好きです。





AMBROSE AKINMUSIRE / Owl Song / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008757465


アンブローズ・アキンムシーレが現代最高のトランペッターであることをこれほどまでに再認識させられる作品が他にあるだろうか。完全ソロ作『Beauty Is Enough』を挟んでノンサッチから届けられた、かつてのブルーノートのエースによる新作は、ビル・フリゼールとハーリン・ライリー、ギターとドラムとのトリオだった。速いテンポのテクニックも、斬新なアレンジもない。ゆったりと揺蕩うように、寄り添うように、少ない音数で繰り広げられるインプロヴィゼーション。淡々と、しかし深い情感を呼び覚ますようなアキンムシーレのトランペットの歌が、広いスペースの中でダイレクトに、あまりに美しく響く。フリゼールやライリーの演奏ももちろん見事なのだが、それさえ後景化させてしまいかねないトランペットに感嘆が漏れる。テクニックやスタイルを超越した、ジャズという音楽のもっとも大事なところを歌っているのではないか。そんな気さえしてくる、アキンムシーレでしかありえない傑作。年末にとんでもないものをブッこんでくれました。





BERNIE SENENSKY / Moment To Moment / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008735402


カナダの巨匠バーニー・セネンスキーの新作は、現代のモダン・テナー・タイタン、エリック・アレキサンダーを全曲でフィーチャー。リズム隊はライヴ録音の2曲で替わるものの、大半でドラムをジョー・ファンズワースが担っているという、現行モダン・ハードバップ・リスナーにとっては見逃せない座組ではないでしょうか。演奏については私よりも皆様の方がご承知のことと思いますが、月並みなことを言えば、何せまぁモダン系のベテラン勢ということでその安心感たるや。ファットな音色で吹きまくるアレキサンダーに、バッキングもソロも御年78と思えないシャープさを聴かせるセネンスキー、というバランスが面白い。決して奇抜なアレンジや尖った演奏ではありませんが、かといって保守的なレイドバックしたセッションにもならず、しっかりと聴かせるツボを押さえているあたりが流石。まぁベテランベテランと言いつつ、アレキサンダーとファンズワースは55歳、ジャズプレイヤーとしては油の乗り切った最も美味しい時期なわけで、聴きごたえは十分。速いテンポのM7なんかカッコいいです。普段現代ジャズばかりでモダン系ほとんど聴かない私が薦めるのもなんですが、ぜひチェックのほど。





HANIA RANI / Ghosts / JazzTOKYO 逆瀬川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008699059


本作のポイントのひとつはラニの歌にあると思う。歌声自体は過去作でも披露してきたが、本作では自らのヴォーカル―というよりもヴォイス―をフィーチャーした曲の印象が強い。押し出しの強くない可憐でフォーキーな歌声はSSW的であり、北欧的なメランコリズムも感じさせる。はじめはシンセの音が多めに思われたが中盤に差し掛かるにつれピアノも聴こえ、全体通せばエレクトロニックとアコースティックなサウンドのバランスは絶妙な塩梅。シネマティックなサウンドでもあるが決して大仰なものではなく、どこか内省的な印象を抱かせるのは、彼女の歌声が寄与するところも大きい。存在しない記憶を引っ張り出されるようなノスタルジーと、幽幻な音世界に浸る一枚。坂本龍一やファビアーノ・ド・ナシメント、BlankFor.msなど、アンビエント系の良作が多く印象に残った今年の締めくくりにふさわしい。





RAPHAEL PANNIER / Letter To A Friend / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008759497


ファラオ・サンダースがフローティング・ポインツと、ジェイソン・モランがBlankFor.msと共演していたように、本作もジャズとエレクトロニック・ミュージックの異種共演作である。フランスのドラマーによるミゲル・ゼノンを迎えたカルテットに、共演するのはドイツのDJ/エレクトロニック・アーティスト、アシッド・パウリ。カルテットの演奏にエフェクトをかけるようなアプローチで、生楽器のジャズとエレクトロが有機的に融け合い、揺蕩うような浮遊感を演出。エレクトロとコンボとのこういったコラボレーションはちょっと新鮮だ。どこか白昼夢のような幻想の世界を思わせる、独特なサウンドとグルーヴが本作のポイントだろう。そうは言いつつ、憂いを帯びたアルトしかり、演奏そのものの強度が高くてカッコいいわけで、ジャズリスナー的にはそっちに惹かれてしまうのだが。





チック・コリア / フューチャー・イズ・ナウ / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245774715


チック・コリア・エレクトリック・バンドが2016〜18年に行ったリユニオン・ツアーのライヴ音源が公式リリース。さすがにエレクトリック・バンドは音が古い&フュージョンみが強すぎるのですが、今や大ベテランのパティトゥッチ〜ウェックルらメンバーはまだしも、晩年期(誰もそんなこと思ってなかったですが)のチックが80年代の結成当時と全く変わらないテンションで、むしろなんならもっと多彩な手技で超絶技巧を繰り出してるの、やっぱりとんでもないなと思います。今聴くとやっぱりダサいんだけど、そうは言っても演奏技術と創造性を極めきった人たちなんだなぁとしみじみ。音のダサさに苦笑し、とんでもない演奏に笑う、今年はそんな年末でもいいんじゃないですかね。





ADAM LEVY / Spry / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008767087


今年の後半はギターものの入荷が多かった気がします。ジュリアン・ラージ、ラージュ・ルンドあたりが大きなタイトルですが、そんな中で紹介する本作もギタートリオ。ノラ・ジョーンズの初期3作を支えたギタリストのリーダー作です。つまりサウンドとしてはジュリアン・ラージやビル・フリゼールに通じるアメリカーナ系ギターの系譜。リラックスした雰囲気はそれこそノラ・ジョーンズ的なアメリカーナ・フォーク。ジャズ的なインプロヴィゼーションといった雰囲気ではないですが、リズム隊に迎えたラリー・グレナディアとジョーイ・バロンという強力な2名との巧みな絡みが美味しい、味わい深い一枚です。





ジャズ・ギター・マガジン / Vol.11 / JazzTOKYO 久保田、新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008766192


特集はアメリカーナとチャーリー・パーカーの二本立て。ジャズ・ギターを語る上で補助線の引き方が抜群でしょう? 前者はジュリアン・ラージへのインタビューにはじまり、(1)現代ジャズ・ギターとアメリカーナ(2)アメリカーナ作品ディスクガイド(3)ジャズへアプローチしたカントリー・ギタリストと魅力的な記事が組まれています。後者は主に奏者向けの内容ですが、パーカーのベスト・カバー・アンケートには目が留まる方も多いのではないでしょうか。
特集と同じくらいインタビューも魅力的です。マイク・スターン、シコ・ピニェイロ、そしてエフゲニー・ポボシーを見つけたところで私は購入を決めました。ハービー・ハンコック・コンペを獲って華々しくコンコードからデビュー作を出すはずだった彼が今に至る紆余曲折を話しています。
最後に、レジェンド寺井豊のインタビューがすごく面白いです。戦後まもなく高校1年生の寺井少年は楽器屋の前を通りがかり、スティール・ギターの音を初めて聞いて感激。見た途端に原理を理解した少年はそれを自作し、翌年に文化祭で演奏していたところ米進駐軍から声がかかり、あれよあれよとプロの世界へ。譜面も満足に読めない・情報も乏しい中で流行り曲の聴き覚えや手持ちのレコードを頼りに自分の感性で突破していった武勇伝を語っています。パット・メセニーとばったり出会い、関西弁のメセニーが寺井に降参し自信を深めたかと思えばアル・フォスターには萎縮し…という愉快なお話の数々に破顔しました。(JazzTOKYO 久保田)


今号の面白さは大方JAZZ TOKYO久保田さんの書いている通りです。
ジャズ・ギター・マガジンは今一番ジャズ学習者向けとして先鋭的な雑誌ではないかと思います。
今回は特にチャーリー・パーカーやバーニー・ケッセル等を扱っているので広くジャズ学習者に参考になるのですが、号によってはカート・ローゼンウィンケル等の現代ギタリストのフレーズ分析もしていたりして目が離せません。
なによりも管楽器向けの移調楽譜ではなく、C譜で掲載されるのでギター以外のジャズ学習者にも参考にしやすく、ジャズギターが現代ジャズシーンをリードしている面をふまえても今日本で一番のジャズ学習者向け雑誌だと思います。(新宿ジャズ館 木村)





エネミー / The Betrayal / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736164


ringsからエネミー、コマ・サクソの国内盤CDが出ると知った時は胸躍りました。ともに優れたグループでありながらまだまだそれに見合った知名度があるとは思えていなかったからです。ペッター・エルド(B)のいるところにはいつも面白いプロジェクトが動いているということをぜひ皆様に知っていただきたいですね。
エネミーは、ECMでもお馴染みキット・ダウンズ率いるピアノトリオです。Editionからリリースされた2019年の1stを覚えていらっしゃる方も少なくないでしょう。アグレッシブでとても興味深い作品でした。ただ、ゲスト参加もあってピアノトリオ感は若干薄く記憶していたのですが、今作はゲストなし。4年でこうも変わるかというほど鋭利で研ぎ澄まされた作品となっています。中でもジェームズ・マドレン(DS)の作り出すグルーヴに目を瞠りました。若き3人の強者が三位一体となった演奏は驚異的です。迷いなく今年のピアノトリオのベストに挙げます。





ファラオ・サンダース / ジャイアント・ステップス~デュオ・コンサート・イン・フランクフルト1986 / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245775715


ジャイアント・ステップスというタイトルが付いたウルトラ・ヴァイブの国内盤CDですが、これはありふれたリイシューものではないのです。映像では観たことのある方も少なくないでしょう、ファラオとジョン・ヒックスの86年独フランクフルトでのデュオ。あの美しいライブが世界で初めてCDになりました。
(1)79年にリリースされたヒックスの同名アルバムが初出の名曲。NUJABESにもサンプリングされた聴き馴染み深い曲ですね。(2)『Journey To The One』ではジョー・ボナーとのデュオで演奏されたコルトレーンの曲です。(3)ベニー・カーター作のスタンダードで、『Rejoice』では三管編成で演奏されました。(4)ファラオがコルトレーンのこの曲を演奏した音源はこのライブしかないはずです。ヒックスのソロも素晴らしいですね…と前半だけでも至福の名演というほかありません。後半のリリースも非常に楽しみです。





BlankFor.ms, Jason Moran, Marcus Gilmore / Refract / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008700777


電子音楽家BlankFor.ms(=Tyler Gilmore)と現代屈指のジャズ・ピアニストJason Moranの2人を中心にロイ・ヘインズの孫でもある鬼才マーカス・ギルモアも参加した変則トリオによる1枚です。劣化テープ・ノイズやアンビエント系アナログ・シンセと共演した前衛的な作風であるにもかかわらず聴き心地も良い優れた作品ですね。じっくり聴き込むもよし、環境音楽風に流すもよし、ジャズというジャンルを越境した秀作です。ジャケットも美しく、これはレコードで持っておきたい1枚でもあります。今後さらに評価は高まり、古典として未来も輝き続けるかもしれません。





MATT MITCHELL / Capacious Aeration / JazzTOKYO 久保田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008753352


NYのダウンタウン・シーンが誇る傑出した作曲家/演奏家であるアンナ・ウェーバーとマット・ミッチェルの初のデュオ・アルバムです。これがTZADIKから出るとは想像していませんでした。2人ともPiのイメージが強いですし、これまでTZADIKとの関わりがありませんでしたからね。10年に渡って共演してきた彼ら念願のデュオ作の制作をゾーンが後押ししてくれました。
幾何学的な短いフレーズに基づいた各曲は反復を伴いながら徐々に変化していきます。まったく違うことをしているようで不思議に絡み縺れ合いながら進行していく演奏は実に鋭利でスリリングというほかありません。戦慄くブロウも激しい打鍵も鳴りを潜め、若きマエストロ達が独創的で強度のある楽曲を共同して作り上げていくさまがここには収められています。





メタ・ルース / メタ・ルース・アンド・ニッピ・シルヴェンズ・バンド'78 / JazzTOKYO 古澤

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245776409


ヨーロピアン/ブラジリアン・ジャズのクラシックとして愛される、北欧スウェーデンの歌姫メタ・ルースの1978年セカンドがリイシュー盤で登場。基本はジャズヴォーカルの方なのに、クラブ・ジャズ系リスナーから人気が高い作品。その理由はオリジナル作品との絶妙の距離感だと思うのです。キーボードのニップ・シルヴェンズと組みリリースしたこのアルバムは、まさに傑作カバーのオンパレード。エリス・レジーナの名演で有名な「Zazueira」やニール・セダカの名曲「Here We Are Falling Love Again」、そしてビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」やキャロル・キング「You’ve Got A Friend」等、数々の名曲がオリジナルの良さを生かしつつ、素敵にメタ風にアップデート。師走に心落ち着ける一枚です。





菊地雅晃スターマイン / Hammon 波紋 / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245776955


菊地雅章の甥、という枕詞も知る者には不要なベーシストの新作。飛頭名義含めた過去作同様、洗練されたポップスへの憧憬を臆面もなく表出し、既存のジャズ観から遊離した別宇宙の、しかし紛れもないジャズを演じている。AOR=シティポップのエッセンスを抽出しダブ風味で彩った音作りには磨きがかかり、政治はおろか経済さえ実生活から乖離して法や規則でがんじがらめになった不寛容な世界で、愛を手放さない。矢沢永吉の"時間よ止まれ"ではボコーダーで自ら歌う。生演奏ヴェイパーウェーブといえるアンビエントな逸品。止めてもまだ足りない引き伸ばされた時間は16分に及ぶが、それすら過ぎてしまえば一瞬の夢。意識の境界が曖昧で時間軸がない不思議な世界。クールでありながらAIには決して生み出せない音楽がここにある。センチメンタルになってしまうことも許してくれる優しい58分間。





レザヴォア / Resavoir(second album) / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736165


浮遊感のある映像的で心地よい音が聞こえてくる。続いて視界に入るジャケット写真にすっかりやられてしまう。シカゴ拠点のウィル・ミラー率いるレザヴォアなるプロジェクトである。生楽器、ウーリッツァー、TR808その他ヴィンテージな電子機材を使用しており、20世紀のクラブジャズの面影がある。使用楽器や録音技術は大差なく、編集・ミキシングツールが多少新しいくらいか。にもかかわらず明らかに21世紀の、しかも最新の音に仕上がっている。録音遺産のサンプリングと屋外録音も鍵のようだが、やはり音を創造する者の感覚が新しいということに尽きるのだろう。パーカーもマイルスもコルトレーンも楽器構成は先代と大差ないのに斬新な音を生み出した。ならばこれもその末裔の2020年代進化系ジャズの一例と断言してもよいのではないか。サッポロ銀座ライオン缶ビールの季節がやって来た。





野本晴美 / I'll Be Home For Christmas / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008747489


キャリア初期にバップを習得してヴィーナスからアルバムデビュー、2作目からはその片鱗を残さず独自の音世界を探求するピアニスト野本晴美。アルバム"ヴァルゴ"の繊細で芯のある楽曲、"Ladyやまねこ"の優しさあふれる伴奏など印象的だ。絶妙な時期に届いた素敵なクリスマスアルバム。ソロピアノ、モンクの1曲、自然体なセンスに渋谷毅を連想する。曲構成がすばらしい。いい頃合いにタイトル曲~戦メリと続く。今年目立つ戦メリジャズカバーでも出色の出来。渋谷毅、坂本龍一、そして野本晴美も藝大作曲科出身、因縁めいた何かを感じるのはファンゆえの色眼鏡か? レノンの曲をフェードアウトして余韻を残した後、ラストのオリジナルが切なくも温かく、ライナーのコメントに涙腺が緩む。味のある表紙イラストもご自身の作品。併せてコルドンネグロなど手頃な辛口カヴァで乾杯!





JOHN ZORN / Memoria / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008641467


ジャズにはうんざりだ、聴きたくない、となったら好機到来。フリージャズコーナーを物色だ。ジョン・ゾーン? 名前は知っているが...首筋がざわつく破廉恥で怪しい語感どおりフリージャズの代表格か? 在庫CDが多い。アートワークはSM、死体とヤバ系からコミック、映画、幾何学模様など、どことなくお洒落。最近リリースのビル・ラズウェルとのデュオ作”Memoria”を聴いてみよう。作曲家としての作品が多い近年のJZがアルトで即興演奏する。とにかく上手い。狙い通りに奇天烈な炸裂音を放つ。BLはディレイ、ワウ、モジュールなど各種エフェクトを駆使して全体の音響をベースでこなす。パンク、ノイズ、現代音楽をも消化してフリージャズをポップアートに昇華したトリックスターJZ。お茶目で笑いを忘れない。演奏作品は過激な前衛最先端の劇薬揃いだが、作曲家作品は少々の毒を加味したポップで聴きやすい秀作が多い。12月発売の”Parrhesiastes"はメロウなエレピ満載の推し盤。フリージャズは気楽に自由にテキトーに。





CHARLEY ROSE / Dada Pulp / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008742636


“Dada Pulpe”––『ダダの雑誌』というタイトル、さて、どれほどアクの強い音楽だろうと身構えて聴いてみたら…オヤッ、意外にもストレート・アヘッドなワン・ホーン・カルテットではないですか!リーダーであるCharley Rose(フランス人なので「シャルレイ・ローズ」と読むのだろう)の公式サイトを覗くと、「ラヴェルやメシアンから霊感を得ている」との記載有り。確かにM3の〈Algui​é​n Te Dice Tango(誰かが君にタンゴを教える)〉における変則的なリズムは、メシアンの〈世の終わりのための四重奏曲〉を彷彿とさせる。しかし、基本的には直球勝負のアルバム。M7〈Bichon's Honeymoon(子犬のハネムーン)〉では、さながらバッハのようなサックスソロから始まり、パッヘルベルのカノン風の優美な音楽が展開。シャルレイのサックスの音色は上品できめ細やかだ。一方、女性ヴォーカルをフィーチャーしたM10〈La Morale à Z​é​ro(ゼロへの訓戒)〉にはエレクトロニックな意匠が施されており、現代ジャズファンもニッコリ。聴きどころ満載です。





Nils Petter Molvaer / Certainty Of Tides / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008770413


ノルウェーのトランぺッター、ニルス・ペッター・モルヴェルが自国の放送管弦楽団とともにオリジナル曲を録音した。モーダルで禁欲的な旋律線はマイルスの『オーラ』(パーレ・ミッケルボルク作曲)を思い起こさせるが、ストリングス中心の音像は20世紀「新ロマン主義」の現代音楽、例えばペートリ・ヴァスクスなどに近いか。ミッケルボルクはデンマーク人、ヴァスクスはラトビア人、そしてそれらが、モルヴェルの本領たるフューチャー・ジャズの重厚なビートとサウンドの下にまとめられる。まさに現代ノルディック・ジャズの王道的作品。再生した瞬間、私たちは遥か遠い未来、高度機械文明都市が滅亡し、長い年月を経て、森に閑かに覆われた美しい廃墟の傍らに立ち、自然の皓々とした冷気に出会う。それは未来であると同時に太古の、そして現在の私たちの鼓動だ。





コマ・サクソ / Post Koma / JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736163


スウェーデン出身のプロデューサー/ベーシスト、ペッター・エルドによる先鋭的なバンド・プロジェクト〈コマ・サクソ〉が新作を発表した。弦楽器が参加しフォーキーな美メロが印象的だった昨年の傑作『Koma West』から趣は変わり、ミュージシャンの演奏を素材とし、よりサンプリング=事後的な作業に軸足を置いた作品になっている。とはいえ、基本的なアティテュードに変化はない。ジャズを起点として、どれだけ尖れるか、どれだけ遊べるか、どこまで行けるのか。それはむろん先行する作品やシーンに対するむき出しの敵対心ではなく、ジャズそのものを聴き手に再考させようとするクリティカルな態度でもない。寧ろ、エルド自身およびコマ・サクソの仕事をどれだけ更新できるかという、極めてストイックかつプリミティヴな野心だろう。





Matana Roberts / Coin Coin Chapter Five: In the garden / JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008702410


ジャズの歴史とは、つねに批評の歴史だったはずだ。スウィングからビバップ、ビバップからハード・バップへのシフト、そしてフリーやフュージョンの発生、いずれも偶発的なものではなかっただろう。そこには一定の批評性があった。だからこそ人々に受容されたのだ。そうして無数に枝分かれし、発生/分裂/融合を繰り返してきた音楽の、フロントライン。そこに立てば、嫌でも分かるだろう。後方に〈JAZZ〉と彫られた立派な墓石が見える。その地点で、これはついていけないと引き返すのは悪ではない。ただ、かつてジャズと呼ばれたもの、その歴史を今も更新しているのは、その地点から先へ、勇んで歩みだした者たちであるということだ。ここに取り上げたマタナ・ロバーツも、形骸化したフレームから脱却し、表現の可能性を探求し続ける勇敢な芸術家の一人である。ここは、無限にひらかれた可能性の地平なのだ。さあ、今からでもまったく遅くはない。愛すべき〈JAZZ〉に別れを告げ、来るべきジャズ――〈POST-JAZZ〉の地平に旅立とう。





JOHN COLTRANE / CATS / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 板橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008721379


ケヴィン・グレイのマスタリングにより、トミー・フラナガンのプレイ・作曲センスを堪能できる屈指の名盤が、"OJC" Seriesからリイシューとなりました。本盤は全5曲中4曲がトミー・フラナガンのオリジナル曲。代表曲である「Eclypso」、「Solacium」も収録されており、メンバーもデトロイト名手に、コルトレーン参加と申し分なし。ここ近年では、これほどしっかりとした作りでレコード再発がされていなかったタイトルだけに非常に嬉しい限りです。





LES JARDINS MYSTIQUES VOL.1 / MIGUEL ATWOOD-FERGUSON / 新宿ジャズ館 四浦、新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739475

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008739470


J・ディラへのトリビュート作「Suite For Ma Dukes」で一躍、注目を浴び、フライング・ロータスを筆頭とするLAシーンを常に支えてきた彼が、CD3枚組となる大作をリリース。参加ミュージシャンはジャズ界隈だけでもBennie Maupin, Jeff Parker, Marcus Gilmore, Jamire Williams, Burniss Travis II, Deantoni Parks, Brandon Coleman, Marcus Gilmore, Austin Peralta, Thundercat, Kamasi Washington, DOMi & JD Beck, Carlos Niño, Jamael Deanなどなど。この顔ぶれを見ればジャズの今が詰まっていることがわかるだろう。本作にも参加するオースティン・ペラルタの「Endless Planets」のDeluxe Editionのリリースも近くあるので、あわせて今一度、LAビート・シーンとジャズの関係を考察していただきたい。(新宿ジャズ館 四浦)


J・Dillaを讃えた伝説的な追悼ライヴ『suite for ma dukes』から約15年。ジャズ畑からはKarriem Rigginsも参加していましたが、当時はそんなことも関係ないほど、当店ではこの作品の話がよくされており、私も夢中になりました。
本作では盟友Carlos NinoやLA勢ジャズミュージシャンはもちろん、NYや各方面からもアーティストが結集し、ミゲルの作品としてはこれまでで最もジャズ本線に迫る構成として、彼の集大成への道のりが始まりました。
作品中1/3程に渡るジャズ音源では、とても巧妙にミゲルの語法がシーケンスされていて、これまでのBrainFeeder作品の中でも、00年代以降のジャズに最も地続きで文脈化されているように感じます。
求心力がピークに達していたあのころのLAシーンに見た希望が、『suite for ma dukes』の残像と共に、ジャズを再駆動し始めたように思えます。(新宿ジャズ館 有馬)





PHINEAS NEWBORN JR./World of Piano!/ 吉祥寺ジャズ館 山脇
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008655405


PHINEASのContemporary Recordからリリースされた記念すべきファーストアルバムで、リズム隊は、同レーベルのART PEPPERのMeet To The Rhythm SectionのPhilly Joe Jones、Paul Chambersに、Canonball Adderleyのバンドで腕を鳴らした、ドラムスのLouis Hayesが参加している。
Contemporaryらしい、東海岸のBLUE NOTEとは一線を画す西海岸を感じさせる現代的で洗練された軽やかさとしなやかさを併せ持ったサウンドから繰り出すエンジニアの思想、PHINEASの流麗且つワープしたかのような錯覚に陥るピアノも同時に堪能出来るそんな貴重な1作である。





ANAGRAMS / BLUE VOICES (LP) / 吉祥寺ジャズ館 田口
https://diskunion.net/clubt/ct/detail/1008739304


地中海バレアレス諸島が拠点のニューエイジ・アンビエントレーベルBALMATからリリースのアンビエントジャズ作品。アンビエントのような質感をもちながら、実験的なジャズとして聴きごたえのある作品です。マルチプレイヤーのユニットということで、様々な楽器や多様な音楽スタイルをバランスよく交えており、浮遊感のある気持ちいいサウンドです。サム・ゲンデルなど好きな方にもおすすめです。リラックスしたい時にも是非!





SAM WILKES / Driving(LP) / 商品部 池田

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008767503


サム・ゲンデルとのデュオ作は言わずもがな、日本では星野源、長谷川白紙の楽曲へのゲスト参加などでも知られるLA音楽シーンを担うベーシスト、サム・ウィルクスが自身のレーベル第1弾作品を発表。ジャケ写のイメージ通り、お得意の浮遊感あるアンビエント・ムードは健在ですが”インディー・ロック・アルバム”というだけあって普段ウィルクスをチェックしていない人にも刺さる1枚なはず。本人のLo-Fi系ヴォーカルも良い味出してる(思ったより歌ってます!)本作はぜひレコードで。