上海ジャズ・シーンを代表するヴォーカリスト、ヴォイジョン・シー来日直前インタビュー【アジア・インタビュー連載企画Vol.4】
アジア各国のレコードショップやミュージシャンにインタビューを行う連載企画。
第四弾は、最新アルバム『Queen and Elf』を引っ提げ、6/19 (木) に 東京・BAROOMにて、初のフルバンドセットで100席限定のスペシャルライブをおこなう中国のジャズ・ヴォーカリスト “Voision Xi(喜辰晨)” の来日直前インタビュー!
上海のジャズ・シーンから頭角を現し、ベッカ・スティーヴンスなどの現代ジャズ・ボーカルはもちろんのこと、ヒップホップ/R&B、フォークトロニカ、ブラジル音楽などからの影響を高度に消化した初のアルバム『Lost for Words(欲言又止)』(22年)で東アジア発のジャズの可能性を多彩に更新したヴォイジョン・シー。中国における新世代ジャズ勢のポテンシャルの高さを緻密な音作りで示した前作を経て、昨年末にリリースされた2作目の『Queen and Elf』ではより研ぎ澄まされた詩情豊かな新境地を聴かせ、尽きない才を深化させ続ける彼女が、6月19日(木)に東京・南青山のBAROOMで日本では初の本格的なバンド・セットによるライブを行う。幻想的にしてトータル性の高いサウンドを展開した『Queen and Elf』が描く世界、そして日中混成の6人編成で奏でられる貴重な公演についてステージを目前に控えた彼女に語ってもらった。
序文/インタビュー : 吉本秀純
編集 : diskunion
中国語通訳:Tomo(Caravanity)
――前作『Lost for Words(欲言又止)』がそれまでのあなたの活動の集大成的な内容だったのに対し、2作目の『Queen and Elf』はアルバム全体でひとつのストーリーを描くようなよりトータル性の高い作品になっていると思います。まずは前作を経て、次はどんな作品を作りたいと考えていたのかを聞かせてください。
前作を作り終わったばかりの頃は、その次は何をするかをまったく考えていなかったし、次の予定もなかったんですけど、新しい曲はもう作り始めていました。22年1月に『Lost for Words』を発表し、その年はすべてをこのアルバムのプロモートに費やそうと決めたんですが、プロモートをしながら曲を作り始めて、年末あたりにはもう4~5曲が完成していたんです。あの1作目は楽曲ごとに伝えたいことが異なっていたし、色々な要素が入っていましたが、その4~5曲はお互いに似ている部分があったので、次の作品では全曲をリンクさせ、1曲1曲に関係性を持たせようと思い始めました。
――『Queen and Elf』は、ひとつの幻想的な物語のような作品です。それはどこから着想したり、イメージを広げていたりしたんですか?
2022年の年末からアルバムのイメージが浮かんでいましたね。最初の方に書いた曲は、例えば自然や身の回りの人たちのこと、夢で見たことだったりが題材となっていて、当時の自身の生活を感じるような曲もあれば、もっと楽曲に想像的なスペースを持たせた幻想的な曲も作り始めました。そして、23年10月に香港の Freespace Jazz Fest に出演し、その時のバンドに〝Queen and Elf〟というプロジェクト・ネームを付けました。香港は歴史が長く物語が多い街なので、まずそこから〝女王〟という言葉が浮かびました。もう一方の〝妖精〟は香港の隅々にあの街を作り上げた小さな欠片のようなものが散らばっているイメージで、それをエルフと名付けました。で、その日のライブは、天候があまり良くない中でトリを務めたんですが、結構ドラマチックで印象深いステージとなったので〝Queen and Elf〟という言葉がすごく記憶に残り、そのまま次の作品のタイトルにしようと決めました。その頃には、作品の 60%くらいは出来ていたので、その後はもう全部このタイトルをテーマに曲を作っていって、クイーンのようにすごくエネルギッシュな曲もあれば、逆に小さな動物や、小さな精霊、または生まれつき弱い生き物といったキャラクターを思わせる曲はエルフという感じで。そのどちらも、自分にとってはすごく大切なキャラクターということになります。
――新作に関するオフィシャルの解説文を読むと、11曲目に収録された「How Do You Hold A Moonbeam?」は、タイトルがミュージカルの名作『サウンド・オブ・ミュージック』の中の主人公・マリアに関する曲の歌詞の一節から取られたものとのことで、重要なインスピレーション源の1つとなったと思うのですが?
はい。『サウンド・オブ・ミュージック』は幼い頃から親しんできた作品で、引用した「Maria」はその中の曲です。その曲は主人公のマリアが修道院から離れることになった場面で歌われる楽しいパートが 95%くらいなんですが、最後の方で〝How Do You Hold A Moonbeam In Your Hand?〟と疑問形で歌われ、その部分だけがどこか切なげな感じになるんですね。子供の頃にはそんなに気にならなかったんですけど、その部分のコード展開と曲の雰囲気の変化がとても芸術的に感じられて。
――確かに、聴いてみると曲の終盤の部分だけ雰囲気が変わりますね。
なので、ヒップホップのサンプリングみたいな手法というか、その部分をそのまま引用するわけじゃなくて、最初に自分で歌い直して、そのメロディに違うコードとかを付けてアレンジし直す中で生まれたのが6曲目の「Kagi 鍵」でした。この曲は、大人になるにつれて、現実に直面し、白黒の定義もどうすればいいか分からない状態になった時――例えば、子供の頃には得意だと思っていたことが、突然役に立たなくなったり、その特別な能力を奪われたように感じた時――に、どうすればよいかとこの世界との向き合い方について考えた曲ですね。
そして、この日本語の〝鍵〟という言葉には、英語ならば〝key〟と〝lock〟という2つの単語に分かれるような反対の意味が1つの単語の中に含まれている点にとても惹かれたんです。それが自分が考えていたこととも近かったので、曲のタイトルにしました。
――なるほど。曲のMVでも、そのような心の葛藤が描かれているように思います。後半に凝ったスコアのラージ・アンサンブル的な管楽器が加わってくるドラマチックな展開も含め、アルバムの中核をなしている楽曲であるように感じました。
この〝Queen and Elf〟というアルバムには実は表題曲が存在しないんですが、ある日、さきほどお話しした「Maria」についての考えを台湾のジャズシンガーの蔡雯慧(Wen-Hui Tsai)に話したら、彼女が曲を一緒に作りたいと申し出てくれて。ただ、「Maria」のあの部分は「Kagi 鍵」を書く時に使ってしまったので、「How Do You Hold A Moonbeam?」というタイトルで別の曲を作ろうということになりました。だから、この曲はもうアルバムの表題曲みたいな位置付けです。
――サウンド面に関しては、前作よりもシンプルになったのが特徴的です。エレクトロニクスや多重録音のコーラスなどを多用して、内省的なシンガー・ソングライター的な色合いが強くなりました。サウンド面について意識していたことは?
シンプルさに関しては、エルフという言葉をコアとして作ったことで夢のようなサウンドになったのもありますが、今回すごく意識してやったのが音の引き算ですね。例えば、「この曲のこの部分はそんなに重ねない」とか、「ボーカルや楽器の音を前に出す」みたいなことをやろうとしたんですが、これは以前から取り組みたかったことでした。たまたま他の音楽家の作品を聴いていて、「この曲はそんなにテクニカルなことはやっていないけど、シンプルでとても良いな」と思ったことがあって。それはもともとそのアーティストの声だったり、楽器の音がすごく良いからなんですが、ちゃんとそうした良さを活かしたものにしたいということで、今回はシンプルなサウンド・デザインを心がけました。あと意識していたことは、ライブでの再現性の高さですね。例えば、ライブで再現するのが少し難しい音を使ってしまうと、そのためだけにもう1人のプレイヤーを雇わなきゃいけないみたいなことが起こったり、同期を使うとライブでやる意味が減る気がしたりして、それもシンプルにした理由でした。
――音数を絞ったことで、多重録音のコーラスの良さなども浮き立った気がします。
ボーカルのレイヤーもすごく大事だと思っています。私は決して声量が大きいわけではなく、どちらかというと優しい声質ですし、コーラス・パートがとても好きなので。歌に関して話すと、1つの楽曲の中には、決して全部がメインのメロディではなく、鼻歌みたいな部分もあったりします。リード・ボーカルの部分だけじゃなく、コーラスやハミングみたいなパートも曲の中にあるべきものとして、1つの楽器、1つのキャラクターとして入れていますね。だから、聴いてもらえる方にはメインの歌のパートだけじゃなくて、ハミングやコーラスも含めたトータルな表現として楽しんでいただけると嬉しいです。
――また、Apple Musicで5月上旬にあなたのDJ ミックス『BAIHUI PICKS 001:Voision Xi』が公開されましたが、ルイス・コールから始まってサンパ・ザ・グレート、高瀬アキ、さっき話に出た「Maria」、フローティング・ポインツ、ナナ・ヴァスコンセロス、ジョイスなどが入っていましたね。あなたの音楽的な好みがよく反映されているとともに、アルバム制作中に影響を受けた曲がかなり含まれている選曲ではないかと感じたのですが、いかがですか?
この DJ ミックスは、もともとは去年、2作目をリリースした2日後の11月23日に公開される予定だったんです。中国の新しいオンライン・ラジオ局のBAIHUI百会とApple Musicの提携による企画で、何かのトラブルで遅れて5月の公開になってしまったのですが、もともとは自分が好きな曲や『Queen and Elf』を作る上で影響された音楽をリスナーたちと共有するのが目的でした。選んだのは自分が普段聴いている曲で、エレクトロの曲だけどアンビエントっぽくてそんなに激しくない曲とか、好きなサウンド・デザインの曲とかですね。あとはグルーヴのある曲が好きで、ジャズ、ヒップホップ、ロック、ワールドなどの様々なジャンルから、私は自分の好きなグルーヴを見つけるのが得意なんです。曲の原始的な部分、その元にある部分を探すのが好きで、ブラジルの音楽家の曲なども選んでいます。
――ジョイス直系の歌メロの背後でシャープなアフロビートのリズムが効いている3曲目の「Muse(for Joyce)」や、90年代の日本のエキゾ志向なアンビエント・ポップにも通じるような12曲目の「Southern Shanghai」あたりの背景も、このミックスを聴くと納得できる気がします。そして、6月19日(木)には東京・南青山のBAROOMにて、中国から同行するプレイヤー3名と日本人プレイヤー2名による日中混成のメンバーとともに、日本では初の本格的なバンド編成でのライブが行われます。
今回はこれまでに行った中国でのツアーと同じ6人編成です。今まで日本に来る時は私1人だけでしたが、今回は中国のプレイヤーを日本に連れてこれるのがとても嬉しいですし、今までやりたかったステージをより完全なかたちで伝えられるんじゃないかなと考えています。日本の2人とは以前に下北沢などで一緒に演奏したことがありますが、今回は正式に共演ということになりました。ただ、ドラマーがいるところにパーカッションが入るという編成は中国でもやったことがないので、新鮮です。選曲の90%は今回の『Queen and Elf』の曲になりますが、過去に2作品リリースしているEPに収められた実験的なエレクトロニカの楽曲から1曲をライブ・ヴァージョンでやりたいと考えていて、あとはサプライズとして好きな日本の曲をカバーしたいなと。ただ、日本語の発音などが完全に準備できなかった時にはやらない可能性もあります。
――中国から同行する3人のプレイヤーの特徴などを聞かせてください。
ドラマーの高可超 (Kevin Gao)は、ドラマーとして高いエネルギーとテクニックを持っていながら、メロディや歌詞を作ることもできる優れた才能がある方です。過去にもサポートしてもらったことがあり、もう1人のバンドリーダーみたいな位置にいる方です。非常に人気なプレーヤーで、常に忙しくされているので、今回一緒に日本に来られるのがとても嬉しいです。谭子鹤(zuho)はシンセサイザーと管楽器のマルチ奏者ですが、今回のアルバムの9曲目の「We Could Be Shy」では演奏だけでなくアレンジも担当してもらいました。そして、ピアノ&キーボード奏者の邓亚蒙(Damien Deng)は今回が初共演なんですが、鍵盤のテクニックが好きで一緒にできるのを楽しみにしています。彼は会場にスタンウェイのピアノがあることをとても喜んでいるようです。
――ベース奏者の小西佑果さんとは、過去に日本に来た時に何度か共演してきましたよね。彼女との繋がりや音楽家としての魅力についても聞かせてくれますか?
中国に共通の友達がいてその人を通じて知り合ったんですけど、これまでに3回共演して、彼女の故郷である金沢で2人だけでのライブもやりました。その時のライブのテーマは〝アンビエントとジャズ〟で、スタンダードを歌う必要性もなかったので、2人で自由に実験的なパフォーマンスができたのがとても良くて関係が深まりました。彼女はもの静かな感じの人ですけど、ベーシストとしての力量やサポートする能力がとても高く、どう雰囲気を作っていくかをよくわかっている音楽家だなと思っています。
▼これまでのインタビュー記事はこちら
■【Vol.1】韓国のレコードショップDOPE RECORDSのオーナーKEVINさんに聞く韓国の音楽カルチャー
https://diskunion.net/news/detail/1391
■【Vol.2】NUSANTARA BEAT インタビュー! スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドで来日
https://diskunion.net/news/detail/1618
■【Vol.3】Moguさんってどんな人?〜阿佐ヶ谷mogumogu店主の音楽遍歴と、90年代以降の中国ロック音楽のこと
https://diskunion.net/news/detail/1390
■【Vol.4】上海ジャズ・シーンを代表するヴォーカリスト、ヴォイジョン・シー来日直前インタビュー
https://diskunion.net/news/detail/1353
■【Vol.5】台湾の注目SSW イーノ・チェン (鄭宜農) に聞く最新作『圓缺 Moon Phases』の制作背景とこだわり
https://diskunion.net/news/detail/1372
■【Vol.6】韓国のシンガー・ソングライター、ウ・ジウォン(Woo Jee Won, 우지원)インタビュー
https://diskunion.net/news/detail/1361
■【Vol.7】韓国の注目プロデューサー JINex に聞く最新作『ETERNAL』制作秘話と創作の源泉【アジア・インタビュー連載企画Vol.7】
最新ニュース LATEST NEWS
2026.09.24
ラテン・ブラジル・ワールド
2026.09.24
ラテン・ブラジル・ワールド
2026.09.23
ラテン・ブラジル・ワールド
2026.09.20
ラテン・ブラジル・ワールド
2026.09.11
ラテン・ブラジル・ワールド
こちらから
ニュース&特集 NEWS & FEATURES
2026.09.04
トピック
2026.09.04
トピック
2026.10.07
ソウル・ブルース
2026.10.06
ノイズ ・ アヴァンギャルド
2026.10.06
ノイズ ・ アヴァンギャルド
2026.10.06
ジャズ
2026.10.06
レゲエ
2026.10.06
ソウル・ブルース
2026.10.06
平成J-POP
2026.10.06
ゲームミュージック
2026.10.06
ゲームミュージック
2026.10.06
平成J-POP
2026.10.06
日本のロック・J-POP
2026.10.06
平成J-POP
読み込み中...
アーティスト
タイトル
レーベル
詳細検索
読み込み中...