2026.05.12 ジャズ 特集・お知らせ

昭和100年記念特別企画 diskunion presents レコードでたどる日本とジャズ 第5回

昭和のバンドマンの息子として生まれ育ち、そのルーツである日本のジャズについて探求を続ける音楽ライター原田和典が綴る「レコードでたどる日本とジャズ」 第5回



「日本のジャズ史」的資料、もしくはある程度詳しく踏み込んだ「昭和風俗史」的資料の、昭和27~28年頃の項にはかなりの頻度でこう記されているはずだ。
“史上空前のジャズ・ブーム到来”---------

 だがこれが何であるのか把握することは、後世を生きている者にとってはなかなかの難題だ。ただ洋楽が一気に身近なものになって、それを歌ったり演奏したり熱狂したりする日本人も激増し、その中には十代の子供たちも少なくなかった、ということは理解できる。テレビジョンの登場もそれを後押ししたに違いない。昭和28年2月1日にはNHK、8月28日には日本テレビ放送網が本放送を開始している。新しいメディアにふさわしいのは、新しい音楽だ。初期のテレビ番組は生放送ばかりで、時間通りに始まらないことも終わらないこともあり、機材のトラブルも日常茶飯事だったときく。そういうときに強いのは「出たとこ勝負」のできる者だ。ジャズメンが夜の仕事の前に、ちょっくらスタジオにスタンバイしてアドリブ的に演奏して場をつないだことも多々あったのではないか、と私は想像する。

 さあ、史上空前のジャズ・ブーム、これはまたジャズ・コンサート・ブームでもあった。今年は昭和100年だが、ちょうど50年前の昭和50年(1975年)に、実に興味深い作品がビクター音楽産業(当時)から発売されている。タイトルは『日本のジャズ歌手たち~ジャズコン華やかりし頃』。ジャズコンとはジャズ・コンサートの略語だ。言葉というものは普通、使われる頻度が高くなければ(人気がなければ)略されない。会話の中で何度も繰り返すのが面倒だから略すのだ。それに、略す場合、相手と自分の間で「何のことだかわかる」共通認識がなければコミュニケーションは成立しない。つまり昭和27~28年の人々の間では、会話中に何度も略称が繰り返されるほどジャズのコンサートが話題になっていた、ということである。

 『日本のジャズ歌手たち~ジャズコン華やかりし頃』のライナーノーツに、評論家の油井正一は書いている。
“突如として日本中をジャズコンが吹き荒れたのだ。会場を十重、二十重と取り巻く青年男女。ダフ屋が出てプレミアムづきの切符を捌いたものだ。(略)冷静に考えると、昭和27~8年を頂点とするジャズコンは、正確には「ポピュラー・シンガー・ブーム」であった。本当のジャズ・スターの座はジョージ川口が一人で確保していたといえるかもしれない。ジャズ・プレイヤーはスターではなく、ジャズコンの中心スターは、日本人には耳慣れぬ、しかしあこがれの英語で歌うシンガーたちであった”。

 こう油井正一が振り返っていることは重い。彼は昭和30年春に上京、それまで神戸に住んでいた。ちなみに昭和25年の時点で東京・大阪間は最短8時間かかった。かように離れた場所で、いったい、東京のジャズコン・ブームの大騒ぎをどう感じていたのだろう。彼は昭和31年にインディペンデント・レーベル“ロックウェル”を岩味潔と共同で設立し、やがて、一度も商業録音を残すことなく逝ったピアニスト・守安祥太郎の音源を通信販売でリリースする。この事実も、また重い。

 話を昭和28年に戻す。この年は日本劇場(日劇)、国際劇場などでジャズ関連のコンサートやレビューが行われ、6月14日に大阪朝日会館で行われたJATA(ジャズ・アット・ザ・アサヒ)コンサートを日本ビクターがライヴ・レコーディング、夏(おそらく8月8日)に大阪・西宮球場で開催された「たそがれコンサート」には3万5000人が集まったと伝えられる。いまでいえば「さいたまスーパーアリーナ」の最大収容人数に迫る。先に触れた日本テレビの放送初日、正午からの音楽番組「歌の祭典」の出演者には歌手の新倉美子(当時、ジャズ歌手として認識されていた)の名が記載されている。ちなみにジャズ・ブームの三大楽団と目されたのは“渡辺晋とシックス・ジョーズ”、“与田輝雄とシックス・レモンズ”、ジョージ川口をリーダーとする“ビッグ・フォー”。最後のバンドにはビッグ・フォアやビッグ4というカナ書きもあり、そこに定冠詞“ザ”や枕詞“ジョージ川口と”がつくと、表記ユレのバリエーションが相当に多くなる。検索結果がまとまらないバンドのひとつだ。

 初代ビッグ・フォーは、“池田操とリズム・キング”にいたジョージ川口(ドラムス)と小野満(ベース)、シックス・ジョーズにいた松本英彦(テナー・サックス)と中村八大(ピアノ)が合流する形で、53年5月に発足した。最年長の松本は大正15年(1926年)、最年少の中村は昭和6年(1931年)生まれ。53年当時のメンバーの平均年齢は25歳にも満たなかった。まさしくヤング・ブラッズである。結果として彼らは空前のジャズ・ブームのほぼ末期に登場し、この騒ぎをさらに白熱させた。4人がリアルタイムで演奏していた時期は1年に満たなかったはずだが(後年、何度か再結成)、日本ビクターや日本マーキュリーに録音が残されているのは幸いだ。そのうち日本マーキュリーから出たとされるのは「フライング・ホーム」(2枚組4面)、「ス・ワンダフル/ハウ・ハイ・ザ・ムーン」、「ペーパー・ムーン/ブロー・ボーイ・ブルース」、「テンダリー/スリーピーズ・アイディア」、「特別航空便/唯一つのもの」、「コットンテイル/フラミンゴ」、「テンプテイション/ジー・ケイ・ストムプ」、「サヴォイでストムプ/嫉妬」、78回転盤である。“スリーピー”は松本のニックネーム、“ジー・ケイ(G.K.)”はジョージ川口のイニシャルを示しているのだろう。が、「ペーパー・ムーン/ブロー・ボーイ・ブルース」のラベルを見ると、このドラマーの英文スペルが“Jorge Kawaguchi”になっている。こうなると呼び方がホルヘになり、一気にラテンぽくなる。

 1995年、この日本マーキュリー音源がキングレコードより『日本ジャズ創生記 ジョージ川口&ビッグ4』というタイトルでCD化された。先に触れた楽曲からは、「特別航空便」の盤、「コットンテイル」の盤、「テンプテイション」の盤、つまり計6曲が含まれていない。復刻に際して78回転盤が見つからなかったのかもしれないが、空前のジャズ・ブームの一翼を担い、「超満員の球場で4人がホームベース、1塁、2塁、3塁に分かれて演奏した」、「何万人ものファンが突進してきて会場がぶっ壊れた」、「現金払いの超多額のギャラを荒縄で縛って持ち歩いた」と伝えられるバンドだけに、レコードも相当売れていた、と考えたほうがおかしくない。1953年~54年のレコーディングだからテープ収録された音源を78回転盤にカッティングしたのではと思われるが、当時の日本マーキュリーのマスターテープは残っていなさそうだ(東海林太郎や、瀬川瑛子の父である瀬川伸の歌唱を収めた5枚組CD『日本マーキュリーの魂と心に響く懐かしの歌謡曲100』も、私の耳にはすべて盤起こしに聴こえた)。いつかコンプリート・ビッグ・フォー・オン・日本マーキュリーを楽しみにしたいものだ。

 『日本ジャズ創生記 ジョージ川口&ビッグ4』の冒頭を飾るトラックこそ、「フライング・ホーム」(パート1~パート4)である。計12分に及ぶ、当時のレコードとしては異例ともいえる長尺パフォーマンスで、しかもパート1は4分近い。これを25cmの78回転盤の片面に収めたのだとすれば、カッティングにも大変な注意が払われたことだろう。『日本ジャズ創生記』が出た頃、私はジャズ雑誌に務めていて、すでに松本英彦やジョージ川口の実演は何度か体験していたので、「おお、あの伝説のオリジナル・ビッグ・フォーのライヴ音源がここに入っているのか」と喜び勇んでディスクを再生したことを覚えているのだが、聴いていくうちに不思議な気分になったことを覚えている。

 「戦後のジャズ・ブームを沸騰させたバンド」だもの、熱狂だらけの大ブロウ大会だと思っていたのだ。しかも美男子の小野満には会場からは女性ファンから「みっちゃん!」という嬌声が飛び交ったということもどこかで読んでいたから、“キャー、ワー”(観客)、“ブキョブキョー”(サックス)、“ドカドカ、バッシャーン”(ドラム)、“ヴォーン”(ベース)、“みっちゃーん、素敵―!”(ヲタ)という、なんというか、ザ・ビートルズやザ・タイガースのライヴの先駆けのような風景が盤に刻まれていると勝手に予想していたのだ。が、果たして、そこで聴けたのは、非常に抑制の利いた、アレンジメントのしっかりなされた12分であった。そもそも最初に登場する司会者の口調が、なんともいえずかしこまった印象だ。

 改めて聴いても感じたのだが、本当にこれは日ごろの彼らの実演を現場で捉えられたものなのだろうか? だいいち拍手が数的にも音量的にもずいぶん控えめだ。ひょっとしてスタジオに“演奏をちゃんと聞く”ファンを招いて録音したのか、それともラジオの公開放送かなにかのひとこまなのか。隣近所の16歳の女の子と一緒に“ジャズ大会”に行ってビッグ・フォーの演奏に接した漫画家の小野佐世男が、「太鼓を、まるで神技の如くあつかうさまは、まるで狂人の如く、獅子の如く」、「広い舞台が、たった一人のジョージと太鼓の轟きに一ぱいあふれ」、「小野満、松本英彦、中村八大の神技は人が楽器か楽器が人か」と著書『猿々合戦』(奥付は昭和28年9月)で記した情景が浮かんでこないのだ。

前のページへ戻る
商品一覧・検索は
こちらから

ニュース&特集 NEWS & FEATURES

もっと見る

イチオシ商品 STAFF RECOMMEND

(ANIMATION MUSIC) / (アニメーション音楽) / New PANTY & STOCKING with GARTERBELT The Vinyl
New PANTY & STOCKING with GARTERBELT The Vinyl

2026年09月30日 / LP(レコード) / JPN

新品在庫あり

レコード レコード

¥7,150 (税込)
Sweet William / Division(LP)
Division(LP)

2026年09月30日 / LP(レコード) / JPN

新品在庫あり

レコード レコード

¥5,800 (税込)
FLIS / HE LOVES YOU / HE LOVES YOU(DJ KOCO Boogie Mix) (7")
HE LOVES YOU / HE LOVES YOU(DJ KOCO Boogie Mix) (7")

2026年09月30日 / 7"(レコード) / JPN

新品在庫あり

レコード レコード

¥2,420 (税込)
TOTALITAR / TOTALITAR (LP)
TOTALITAR (LP)

2026年09月26日 / LP(レコード) / IMPORT

新品在庫あり

レコード レコード

¥5,500 (税込)
PHIL LORD & CHRISTOPHER MILLER  / フィル・ロード&クリストファー・ミラー / PROJECT HAIL MARY 4K UHD
PROJECT HAIL MARY 4K UHD

2026年08月11日 / BLU-RAY(ブルーレイ) / IMPORT

新品在庫あり

映像 映像

¥8,030 (税込)
もっと見る

読み込み中...

アーティスト

タイトル

レーベル

マニアック検索

詳細検索

読み込み中...