ディスクユニオン ジャズスタッフ 1月度レコメンド・ディスク

ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!
マリエル・コーマン / イズント・イット・ロマンティック? / JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009156391
オランダのおしどりジャズ夫婦 マリエル&ヨス、ひさしぶりの澤野工房からの新作(あらためて振り返ると、ご夫婦で20年近くも同レーベルから作品をリリースし続けているのですね)。今作はガーシュウィンやリチャード・ロジャース、ハロルド・アーレンらを中心としたアメリカンスタンダード集。良き時代の良いメロディをじっくり楽しめる仕上がりに。しかしマリエルって音域が広いとか、ずば抜けた声量があるとかではない(失礼!)のですが、ナチュラルで時に語りかけるような歌の魅力があって、デビュー当時から変わらないものと思います。旦那さんのヨスのピアノはオスカー・ピーターソンの流れをくみつつ、よりシンプルでスインギー。この2人の声とピアノって、実にベストなマッチングだと思います。前述のようにスタンダードを中心にした、奇をてらわない選曲ですが、例えば「Isn’t It Romantic?」はヴァースからじっくりとスタートしていたり、「Manhattan」は、リー・ワイリー的なスイングテンポでなくスローな設定。そしてアメリカンスタンダードと私言っておきながら、途中に入るカルロス・リラの「Lobo Bobo」もライトでいい雰囲気・・まあ、何がどうしたってというよりも「聴いてよかったらええやんか」というサワノの掲げるジャズポリシーを感じるヴォーカル盤。そしてタイトル通りのほのかに薫るロマンティックさもいいですね。
Joe Magnarelli / Decidedly So/ JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009129076
NYで活動するトランペッター、この一年くらいの間に『Concord』(SteepleChase)やThad Jones Centennial名義での『Live at Birds Eye』(ubuntu)といった、渋好みの良作をリリースしていて、今回の新作はトロンボーンとの2管編成。ケニー・ドーハムやブルー・ミッチェルあたりを連想させるトーンでベテランらしい(65歳・・)、いぶし銀のハードバップを聴かせます。オープニングの「D.J.」から、ブレイキー的な熱さのあるリズムでスタート、ここにトランペットの少しくぐもったトーンが映えていい感じに。で、私の推し曲は軽快にバウンスする「Good Health」、均整のとれたホーン、スマートなテーマが耳に残ります。この曲のマイケル・ディヴィスのスラスラしたソロも好感度高し。愛らしいワルツ曲「This Nearly Was Mine」を挟んで、憧れのトランベッターに捧げた「When I Fall In Love」も美しい。このところ私、Cellar Liveの作品ばっかり取り上げているような気がしますが、いいものはいい・・ということで素直におすすめします。
Louis Stewart / Tunes / JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1007609484
ジョージ・シアリングやベニー・グッドマンとの共演でも知られるアイルランドのギタリスト。バーニー・ケッセルの系譜に連なるパキパキとスイングする名手ですね。本作は、2016年に亡くなったルイスのラストレコーディングだそう。故郷でのスタジオ録音。同郷長年の友人でもあったというピアニスト、Jim Dohettyとのシンプルなデュオ作品。2人とも音数は少ないけれど、アイデア豊かに演奏するミュージシャン。使い古された言い方ですが、両者の掛け合いはあたたかい会話のような・・というのがピッタリな気がします。「It Could Happen To You」のドライヴ感。「You Go To My head」や「What Is There To Say」のしみじみとしたメロディ。2ビート風な「Button Up Your Overcoat」のオールド感もいい。オーソドックスなジャズの説得力、滋味にあふれた一作。再入荷商品です。
ジュリア・ダニエル / ウォッチ・ホワット・ハプンズ/ JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009135493
昨年、自主制作のデビュー盤が当店でロングセラーを記録したシンガー、なんともブルーで洗練されたヴォイスの持ち主です。今作はジョン・ディ・マルティーノ、ハリー・アレンらベテランがバックアップ。先のデビュー盤と同じく、ジュリアがこだわるスタンダードを中心にした選曲。少しずつバックの人員配置が違っていたり、さりげなくも耳に残るアレンジがいい。例えば「アイ・ラブ・ユー」はソウルフルなベースとの意外なデュオ。「ユア・ルッキング・アット・ミー」はベテランギタリスト、ジェームズ・チリロの参加も価値を高めるし、タイトル曲の静かな歌にしっとり寄り添うテナーも見事。そして私の一番は、しんみりスローな三拍子アレンジの「リメンバー」でした。多彩な曲をバックも含め豊富な引き出しで聴かせます。やはりブルーとしかいえない、この声の魅力をじっくりどうぞ。
Out Of/Into / Motion II / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009132594
21世紀も四半世紀が過ぎた。50~60年代のモダンジャズの興隆も遠い昔の出来事になりつつある。それでもなお、こうしてカッコいいジャズを演るカッコいい若者が現れる。カッコよさというのは時によって変わるがジャズという音楽は時々のカッコよさを盛り込むことのできる器でしか無く、こうして2020年代においても同時代の聴衆にカッコいいと思わせるほどにカッコいいものとはサッチモもパーカーもわからなかったに違いない。迎春の感慨から結語めいたことを先に書いてしまったが、本作は2024年にリリースされたOut Of/Intoの『motion I』と同セッションの音源を収録した続編。改めて説明すれば彼らは同年に設立85周年を迎えたブルーノートによって集められた現代ジャズ界を牽引する五者によるスーパーグループ。過去にも同種の企画を打ってきた同レーベルだがこのOut Of/Intoはひと味違い、フロントのイマニュエル・ウィルキンス(as, 1997年生)とジョエル・ロス(vib/mar, 1995年生)が20代で他三人が40代と、盤石なリズムセクションに支えられた若き俊英が才気煥発なプレイを繰り広げる格好。グループとしての完成度が並々でないことは本作でもM6“Nacho Supreme”を聴けば瞭然で、ウィルキンス→ロス→ジェラルド・クレイトン(p)とソロを繋ぎつつひたひたとヒートアップ、テーマが回帰したところでケンドリック・スコット(ds)がフルスロットル、最高潮に達して曲を閉じる。彼らの音楽は暴力的でなくあくまで統制されていて隙がないが、冷たくなく、音選びはブルージーだが洗練されていて「デジタルな親しみやすさ」といった印象を受ける。肉体が理性の完全な支配下にあるという意味でcool、かつ単なる感嘆詞(スゲー!やべー!等)としてのcoolという言葉をかけたくなり、つまりカッコいい。前作を聴いていてもいなくてもとにかくこの、すらりと燃え立つ青い炎のようなカッコよさを全員に味わってほしい。国内盤が無いのも何だかカッコいいではないか。
Enrico Pieranunzi / Improclassica / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009125319
イタリアの巨匠エンリコ・ピエラヌンツィの最新作はオーケストラとの共演だ。ミラノの管弦楽団イ・ポメリッジ・ムジカーリが、作編曲家ミケーレ・コルチェッラ(彼は2023年のアルバム『Blues & Bach』にも編曲で参加している)の手による色彩豊かなスコアを演奏し、そこにエンリコのトリオが重なる。曲目は『Ménage à trois』(2016)とも数曲共通するクラシック作品を題材にしたエンリコのオリジナルであり、録音会場であるダル・ヴェルメ劇場(ミラノ)のたっぷりとした響きも手伝って、ミシェル・ルグランもかくやの絢爛豪華な世界が展開する。ドビュッシー作の《亜麻色の髪の乙女》をアレンジしたM5“Cheveux”などは品のいいミュージカル映画のクライマックスシーンのようであり、不覚にも胸がときめいてしまった。不安と混沌に満ちたこの世の中において私たちはこういう音楽を欲しているのかもしれない。悦楽に満ちた優雅なひととき。
Nicholas Payton / Triune / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009105804
ニコラス・ペイトンはとても過小評価されている。トランぺッターとして出た彼は、ピアノも弾き歌も歌い電子音響も駆使する総合音楽家へと変貌を遂げ、’00~’10年に先駆的な問題作を次々と世に放つ。その過程で「ジャズは1959年に死んだ」と主張し“Black American Music”を提唱する。そんな狭義のジャズに留まらないペイトンのアティテュードが現行シーンと地続きなのは明らかである。そして私たちは彼のこの最新作を、現代ジャズに実った芳醇な果実として味わう。本作でペイトンは主にピアノもしくはエレピをプレイ、全体は変則的なピアノトリオの様相を呈する。そこらのピアニストよりよっぽど洒脱な演奏を繰り広げるペイトン。そこにオーセンティックでツボを押さえたカリエム・リギンスのドラミング、さらに現代ジャズ界のスター、エスペランサ・スポルディングのスタイリッシュでソウルフルなベース&ボーカルが加わり、極上のグルーヴが展開する。二人はペイトンの過去作、それぞれ『Sonic Trance』(2003)と『Bitches』(2011)に参加しており、三者のコラボレートは彼が種を蒔いた現代ジャズの成熟による必然の成り行きなのであろう。弾き吹きか重ね録りか、トランペットソロも申し分なし。ペイトンという豊潤な音楽にただ酔い痴れる。
松井秀太郎 / FRAGMENTS CONCERT HALL LIVE 2025 / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009120883
若手最注目トランぺッターのライヴ集。3つの会場は全てコンサートホールで、ジャケ写は大阪市の住友生命いずみホールだ。一切の雑音を排す静謐な空間を切り裂く、松井秀太郎のトランペット(M1)。地の底から湧き上がるような力強いブロウ。ウォレス・ルーニーかと耳を疑う。この冒頭だけで傑作と断じ得る。一方でM4“Little Cradle Song”のウォームなサウンドはどうだろう。フリューゲルホルンの優しい音色がホールの天井高らかに響き渡る。気鋭のピアニスト・壷阪健登の神々しいプレイも感動的だ。そして前作で披露されたM7“Danse Macabre”も凄い。白熱に次ぐ白熱。松井と壷阪に加え、小川晋平(b)、きたいくにと(ds)もどっしりしたまま徐々にヒートアップ。マイルスの『Four & More』を彷彿させる盛り上がりだ。これぞライヴの神髄。現代ジャズの究極がここにある。本盤を聴かずに何を聴く?
マーティ・ホロベック / Trio IV / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009128823
公安ジャズ警察監視第1課の邪頭保守(ジャズボマモル)だ。新年早々けしからん新譜を紹介する。神妙にしろ。そう勇んで始めた邪頭保だが、実際に本作を聴き進むうちに筆が止まってしまう。マーティ・ホロベックといえば石若駿率いるAnswer To Remenber、SMTKのメンバーとして名を馳せる鬼才ベーシスト。ストレートアヘッドジャズの片鱗もないフリーダムでミクスチャーでヒップホップな石若サウンドに偏見と嫌悪を抱く邪頭保は先入観に囚われていたのだろう。1曲目から端正で不思議な佇まいのあるピアノトリオサウンドが心地よく響く。ベースはアコースティックだ。伝統的なジャズの枠組みからははみ出しているが、なかなかいいではないか。こんなはずじゃなかったと執筆を断念する邪頭保。それにしてもピアノの音が妙に味わい深い。渡辺翔太。意識して聴くのは初めてだが、他の翔太関連作と聴き比べるとこれは録音環境に依るものではなく彼のピアノタッチ特有の音色と味のようだ。今年最初の発見は渡辺翔太である。
岡沢章 Band / P.S. I Love You Dedicaded To Tsunehide / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009139827
年末の新宿ピットイン60周年記念コンサートの目玉はまちがいなく渡辺貞夫と山下洋輔だったが、初日2番手の岡沢章バンドは素知らぬ素振りで観客の心を撃ち抜いていった。それに先立つ昨年真夏に同じメンバーでライヴ収録されたのがこの作品。ベーシスト岡沢章は史上最極上ギタリスト松木恒秀と縁深く、共に山下達郎はじめ後年シティポップと称され再評価されるサウンドを支えてきた。独特な味のある歌唱も披露し、何曲か録音された吉田美奈子とのデュエットは格別である。岡沢氏とバンドメンバーの渡嘉敷祐一、野力奏一は What Is Hip!という松木バンドに結成時の'91年から長年参加し、本作品は2017年に早過ぎる御年で召された松木氏に捧げられている。ここに小池修、三好功郎を加えた百戦錬磨の強者たちによる貫録あふれるグルーヴ。2曲目は転調を重ねてキーがどんどん上がっていくスティーヴィー・ワンダーの曲だが、知っているのに曲名が出てこない。そんな曲が続く。ナベサダの"Home Meeting"もそれ。エリック・ゲイルのソロがサイコーなオリジナル録音以上にこの岡沢版がサイコーという矛盾。音を浴びる間だけ続く幻のように儚いサイコーの醍醐味がここにある。これでいいのだ! とにかく演奏に惹き込まれる。酒を片手に気楽に流していても、気づくと手に汗握り体を揺さぶっている。入浴中に防水仕様のスピーカーに音を飛ばして楽しもうという酔狂人は要注意。ハダカ踊りになってしまうからだ。ジャック・ケルアックの小説"路上"にはジョージ・シアリングの演奏に遭遇した仲間たちが、神が降臨したと熱狂するくだりがある。ライヴの現場というのはビバップの時代、いやもっとそれ以前から今までずっとそんなものだったのだろう。気に入りのオーディオ装置で愛聴盤をホクホクと聴くのはまちがいなくサイコーだ。が、気に入りの音楽家をライヴで観られるうちに観ておくのはマッチモアモストサイコーかも知れないと、このCDによって気づくことになる。
Tenors In Chaos / モア・カオス / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009109880
イラストと写真をコラージュしたデザインはいいのだが、CDなのに7インチレコードサイズのジャケットがちょっと...という特殊仕様のパッケージが苦手な人がじつは多いのではなかろうか。理由は様々かもしれないが、自分の場合は収納場所に収まりにくいからである。そんな風に敬遠されてか売れ行き芳しくない本作だが、肝心の中身を聴くと収納云々みみっちいこだわりなどどうでもよくなる。西口明宏、馬場智章、陸悠という大和テナー3本にデヴィッド・ブライアント(p) 須川崇志(b) 小田桐和寛(ds)という精鋭リズム隊。冒頭"Blue Train"を苦手なハードバップで来たら嫌だなと警戒するが杞憂であった。続くメンバー各人のオリジナル6曲も終盤のスタンダードも今日的解釈のモーダルジャズ。ラストのチック・コリア作"ジョーンの骨に捧ぐ音"が好みであれば納得のジャズらしいジャズ。海の向こうの現代ジャズが苦手な旧人類にもお薦めです。
Jimi Tenor Band / Selenites, Selenites! / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009128123
'90年代にWarp Recordsを通じて広く紹介されたテクノジャズの元祖、ジミ・テナーも早くも還暦。自己の名を冠したバンド名義作品は今回が初。新型コロナ期に故郷フィンランドでバンド結成を構想し、当時の様々な制限の隙を縫って最初は台所で楽器を使わずアカペラによるリハーサルをしたという。何だか冗談のような話だが、イメージトレーニングの甲斐あって滞りなくライブ演奏活動に入れたようである。ジミのバンドというと過去のアフロバンドとの共演実績からアフロアフロで片づけられている感があるが、そのサウンドはもっと間口が広い。狭いジャンルにスパッと分類できるものではなく、ジャズもファンクもアフロもテクノもすべてを貪欲に飲み込んで昇華した独特な無国籍グルーヴである。生真面目で気難しそうな風貌とは裏腹にそのサウンドは楽天的で能天気ですらある。タイトルのセレナイトとは透明石膏のことで、ギリシャ神話の月の女神セレネ由来で月の石の意味。その神秘的なイメージを裏切って、1曲目から女神を囲んで酒を飲みどんちゃん騒ぎしているような...
アマンダ・ホワイティング / キャン・ユー・シー・ミー・ナウ?+ザ・リミナリティ・オブ・ハー / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009143581
UKジャズ・シーンを中心に活動するハープ奏者Amanda Whitingの'24/'25年作の2in1。個人的にサブスクで聴いていて、特にジャケも印象的な昨年『The Liminality of Her』はお気に入りだったが、店頭で見かけないなあと思っていたのもそのはず、この2作はLPのみのリリースだったよう。なんとこんなお得盤でCD化。現代シーンにおけるハープ奏者としては知っておきたい人物である。'24作は、UKらしいベースラインとビートに加え、コンガなどのパーカッションやチップ・ウィッカムによるフルートがあたたかみを感じさせながらも幽玄な風が吹き抜けるよう。コンセプチュアルな物語を想起させるようなショートトラックも挟まれる。'25年作は、地続きなスピリチュアル・ジャズに、荘厳なコーラスが印象的な洗練されたグルーヴィーなサウンド。抜群の安定感で、今後のコラボなども楽しみなアーティスト。
Søren Bebe / Gratitude/ JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009151317
誰もいなくなってしまった町。シンプルな音の減衰とともにゆっくりと霧に包まれていた景色が浮かび上がってくる。デンマークのピアニスト、ソーレン・べべが率いるトリオ、9枚目だそう。日本でも知る人ぞ知るファンも多いみたい。北欧の空気たっぷりに、編み物の目が連なっていくように確実に、繊細に、紡がれる音。ピアノの響きもとてもよく、最近見た、静けさを纏う不思議な気配、幻想的で物語の予感を感じさせるサラ・ムーンの写真を思い出した。忘れられた町には小さく佇む湖があって、静かにこちらを見つめている。ふと霧に混じる柔らかい光がここにもちゃんとあることに気付く。余白がすばらしく、ぐんぐんと想像力を搔き立てられる。ひたすらに多ければ豊かというわけではないのだということを確かな演奏で教えてくれる。
Jesper Thorn / Stille / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009156223
昨年末に紹介した藤本一馬と林正樹による『Unfolding In Time』。その場の空気を記録するように、水の流れのごとく時間が移ろっていく様子がそこにあった。そしてデンマーク出身のベーシスト、イェスパー・ソーンによる本作にもそれと同じものが流れていると感じる。ドラムレスでピアノやホーン、ヴァイオリンが、存在感は最小限のふわりとしたエレクトロニクスに包まれながら、まるで北欧のつめたく静かな空気が漂う中での"揺らめく"ような演奏。ソーンは「追いつけないほどの速さで動いている騒々しい世界の中で、平和、静けさを感じられる空間を作りたかった」と語る。音楽そして芸術は、娯楽としてだけでなく、ひとつの世界であり、時間であり、安らぎや気づきを与えてくれるものだと思う。分かりやすさや効率のよいものばかりが正義になりつつある今、この作品も同じ今に流れているに違いないのだ。その眼差しをそっと思い出させてくれた。
James Macaulay / Happy Sad / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009128822
メルボルン出身のトロンボーン奏者ジェイムズ・マコーレイは、2017年国際ジャズコンペティションで最優秀賞、アンソニー・ブラクストンのプロジェクトにも参加してきた異才。実は数年前より拠点を日本に移し、シーンを牽引する石若駿や井上銘らを率いた総勢10名のジャズポップバンドを結成。マーティ・ホロベックやermhoi、Taikimenなど石若駿率いるAnswer to Rememberとも重なる厚い布陣でわくわく度が高まる。蓋を開けると期待通りキレのあるアンサンブルは流石の仕上がりで、おもちゃ箱のようにアイデアが飛び出す。クールで緊張感のある導入部に続くのはジェイムズによるヘタウマでチャーミングな歌もの(タイトルはOchanomizu!)。自身で作詞した日本語で“お茶の水につくと鼻水がでるよ”と歌う。その後ろで、栗林すみれの流麗なピアノに石若駿の熱いドラム、ermhoiの夢幻的なコーラスが繰り広げられる。新しさと懐かしさが垣根なく手を繋ぐピースな名作。
Rosalia De Souza / Rosalia De Souza QUuarteto 55 / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009149587
90年代半ばにニコラ・コンテに見いだされヨーロッパのクラブ・ジャズ・シーンで大きな脚光を浴び一世風靡したシンガー、ホザリア・ヂ・ソウザ、なんだか懐かしい名前です。数年ぶりに名前を拝見して思わず「お元気だったんですね!」と心の中で声が出ていました。久しぶりの新作はピーター・ローゼンダール(p)、ヨーナス・ヨハンセン(ds)、クレイグ・アール(bass)を率いたカルテット編成で、ブラジルの名曲とオリジナル曲の計12曲を収録した内容です。かねてから思っていたのですが、ホザリア・ヂ・ソウザは滑らかで優雅な歌声を持ちながら爽快なグルーヴも身体から発しているという、稀有なシンガーですね。本作は彼女の声を活かしたボサノヴァとデンマークのジャズ、フォーク音楽が融合した魅力ある作品になっています。まるでリオの潮風と北欧のキリッとした空気を孕んでいるよう!ちなみにグループ名についている「55」はこのカルテットを結成した地、コペンハーゲンの緯度なんですって。
Vic Juris / New Gypsies featuring Vic Juris / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1008932971
2019年に亡くなったギタリスト、ヴィック・ジュリスが2017年に収録した楽曲がこの度ようやくCD化されました。ヴィブラフォン奏者のトニー・ミセリを中心にジャンゴ・ラインハルトとホットクラブ・スタイルから触発され結成したカルテットで、ジャンゴはもちろんピアフやシドニー・ベシェ、ジョゼフ・コズマといったフランスにちなんだ楽曲を11曲取り上げています。まずは、マヌーシュジャズにおいて伝統的でも主要でもないヴァイブが参加しているという点が非常にユニークだと思いました。でも、いい。意外と合うじゃないか、ヴィブラフォン。いつだったか仏のヴァイブ奏者、ダニー・ドリスが本作にも収録されているジャンゴの『NUAGES』を演奏しているのを聴いたことがあるのですが、それも良かったですよ。ヴァイブ入りマヌーシュ・ジャズ、お薦めです。
Juan Chiavassa / Fourth Generation / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009079800
アルゼンチン生まれで現在はNYを拠点にしているドラマー、フアン・キアヴァッサ。マイク・スターンのバンドのドラマーに抜擢されるなど着実に経験とキャリアを積みこの度デビュー盤をリリースしました。ジョージ・ガゾーン、ジョン・パティトゥッチ、マイク・スターン、レオ・ジェノヴェス、ペドリート・マルティネスとジャケットに記載された参加メンバーの名前を見ていたら「一体どんな音楽なんだろ」と興味が湧いてくるってものです。いきなりのジョージ・ガゾーンの名前でしたがかつて師事していたんですね。しかも教え子のデビュー作品のために4曲提供するなんて気前が良すぎです。ジョー・ファレルの「Moon Geems」(マイク・スターンのギターがぴっかぴかに光っています)、ジョー・ヘンダーソンのエッジの効いたサンバ「Caribbean Fire Dance」、ショーターの美しいバラード「Penelope」なども収録、ラストはおそらくマイク・スターンが仕切ったであろうファンキーなノリノリフュージョンで締めくくっていて、若き才能のデビューを祝うパーティーのような雰囲気が良かったです。
DAVE REMPIS / Dial Up / 横浜関内ジャズ館 久保田
https://diskunion.net/detail/1009156831
フリー好きならご存知デイブ・レンピスは、元々はVandermark 5にマーズ・ウィリアムズの後任として加入した優れたサックス奏者です。リリースが多いかつAEROPHONIC(デイブ・レンピス自身のレーベル)の似たテイストのジャケットもあって、毎回チェックしていただけているか少し不安があるのですが、「バリスターの新譜来たー!」など個人的にいつもリリースを楽しみにしています。「デイブ・レンピスの今度の新譜良くない?」などリリースにアンテナを張っていただけるお客様が一人でも増えることを願っています。
最新作はJason Adasiewicz(vib),Chris Corsano(ds)との変則トリオ。ジャケもいいですね。怪しいヴァイヴが鳴る空間にサックスとドラムが鋭く切り込む様を表すよう。コルサーノの手数の多いドラムが好きでこれはお薦めです。
スナーキー・パピー / ソムニ / 新宿ジャズ館 逆瀬川
https://diskunion.net/detail/1009112962
以前、スナーキー・パピーとメトロポール・オルケストの共演作『Sylva』を店頭でかけたら、同僚から「これいつものスナーキーと違いますよね」と言われたことがあった。これもカッコいいよ、と言いつつ、うーんそう捉えられてしまうのか、とも思った。『Sylva』はスナーキーのファンクネス、ジャズ・フィールと、ビッグバンド的なダイナミクス、オーケストラの流麗なアンサンブルが最良の形で組み合わさった傑作である。ただ「いつもと違う」という感想も分からないではない。スナーキーには多人数バンドらしい「ごちゃごちゃ感」という魅力があると思っているのだが、メトロポールとの共演ではそれがだいぶ整えられているような感じがしないでもない。あのバンド感を求めて聴きに行くとちょっと違う感じがするのは、まぁ理解できる。
しかしながら繰り返すように『Sylva』は紛うことなき傑作であるし、メトロポールとの共演第2弾の本作も完成度の高さは言うまでもない。本作はより「スナーキーの音楽性にメトロポールを引き込んだ」ような作風、とでも言おうか。『Sylva』が「オーケストラを加えて何ができるか」を模索し具現化したように聴こえるのに対し、こちらはそれをより進めて、スナーキー的な曲作りやアレンジのやり方で、オーケストラも一緒にアレンジしてしまった、というような…。
マイケル・リーグは柳樂光隆のインタビューでこう語っている。
「『Sylva』を録音したときにはひとつの問題が出てきた。あの時の音楽はオーケストラを前提に、しかも、両者があまりにも密接だったから、僕らはメトロポール抜きで『Sylva』の曲を演奏できなくなってしまった。だから『Somni』はオーケストラなしでも演奏できるように書こうとしたんだ。」
「結果として、『Somni』は『Sylva』よりもずっと自然に融合している。」
なるほど、僕が感じていた感触はあながち間違いではなかったようだ。「いつもと違う」と言っていた同僚も、本作には納得してくれるかもしれない。
それから先行リリースの「Waves Upon Waves」の動画に「次の007のサントラはスナーキーで」というようなコメントがあって面白かった。分かる、ハンス・ジマーなんか目じゃないよな。スナーキー×メトロポールというプロジェクトは、現代オーケストラ音楽の新たなベンチマークとして、もっと聴かれ、研究され、模倣されるべきだ。しかも忘れそうになるがこれ、ライヴ録音なのだ。
マイルス・デイビス / LIVE IN ROME 1969 / 新宿ジャズ館 川村
https://diskunion.net/detail/1009158167
ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスが1969年10月にウェイン・ショーター、チック・コリア、デイヴ・ホランド、ジャック・デジョネットによる、後に『ロスト・クインテット』と呼ばれるバンドでのローマで行われたライヴ音源。
マイルスはどの時代の作品も好きですが、ここ最近毎年のように発売される音源をさすがに全て追いかけることはできず、今作もスルーしそうになっておりましたが、たまたま店内の試聴でかかっていた強烈なサウンドに耳を奪われ、もしかしたら、この『ロスト・クインテット』時代の最高の音源では...?とさえ感じております。このクインテットによるライブツアーも後半に差しかかり、演奏がこなれていき、緊張感は持ちながらも、余計な力みがなくなり、メンバー全員が主役と呼べるようなプレイを聴かせてくれます。特にショーターは、この翌年、マイルスの下から離れ、ウェザー・リポートを結成して徐々に角がとれたプレイとなっていきますが、今作ではボスへの最後のご奉公となる意気込みか、フリーキーで鋭利的なプレイで、バンド全体のエネルギーとテンションを爆上げしております。もちろんマイルスの演奏も、(おそらく)機嫌も良好。そしてこの手の音源にある録音の悪さもなく、音質も良好。昨年、ディジョネットが亡くなり、このバンドも残るはデイヴ・ホランドのみが健在となってしまいました。マイルスとの共演ミュージシャンも徐々に少なくなってきましたが、こういった音源でいつまでも生き続けていてくれているのは、改めてありがたみを感じて拝聴。
DON CHERRY & LATIF KHAN / MUSIC/SANGAM / 新宿ジャズ館 木村
https://diskunion.net/detail/1000574461
https://diskunion.net/detail/1009123646
CD, LPともに久々の嬉しい再発。
タブラ奏者とドン・チェリーの2人でスタジオ製作されたアルバム。
ドン・チェリーはトランペット、ピアノ、キーボード、ヴォイス、アフリカ/マリの民族弦楽器ンゴニ、ゴング、竹笛を多重録音している。
多重録音といってもドン・チェリー側で時折せいぜい2〜3種類重ねる程度なので、十分にスペースがとられていて基本的にデュオと捉えていいでしょう。
ドン・チェリーのワールドミュージック路線を踏襲しつつ、もっと素の部分が出ていてリラックスしているセッションの様に感じます。
ちなみに録音時期が1978年6月で、ナナ・ヴァスコンセロスとコリン・ウォルコットとのECM共作「Codona」第1作が録音される1978年9月の3ヶ月前という時期のせいか、音や雰囲気がECM寄りなのも興味深く感じます。
Don Cherryファンなら必携の1枚。
JOHANNES ROD / Free Jazz and Improvisation on LP and CD,1965-2024(BOOK) / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1009142656
フリー・ジャズの重要レーベルをメインに185のレーベルについて執拗なまでにディテールを追求し、フリー・ジャズ文化の全体像を、視覚と聴覚の両面から記録した必携ガイドの大幅増補版(初版は2014年刊行)が2025年版として登場。
1960年代にESP-Disk(ニューヨーク)、BYG/Actuel(パリ)等が切り開いたフリー・ジャズの勃興から、FMP(ベルリン)、Incus(ロンドン)、ICP(アムステルダム)、Po Torch(アーヘン)等のヨーロッパ即興運動の軌跡、Clean Feed(リスボン)、Trost Records(ウィーン)、Astral Spirits(オースティン)、Smalltown Supersound(オスロ)といった現在の動向までをカバーしたすぐれもの。徹底的にレーベルにフォーカスしているため、気になるレーベルの詳細や重要カタログが規格番号順にチェックできるので便利です。気になったレーベルが見つかった際は是非、この本でチェックしてCDやLPをゲットしてみて下さい。
Danny Gatton / Live at the Holiday Inn 1987(LP/180G/Gold Vinyl) / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1009110514
"世界で最も偉大な無名ギタリスト"と米国のギター・ワールド誌に評されたダニー・ガットンによる1987年、米国の有名なホテル・チェーン、ホリデイ・インにおけるカルテット編成でのジャズ・ライヴ音源がCDに続いてアナログ盤LPでもリリースが遂に実現。LPにはCDに未収録の音源が2曲収録されているのでファンは要ご用心。その2曲とはヘンリー・マンシーニ作曲による1962年公開の映画『酒とバラの日々』のテーマ曲"デイズ・オブ・ワイン・アンド・ローぜズ"と1936年にサックス奏者のアイシャム・ジョーンズが作曲し、マーティ・サイムズが作詞したジャズ・チューンの"ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラヴ"。渋い選曲にダニーのいぶし銀のギターが光る名演が堪能できます。
Ai Furusato(古里愛) / the Dawn(LP/CLEAR VINYL) / 商品部 池田
https://diskunion.net/detail/1009118402
ピアニスト、Ai FurusatoのデビューEPがLP化!ということで改めて。リリースが年始だったこともあり、「このジャケットをLPサイズで拝めるの、なんだかご利益ありそう…」とつい眺めてしまいました。初回プレス限定のクリア・ヴァイナル(なんとご本人のアイデア!)は、彼女の透き通るような音色を表したような美しい盤面です。ぜひ手に入るうちにチェックを!
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