2026.07.31 ジャズ 特集・お知らせ

ディスクユニオン ジャズスタッフ 7月度レコメンド・ディスク



ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




エメット・コーエン / ユニヴァーサル・トゥルース / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009213266


2025年に米国ダウンビート誌の読者投票で「ピアニスト・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、名実ともにトップピアニストの座にあるエメット(36歳)。その演奏スタイルは、もちろん現代的ジャズではあるのだけど、自然体で屈託なく50~60’sのジャズへの敬慕の念を感じさせるものだ。だから本作の曲目、演奏者を見ると、マイルス、モンク、コロムビアのマイルスの『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』にジミー・ヒース、そしてラスト曲はコルトレーンの大ブルース・・と連想させるし、実際に彼らへのオマージュ作品ではある・・でもでも、でもですね、この作品のハイライトは、迷いなくエメット自作、後半に配置された3つの組曲だと言いたい。ピアノのイントロからして力強くフレッシュな(5)「Eternal Glimpse」、テナーのスムーズなトーンもいいし、満を持して登場するピアノソロは明るくエネルギーに満ちている。トランペットバラードの(6)「Compassion」。(7)のタイトル曲「Universal Truth」という流れは何とも晴れやかで素直に推薦したくなる。ジョージ・コールマン、ロン・カーターといったベテランを迎えつつ、一方ではレギュラートリオのジョー・ファーンズワース、ヤスシ・ナカムラとスイングする楽しさあり。うむ、ジャズっていいよね!




Outer Worlds Jazz Ensemble Feat. Chip Wickam / Karman Line / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009206110


レイドバックした気怠いリズム、プンプンとスピリチュアルな薫りがするフルート・・テープを使った昔ながらの録音方法による、ソウル、ファンク、アフロ、ライブラリー音源などをリリースする英国 ATA Recordsの新作だ。本作でベースを弾くニール・イネスは ATAの主催者。ゲストでフルートを吹くチップ・ウィッカムとツアーで日本を訪れた際、2人でレコ屋を廻ったり、ジャズ喫茶に通ったりして(どこなんだろう?)本作へとつながる着想を得たそう。この Outer Worlds Jazz Ensembleは、ヴァイブやバスクラ、ハープに妖し気な女性コーラスなんかも入る大所帯。重心の低い繰り返しリズムが浮遊感を生み、調律のあまいピアノも土臭さを振りまく・・うーん、ここまで書いてなんだけど、多分細かいことは不要。CDにもライナーの類はない。全体を覆うまったりとリラックスした音の流れに身を任せるのが正解と思う。気持ちのいいスピリチュアルでグルーヴするジャズなのだ。




Charles Chen / Long Way Home/ JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009216819


「ジャズ・アネクドーツ」などで知られる、ジャズ界のストーリーテラー、ビル・クロウが参加するカルテット。リーダーは端正にスイングするピアニスト、チャールズ・チェン。そしてドラムにもベテラン、スティーヴ・リトルが参加。私、初めて知りましたが、エリントンのRCA盤『ビリーストレイホーンに捧ぐ』に参加している奏者でした。全36トラック収録・・(11)までが演奏で、(12)以降はベテラン2人が間近で見てきた、パーカーやゲッツ、エリントンらのエピソードを語ります(自分の英語力のなさが恨めしい)。で、演奏を聴くと、レジェンドの名前でお茶を濁すようなものではなく、まろやかでいて瑞々しいジャズが立ち上がってきます。例えば、オープニングのオスカー・ペティフォード曲でのベースソロはどうでしょう。後半のエリントンメドレーも余韻を残します。本作のレコーディングが終わるとクロウは自ら車を運転し、2時間離れたコネチカットで行われるギグに向かったそう・・歴史はまだ継続中ということですね。美しく磨かれたジャズをどうぞ。




Bria Skonberg / Indigo/ JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009225387


カナダ生まれ、NYを拠点に活動するシンガー&トランペッター。ギル・ゴールドスタインが編曲で、マット・ペンマンとスコンバーグが共同プロデュースという豪華な布陣。曲によって弦楽カルテット入ったり、アルトフルートやバスクラリネットもアンサンブルに参加します。スコンバーグ曰く「ギルと私は本当にすばらしい音の組み合わせを見つけた」とのこと。聴くと、とても上質でタイトル通り『Indigo』、ブルーな響きを生んでいます。ミシェル・ルグランの「Watch What Happens」。切々としたスロー「I’m Glad There Is You」の上手さ、マイルスの「All Blues」風リフで始まる「Mood Indigo」のアレンジ・・この出だしの3曲で掴まれました。近年のCellar Live 作品のクオリティの高さは注目すべきものがあるけど、本作もファンの期待にしっかり応える一枚。しっとり系ヴォーカルお好みの方へ。




Joe Lovano / Paramount Quartet / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009220814


ECM第7弾となる本アルバムで、ジョー・ロヴァーノは人気ギタリスト、ジュリアン・ラージを迎えたカルテットを結成している。ラージはECM初登場だ。しかし、ほかの二人もタダモノではない。アサンテ・サンティ・デブリアーノは80年代よりアーチー・シェップやドン・ピューレン、ビリー・ハートなどと演奏してきたアフロ/スピリチュアルなベーシストであり、ウィル・カルホーンは90年前後に活躍したアフリカン・アメリカンによるハードロック・バンド「リヴィング・カラー」のメンバーであり、ウェイン・ショーターの作品にも参加したドラマーだ。そしてジュリアン・ラージはジャズ/アメリカーナ…なんと多文化的!そうしたさまざまな背景をもつミュージシャンが、飄々としたロヴァーノの大きなふところで踊る…そう、踊っているのだ。これまでのロヴァーノのECM作品は空間的なものが主だったが、本作は軽く快い。例えばM2 “Amsterdam”ではオーネット的にふわりふわりと、M4”Fanfare for Unity”ではファンクっぽくバフバフと、M7“Congregation”ではブルージーにドゥダラダラッと、ロヴァーノ率いるカルテットはノリノリでグルーヴし「おや、Blue Note時代のようではないか」と思えば、ロヴァーノと愉快に会話を繰り広げるラージはビル・フリゼールかジョシュア・レッドマンのように聴こえてくる。しかしスローなM1“First Song”(ヘイデン作)のギターからはどこまでも続くアメリカの地平線が見え、M5“Lady Day”(ショーター作)のテナーは上品でありながら誠実なソウルを湛える。軽妙かつ真剣。一見両立しそうにない二つの態度が、ロヴァーノのなかでは共存する。不思議だ。しかし、それが実に魅力的なのだ。このカルテットで「今になって、自分はまだ上昇中なのだと感じる」と語る御仁は73歳。仙境に遊ぶロヴァーノ翁をご覧ぜよ。




Joe Webb / Neath Beat / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009217196


ディスクを再生すると、くつろいだストライド・ピアノが聴こえてくる。前作『Hamstrings & Hurricanes』(2024)は英マーキュリー賞にノミネートされた要注目のUK若手ジョー・ウェッブのピアノ・トリオ。“James P”(M8)や“Duke”(M10)は特に20~30年代のジャズ・ピアノのスタイルを彷彿とさせるが、単なる懐古趣味ではなく、音使いや間合いにはフレッシュな感覚が息づいている。なによりもウェッブが心から楽しんでプレイしているのがこちらに伝わってきて、どこかで観た、微笑みながら右手を躍動させるファッツ・ウォーラーの映像を思い出す。ジャズのキホンである楽しさを改めて実感。ところでウェッブは自身のルーツにも目を向ける。出身地は南ウェールズのニース。最後を飾る“Myfanwy”はウェールズの愛唱歌だ。心に染み入るメロディーは次第に膨らんでいき、アンセムのように歌い上げられる。故郷への想いとジャズの伝統に対する敬意が美しく重なる。ジャズの歴史は単線的な発展史ではなく、各時代それぞれに完成された様式があり、それらはいまだ新たな発展の可能性を秘めているのだと気づかされる。ハッピーで奥深い佳品だ。




Nduduzo Makhathini / The Myth We Choose / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009217338


ンドゥドゥゾ・マカティーニは1982年に南アフリカで生まれ、キリスト教の家庭に育ちながら、同地最大の民族・ズールー人の文化を精神的基盤に自己を形成した。彼はベキ・ムセレクから薫陶を受けたジャズ・ピアニストであり、ポストコロニアル音楽学の研究者であり、イニシエーションを経た正式なサンゴマ(南アにおいて医術・占い・儀礼などを担う伝統的ヒーラー)である。彼はシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズへの加入を機に国際的な評価を得、2020年にBlue Noteと契約した。本作は同レーベル第4作…ここまで読んだあなたは「なんだか難しそう」と思ったかもしれないがその音楽は、とても穏やかで、身体の奥へとすっと沁み入る。ダラー・ブランドのようなシンプルな音使い。どこか懐かしさを覚えるのは、彼が祖先の声に耳を澄ましているからだろうか。本作からはたくさんの歌が聞こえる。「歌というものが神話を形づくる上で非常に大きな役割を果たすと強く信じている」と書くマカティーニ自身の、呪文のような、物語を聞かせているような歌声が響く。神話は言葉としてそこにあるだけでは共有されない。だから彼は音楽をする。言葉は歌となり音楽がはじまる。もうそこに説明は要らない。




Marquis Hill / (Beautifulism) Sweet Surrender / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009225449


トランペッター、マーキス・ヒルの最新作は前作『Rituals + Routines』をさらに深めた、R&B・ネオソウルとジャズとがゆるやかにむすばれる一枚。タイトル・トラックM3でフィーチャーされるザカイアス・ポールの優しい歌は、ポップというよりノーブルで、美しい高音は宗教的な崇高ささえ感じさせる。それに続くマーキスのひそやかなソロは敬虔な祈りのよう。甘美なサウンドが私たちを包みこむ。M2ではアミナ・ラヴのしなやかな歌声ののち、イマニュエル・ウィルキンス(as)が一聴して彼とわかるクールかつインプレッシヴなソロをとる。ジャズ党もニッコリ。M8ではシカゴ・シーンの盟友マカヤ・マクレイヴンが登場し、マーカス・ギルモアとともにツイン・ドラムでくつろいだビートを紡ぎ聴き手を安息へと導く。ラップの入るハードなM4・7もあるが、全体的にピースフルで幸福感にみちたサウンドだ。ブラック・ミュージックをとおして彼はきっと、人々の心に癒しと安らぎを与えようとしているのだ。そのひたむきで真摯な姿勢に共感を覚えずにはいられない。さあ、心地よく身を委ねよう (Sweet Surrender)。




Chet Baker / Swimming By Moonlight / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009228886


写真家ブルース・ウェーバーがリオで撮った作品集"O Rio De Janeiro"をいつかアマゾンを介して中古3万円で入手した。お宝自慢である。'80年代後半、時代の寵児ウェーバーが同書刊行後に撮影に入り、奮闘の末完成させたのがチェット・ベイカーの記録映画"Let's Get Lost"で、そのサントラ盤をチェットの最高傑作として愛聴し続けているのは自分だけではあるまい。今回陽の目をみたウェーバー秘蔵の音源。フィルムと同時に音声収録されながら映画には使われなかったものだろうか? 内容も音質もすばらしく、映像もあるなら観たいものだ。それは単なるタイムカプセルではなかった。チェットが姿を消した後の40年近い年月など無かったかのように一瞬で吹き飛ばしてしまう静かなる時限爆弾だった。自由で寛容だった時代の残響のテロルである。イタリアの安いスプマンテ片手に耳を傾けていると不思議なことが起こった。ジャケット写真の裸で泳ぐ女が瞼を開いて一瞬こちらに視線を向けたのだ。まるで映画のようだった。写真と音楽の間には映画がある。




大野雄二 / ルパン三世 1977~1980 Original Soundtrack / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1008392487


"犬神家の一族"など大野雄二の旧譜がぽつぽつ入荷するなと気づき、まさかと思ったら氏は5月に逝去されていた。無念。トランプーチンピンらならず者たちで賑わうニュースを避けて不覚であった。おぬしにとって愛聴期間最長を誇る大野ミュージックをこの機に布教せよと謎の存在が囁く。初心者はまず"フル・コース"と"ミスター・ハピゴン"を聴け。これは命令だ。そこに大野サウンドの魅力が集約されている。アジムスにクリソツな曲があるんですが...? 気のせいだ! そしてアニメ"(新)ルパン三世" 通称赤ルパンのサントラ。この粋生きとした音楽が結果的にジャズ地獄への招待状になったのは自分だけではあるまい。危険な快楽獄門音楽。フェンダーローズ飛び交うまばゆい音空間で村岡建のメロウなサックスがうねり、松木恒秀のマイルドなギターが弾け散る。愛機ヤマハエレクトリックグランドを弾く大野氏の煌びやかなソロも満載。サンディやトミー・スナイダーが歌うボーカル曲はもはやシティポップクラシックス。続きはまた。




西川彩織 / Mindspace / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009252283


旅先で撮ったスナップショットのようなモノクロームのジャケット写真に魅せられて気分を海辺に飛ばし、冷えたビールとカツオのタタキなど抜かりなく用意してからくつろいで聴こうとするとぶっ飛ぶことになる。滑らかなシンバルレガートと軽快なスネアに導かれて気風のいいギターが飛び出しベースが轟音で走り出す。何だナンダ?と呆気に取られているうちによじれたピアノが現れる。突き抜けた感覚のモーダルバップ。こりゃ見つけもの!と思った1曲目のタイトルは"Serendipity"なる未知の語。見つけ上手といった意味らしく、こちらの反応を見透かしたような曲名で戦慄する。曲を構想したご当人も、こりゃイケる!と確信して命名したのだろう。ドラマー西川彩織の2ndアルバムはセルフプロデュースらしいナイナイ作品である。予算も時間もなどと失礼申すつもりはありません! 屈託がない。迷いがない。気負いがない。気取らない。能天気なのかというとそうではない。松原慶史のユニゾンギタースキャットが爽快な夏の涼風ジャズボッサ、ブルージースピリチュアルと多彩な楽曲を情感豊かに表現する。各人腕利きであろうメンバーの息もぴったりで、アイデア溢れる趣味のよい演奏の連続。カウント・ベイシーでおなじみ"Shiny Stockings"のエフェクトの効いたギターリフが斬新で耳を惹く。1曲目を聴いたときの感覚がいつか過去にもあったと気になっていたが、その正体がわかった。森高千里のドラムスである。単なる印象でおそらく無関係だが、森高の"夏はパラレイロン"でタカタカと小気味よく鳴るスネアを初めて聴いたときの驚きと感動がここにもある。キャッチーで華があるということかも知れない。飲み過ぎたのだろうか。いつのまにか現実の海辺にいる。強い陽射しでビールは温かく、カツオのタタキはカツオ節になってしまった。




Kiri Ra! / Nen / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009208045


霧がかった森で、白い鳥が翼をぱたぱたとはためかせている。バラフォンのリフの上で、フルートが舞う。空気を含んで、ピアノの細かい粒とドローンベースが世界を拡張していく。フィンランドのWe Jazzは、コンテンポラリー・ジャズを軸に、即興音楽やエレクトロニクス、アンビエントなどが横断的に結びついた現代ジャズを発信するインディペンデント・レーベル。ひっそりと入荷していたので、気付くのが遅くなってしまった。「キリ・ラ!」という不思議な名前のトリオは、いたって自由だ。それぞれ、サックス、ピアノ、モジュラーシンセ、ウーリッツァー、チェロ、マンドリン、トイなど、あらゆる楽器物がクレジットされている。湿ったサックスが、苔むすように森に浸透していく。ピアノとヴィブラフォンは、清らかな水の流れだ。M3で静かな洞窟にやってくると、私は、映画『パンズ・ラビリンス』の世界を思い出した。水がぽたぽたと落ちる。その様をじっと見ている。




Kalia Vandever / Mana / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009232609


ジョエル・ロスやイマニュエル・ウィルキンスとも共演してきたトロンボーン奏者/ヴォーカリスト、カリア・ヴァンデヴァー。2019年からリリースを重ねており、International Anthem からはデビュー作となる。昨年のメアリー・ハルヴォーソンらとのカルテット作品『Another View』(2025)も記憶に新しいが、今作は『We Fell in Turn』(2023)の流れを引き継ぐ、ドリーミーで音響的な作風。静謐なピアノに、エフェクトやリヴァーブ、多重録音によって揺蕩うようなトロンボーンが響く。なんとも優しくて儚いのに、強さのある音色だ。そして時折、親密で影を帯びた彼女の歌声と重なると、言葉にならないもの同士が溶け合い、ひとつになる。彼女のブラスと声。楽器は違えど、にじみ出るものは同じなのだなあと、ソロの神髄を見る。メランコリックだけれど、早朝に山にかかる霞のように美しい景色に耳を奪われる。




Karoline Wallace / Eon / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009173350


数枚しか入荷しなかった本作。聴き始めると、子供のころに埋めていたタイムカプセルを掘り起こしたような、きらきらした思いがけないときめきでいっぱいになった。こういう出会いが今の時代にCD屋さんでできるのって、もう奇跡のような確率に近いのかもしれない。こんな個人的な発見を届けることも、このレビューの使命と思える。オスロを拠点に活動するシンガー、作曲家のカロリーヌ・ウォレス率いる遊び心満載のアンサンブル。ジャズの要素を含みつつ、オルタナティブで実験的な好奇心に満ちている。ermhoiを思わせる彼女のアンニュイな歌声は、おまじないを唱える妖精のよう。M1では強烈なサックスが共存する。他にもギターやフルート、ドラムなどのアコースティック楽器に、エレクトロニクスやエフェクトが駆使され、夢を漂うような、どこかいびつな世界の腕に抱かれている。幽玄な布がゆらゆらと伸び、祝祭の混沌が彗星の如くはじける。




Francesca Tandoi / Songbook Vol.1 / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009239052


澤野からリリースされた『Hope』(2024)がすごく売れていたなあと記憶していたフランチェスカ・タンドイ。今作がFresh Soundというのは意外だった。オーセンティックなものは普段は多くは聴かないのだけれど、ピアノトリオにストリングスのカルテットが加わり、全曲オリジナルいうことで、個性と弦楽器に弱い私は吸い寄せられるように封を開けていた。〝Songbook〟ということは、コンポジションはもちろん、うたに焦点を当てているということでもあり、ステイシー・ケントとベッカ・スティーヴンスの参加した2曲の歌ものは織物のように美しい。作曲家としての側面をめきめき楽しめつつ、リリカルにスイングするピアノトリオは堂々と健在。ひりりとするスリルに、うたと弦楽が織り込まれるひとときの時間は、ロマンチックさが際立ってうっとりする。彼女の魅力が、色と深みを増してここにある。いつものタンドイと、垣間見せる新たな一面にどきりとしてください。




Ron Carter & Yotam Silberstein / Duets / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009220931


大野雄二、ソニー・ロリンズ、中牟礼貞則と訃報が続き寂しさを感じていましたが、1937年生まれのロン・カーター(5月に89歳になったばかり!)はまだまだお元気そうで本当にうれしい限りです。ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音された本作は、現代ジャズギターの最先端を突っ走るヨタム・シルバースタインとのデュオ作品でスタンダード5曲、シルバースタインのオリジナル2曲、ブラジル音楽1曲の8曲が収録されています。ベースとギターは自然に溶け合いまるで一つの楽器のように聞こえ、マエストロとヴィルトゥオーゾのテレパシーのようなシンクロニシティを生み出しています。並外れた技術を持っているからこその輝きと控えめな優雅さのバランスがさらにこの作品を魅力的にしているんだなあ、としみじみ思いました。故ジム・ホールへのトリビュートの意味も込めて制作されたそうですが、録音日が偶然にもホールの誕生日だったんだとか。個人的お気に入りはM3とM6、M8です。




David Miilmann / You Belong / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009228951


ここ数年チェックしているレーベルの一つにデンマークのAPRIL RECORDSがあります。レーベルのイメージが「素朴さと温かさの奥にある北欧の哀愁」で、西欧やアメリカのジャズとは一線を画しているなあと思います。本作もどこかクラシック音楽やヨーロッパ民謡にも通じる旋律感があり、ぱっと聞くと明るいメロディだけど一瞬の輝きが消えていくような儚さがあるというか明るさと寂しさが共存しているように感じます。本作はデヴィッド・ミールマンのスライドギターの独特な音とグルーヴがこのグループの核となっています。ジャズやロック、ブラジル音楽からの影響を受けたであろう温かくリズミカルなサウンドが展開されていますが、気のせいなのかもはや思い込みなのかやっぱり一抹の寂しさみたいなものを感じてしまいます。でもそれがいい。




Wolfgang Muthspiel / Atlas / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009236977


ギターのヴォルフガング・ムースピール、トランペットのマリオ・ロム、ピアノのコリン・ヴァロンによるドラムレス・トリオ作品。リズム隊の支えがないからこそ一音一音が大切に響き、3人の繊細な対話がふわっと浮かび上がっています。アルゼンチン民謡やクラシック、ブルースなど多彩な要素を取り込みながらも音楽は穏やかで自然な流れを保っているのが実に不思議。M1「Guacho Schubert」の温かな躍動、M3「Might This Be The End」」の静かな余韻、M4「Lionel」の開放感、M7「Spring」の端正な美しさなど、各曲はそれぞれ異なる景色を描いていますが、即興と構築の均衡や空間を生かした演奏やお互いの音への深い耳がアルバム全体を貫いており、3人はまるで一つの生き物のように呼吸を合わせています派手さよりも対話と余白の美しさを大切にした知性と温もりに満ちた新作です。




Fathers / Fathers / 吉祥寺ジャズ館 山田
https://diskunion.net/detail/1009258802


とにもかくにも、公式で上がっている動画をご覧いただきたい。キーファーがブルー・ノートに移籍するというニュースの時点でかなりの驚きだったが、最初のリリースがカートゥーンズ、ネイト・スミスに、プロデューサーのケニー・ビーツと組んだバンドで、しかも実際のリリースされた音源と、この動画、同じ曲を二度楽しめる仕掛けになっているというのである。CDの音源は従来のキーファーの音楽性をスマートかつタイトにした雰囲気で、ポスト・プロダクションの旨味が感じられる。一方動画のほうは、やたらとレトロな映像、謎に挟まるインタビュー、ゆったり楽しむ観客の様子など、全てがその当時のものすぎて見どころしかない。また、演奏自体はアルバムの内容を引き算したピアノトリオ編成で、三人のミュージシャンとしての力量が発揮されたものになっており、当然聴き比べ推奨となる。動画の方もレコードにしてほしいと気持ちもあったりするが、これに関しては映像付きで見た方が圧倒的に良いのだろうとも思う。ただ配信小出しにして、フィジカルを出して、ツアーして、では終わらない、新しいリリースのかたちだと思う。

https://youtu.be/UeWOUtvP8y4?si=QCPZp7FJ56GwChUa




LIA PALE / Woman & I / 横浜関内ジャズ館 小林
https://diskunion.net/detail/1009235861


オーストリア出身のリア・ペイルの最新作。心地よいメロディとリズムの中にしっかりとした自己主張を感じさせる歌声は、アルバム全体を通してまるでモノクロの短編映画を観ているかのよう。特にNo.3からNo.4の流れには聴いていて涙ぐんでしまいそうになるが、それは今夏の激暑による疲労のせいにしたい。もし来日する際は都内のクラブではなく、八ヶ岳高原音楽堂で観てみたい。涼しい土地に行きたい。




Members... Don't! / TYSHAWN SOREY / 新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/detail/1009219823


本作では、タイショーン・ソーリーが現代音楽の作曲家だとか、フリー・ジャズ系の優れたドラマーであるといった各々の事象を飛び越え、彼が現代のモダン・ジャズの深層を完全に理解、体得していること証明されている。「The Susceptible Now」(PI RECORDINGS  PI104)で見せた、ピアノ・ジャズ(トリオ)の歴史とその進化を客観視した、伝統と現代的コンポジションを緻密に架橋する「ジャズ力」の冴えは、本作でも遺憾なく発揮されている。興味深いのは、本作の打ち出し方にある。先鋭的なジャズ作品としての難解さだけに身を委ねさせるのではなく、「マックス・ローチ(ds)へのトリビュート作品」という文脈を前面に出すことで、聴き手が作品へ踏み込む際の心理的ハードルを劇的に下げている点だ。この言葉の力を巧みに利用したアプローチにより、リスナーは親しみやすさと歴史的背景を手がかりにしながら、結果として彼らが仕掛けるインプロヴァイズされた「歌々」のジャズ・サウンドへと深く導かれていく。さらに特筆すべきは、本作がニューヨークのジャズ・ギャラリーにおける熱狂的なライブ録音でありながら、スタジオ盤を超える圧倒的な緊張感と有機的な一体感を宿している点だ。タイショーンの統率のもとメンバー全員が極限のインタラクションを展開し、90分を超える長大な組曲へと昇華させている。その生々しいエネルギーの爆発は、現代ジャズ・シーンにおける新たなライブ盤の金字塔として、聴き手の心を激しく揺さぶる名盤の誕生を告げている。

Tyshawn Sorey(ds, arrangements), Adam O’Farrill (trumpet, electronics), Mark Shim(ts), Lex Korten(p), Tyrone Allen II(b), Fay Victor(vo on “Members, Don’t Git Weary”)




カッサ・オーバーオール / クリーム(LP) / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 田口
https://diskunion.net/detail/1009250894


カッサ・オーバーオールの25年Warpからのリリース作が、来日を記念して日本語帯付LPにて待望リリース!ヒップホップがジャズをサンプリングしてきた歴史をカッサが逆側からアプローチした本作。オーバーダブなしの生音一発撮り。改めて聴いても、ジャズとヒップホップの融合という言葉では語りきれない、現代ジャズの魅力が詰まった作品だと感じます。原曲の再現にとどまらず、グルーヴや精神性をジャズへと昇華し、ヒップホップを知らない人が聴いても説得力のある演奏です。レコードで欲しくなる音作りなのも嬉しいポイント。ルディ・ヴァン・ゲルダー風のクラシックな録音技術が採用されているとのこと。買い逃がしていた方はこの機会に是非。




PAN AFRIKAN PEOPLE'S ARKESTRA / 60 Years(2LP) / 新宿ジャズ館 木村
https://diskunion.net/detail/1009255210


PAN AFRIKAN PEOPLE'S ARKESTRAの初期から近年までの未発表音源集。
Disc1はHorace Tapscottリーダー時代、Disc2は創設リーダー亡き後の今世紀の録音。いずれもPAN AFRIKAN PEOPLE'S ARKESTRAに関わる綺羅星のごとく錚々たるメンバーが名を連ね、素晴らしい演奏の数々。
レコードでスピーカーを鳴らして生々しいライブ感を味わって下さい。サブスク音源をイヤホンで聴くとなんだかイマイチですが、このアルバムはレコードの方が断然良いです。(私自身はレコード信者ではなくCD音質支持派ですが)
PAN AFRIKAN PEOPLE'S ARKESTRA及びHorace Tapscottファンであれば必携盤とだけ申し上げて、あえて内容については申し上げません。あの感じが詰まってると分かる人だけ分かって下さい。
ちなみにこのアルバムは、2023年発売されたアルバムの再入荷(再プレス?)です。




リチャード・スペイヴン / ライト・オブ・デイ / 新宿ジャズ館 逆瀬川
https://diskunion.net/detail/1009242935


リチャード・スペイヴンがEditionと契約し新作アルバムをリリース、というのは個人的にかなり嬉しい。このサウスロンドンのドラマーはフライング・ロータスやホセ・ジェイムズに起用された頃から異能ぶりが注目されていたわけだが、数年前、久しく名前を見てないなと検索して見つけた「Nova (feat. Jordan Rakei)」にぶったまげた。この曲のビートは一拍か半拍多い。確か32分音符が一個多くてオモテとウラが入れ替わってる…とかそんな感じなのだが、何回聴いても、何度動画をスロー再生しても、どうしたらこのビートが叩けるのか、そもそもどうしてこのビートを思いついたのか皆目見当がつかない。やっていることにここまで理解が追いつかないドラマーもなかなかいなくて、彼は僕の中で、現代トップクラスのヤバいドラマー、ということになっている。それに叩くフォームが独特でカッコいいのよ。
今作はインスト中心。マシンを超越する超絶ビートのクールな生演奏トラックを基礎にしながら、レーベルメイトのヴァルネリ・ポーヨラやニルス・ペッター・モルヴェルらがフロントに立ちメロディーやソロを奏でる。これまでのアルバムやEPは、ビート集という側面と、シンガーを招いたインディー/オルタナ色が感じられるものだったが、今回も自身のビートにフォーカスしつつ、よりジャズ的なセッション感がある作品になった。そんな中でスチュアート・マッカラムのギターがオルタナっぽさを演出していてエモかったりもする。




Nina Simone / Little Girl Blue / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1007441212


ニーナ・シモンは昔から好きだったジャズ・シンガー。最近、再びニーナ・シモンがマイ・ブームとなっている。一方、近年、ニーナ・シモンの人気は非常に高くなっているようで、オリジナル盤LPの価格が高騰しているのも周知の事実。嬉しいことにアナログ盤LPでの再発も数多くリリースされており、オリジナル・ジャケットのみならず本作のように素晴らしい新装ジャケット仕様での再発も多くなっている。

本作は1959年にリリースされた記念すべきデビュー・アルバム「リトル・ガール・ブルー」(Bethlehem Records/BCP-6028/LP)の180グラム重量盤、カラー・レコード仕様での再発で、新たな素晴らしいニーナの写真が楽しめる逸品。ニーナ・シモンの魅力を改めて考えてみるとリスナーの心の奥深くへと入ってくるようなディープな歌声とスピリチュアルな音楽性かも知れない。問題の多い殺伐とした現況において、今こそニーナの素晴らしい歌唱が多くの人の魂を救ってくれることを願うばかりだ。




森山威男 / HUSH-A-BYE(LP) / 商品部 川村

https://diskunion.net/detail/1009224243


日本を代表するドラマー、森山威男の'78年録音作品。
つい先日、森山さんのライブを聴きにうかがいました。御年81歳、まだまだ衰え知らずのパワフルなプレイに圧倒されました。その森山威男の私的イチバンのアルバムはこの『ハッシャ・バイ』です。これは森山バンドのライブの代表曲、『サンライズ』が収録されていることもありますが、何と言っても31歳で夭逝した伝説的なサックスプレイヤー、小田切一巳が参加していることです。特にタイトル曲の『ハッシャ・バイ』での哀愁を帯びたトーン、歌心がありメロディアスなフレーズは、ジョニー・グリフィンやスタン・ゲッツといった名だたるサックス奏者の名演がありますが、私にとってはイチバンの名演はこの録音です。今回待望のアナログで再発。本音を言うとディスクユニオンで実現させたかった企画で、少し悔しいところがありますがこちらをありがたく拝聴いたします。




ドミ&JD・ベック / フー・アスクド?(SHM-CD) / 商品部 池田

https://diskunion.net/detail/1009239016


ドミ&JD・ベックが帰ってきましたよ!!!!アンダーソン・パークのレーベルと,、ブルーノートと契約するという(ありえない)鮮烈デビューで話題だったデュオ。その後続々と新作をリリースしていくのかな~なんて思っていたら突然姿を消し、4年の時を経て遂にカムバック。その間ダラスにあるスタジオでひたすら制作作業を進めていたそうで、なんとほぼ全曲でヴォーカルを披露しています。その卓越したスキルと独特の音楽世界は変わらずですので、安心して楽しんでください。

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