ディスクユニオン ジャズスタッフ 5月度レコメンド・ディスク

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2023.05.31

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ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




グレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケ / リーン・イン / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768916


この2人の共演で何より思い出すのは「I Can't Help It」だ。パーラトの歌声が、リズムを生み出すルエケのギターとアフリカンなボイスパーカッションと絡み合いながら軽やかに飛翔していく本曲は、だから2人の個性が存分に顕れたデュオ演奏であり、今やニュースタンダードと言って差し支えないこの名曲の無数にあるカバーの中でも、いまだに耳に残って離れない唯一無二の音と光を放っている。
だから2人ががっちりとタッグを組んだ本作がよくないわけがないのだ。実際出てきた音を聴いて、いや自分は何を心配していたのかと思った。多分それはルエケの癖のある演奏に端を発するのだが、先に述べた「I Can't Help It」然り、パーラトと共演するときのルエケは決して押し出しが強くなく、それでいてアフリカンなフィールもサンバ/ボッサも表現してしまえるわけで、超個性的ながらファースト・コールたる所以を見せつけられる。それをやすやすと乗りこなすパーラトも同様で、器楽的なヴォーカル表現という意味ではやはり現代トップレベル。高次元の技術により生み出された作品だが、そんなテクニカルなことに意識をせずとも楽しめる、掛け値なしに素晴らしいアルバムだ。きっと前作『Flor』のときも言ったけど、今作もまた今年度ベストのヴォーカル作品になるのは間違いない。





Lakecia Benjamin / Phoenix / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008586283


1月に入荷するもJazzTOKYOでは初回分が即売れしたレイクシア・ベンジャミンの最新作。多様化する現代ジャズよりもいわゆるモダンジャズが売れ線の当店では少々意外な動きだったが、本作は今っぽいサウンドでありつつ、しっかりとソロパートが取られ、あくまでジャズ・アルバム然とした作りになっているところが魅力だ。冒頭の曲でのジョシュ・エヴァンス(tp)とのかけあいもアツいし、後半はストレートなジャズ系の曲が連なる。ちなみにM7でトランペットを吹いているのは故ウォレス・ルーニーの息子らしい。何よりレイクシアの明朗快活な音色と吹きっぷりがひときわ輝きを放っている。ゲストには後半でウェイン・ショーターの語りが異常な存在感を示しているほかは、アンジェラ・デイヴィスやジョージア・アン・マルドロウ、ダイアン・リーヴスなど、ほぼ全員が女性ミュージシャンやアクティヴィスト。社会問題にコミットする姿勢も含め、現代ジャズのトップ・アルト奏者として、シーンを担う存在になるのもそう遠くはないだろう。共同プロデュースに、ジャズ界のジェンダー平等を推進する活動をしてきたテリ・リン・キャリントンが名を連ねていることが、それを示唆しているようにも思えるのだ。





Mark De Clive-Lowe / Hotel San Claudio / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768776


昨年はファラオ・サンダースのトリビュート盤をリリースしていたマーク・ド・クライヴ・ロウの最新プロジェクト。ニュージーランドと日本にルーツを持つマークに、デトロイトのドラマー/ビートメイカーShigeto、ブルックリン生まれのハイチ系シンガー/フルート奏者メラニー・チャールズのコラボレーションは、ファラオのカバーも、日本ルーツが色濃いスピリチュアルな曲も、あまりに鮮やかに、あまりに気持ちよく乗りこなす。ダンサブルな「Kanazawa」~「Love Is Everywhere」の流れは最高だし、ラストに「The Creater Has A Master Plan」のベースラインが戻ってくるところのカッコよさよ。そしてなんつってもローズの揺らぎがたまらない。ジャケのごとく、アメ車でサンセット・クルーズしたくなるヴァイブスです。





LBT / Abstrakt / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245770346


LBTはミュンヘンのミニマル/テクノ系ピアノトリオ。前作『Stereo』はエレクトロニックも導入してクラブ・ミュージックに思いっきり寄せた、ジャズとしてはかなり尖った作品だった。ジャズ・リスナーにはあまりウケない感じだったが、新作はその印象を払拭する、トリオによるアツいライブアルバム。この手のトリオの代表格であるゴーゴー・ペンギンがソング・オリエンテッドな作風なのに対し、思っていた以上にソロ、インプロ的な展開の割合が多い。曲によってガンガンビートを刻むものやミニマルなものと色々あるのだが、ゆったりとした冒頭1曲目はかなり意外ではある。デビュー作はわりあいジャズっぽい楽曲もあったようで、その意味ではアコースティック回帰と取ることも出来るか。前作を諦めたリスナーに試してほしい。





Sam Butler / Folklore / JazzTOKYO 逆瀬川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008640621


ミネアポリスのShifting Paradigmから、アラバマ出身のトランペッターのデビュー作。アコースティックの3管編成で、コンポジション、アレンジ、アンサンブルの音作りにいわゆる"グラスパー以降"の感覚が垣間見える。現代的センスのピアノ、タイトなドラムがボトムをがっちりと固めているほか、肝心の本人も破綻なく快活なソロを披露していて好印象。先般マカヤ・マクレイヴンの来日公演にも帯同したGreg Ward(as)が参加しているあたりも注目ポイント。かなり好感が持てるコンテンポラリー作品で、イマニュエル・ウィルキンスやジョエル・ロスのような存在にいずれなっていくかもしれない、そんな期待も持たせてくれる。そしてこういう佳作こそ、きちんと拾って評価したい、なんて気にもなる。





Scott Hamilton / At Pizzaexpress Live In London / JazzTOKYO 西川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008641313


ロンドンの名門ジャズクラブPIZZA EXPRESSがCD発売第一弾としてスコット・ハミルトンのライブを発売した。ピザ屋が経営して40年以上、地元のミュージシャンから海外のアーティストまで数多くのライブを行ってきた人気のクラブだ。イギリスのトリオ・メンバーが参加したワンホーン作品でミディアム、スローテンポを中心としたスタンダオードやボサノヴァ等の名曲を朗々といぶし銀の演奏する。若いころは殆んど聴かなかったが、なんだか年を取ると沁み渡るサックスの音色が心地よい。





Dominic Miller / Vagabond / JazzTOKYO 西川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008655673


ドニミク・ミラーのECM 3作目となる新作は全曲オリジナルでレーベルらしい静寂なサウンドと美しいメロディ・ラインが奏でられる。元々スティングのアルバム参加で有名だが、繊細で深みのある音色はECMの作品でも存分に味わえる。インスト作品だがまるで吟遊詩人のような演奏だ。今作ピアノにヤコブ・カールソンを迎えたカルテットだが前作とはまた雰囲気が違う。ピアノソロが始まるとカールソンらしさが全面に押し出されるからだろうか。ピアノトリオで聴いていたハーモニーの美しさも楽しめる。





Chet Baker / At Capolinea / JazzTOKYO 西川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008509959


後期チェット・ベイカーの作品でヴォーカルはとらない演奏がメインの作品。1曲目のエスターテからチェットの芸術性が全開で作品を通して内面までも写し取るような繊細さや優しさが表現されている。イタリアのフルート奏者ニコラ・スティッロやフランスのピアニスト、ミシェル・グライエが参加し曲やアレンジなどにも貢献し美しい作品に仕上がっている。イタリアJIIで発売されREDからCDも含めて広く普及されたがこの度180g重量盤で再発。





Medeski Martin & Wood / Friday Afternoon In The Universe / JazzTOKYO 西川

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245770094


1995年GramavisonのCD新譜発売当時、私の感性がついていけてなかったのだろう、あまりピンとこなかった。数年後には名門レーベルでの録音やジョン・スコとの共演他でさらなる注目を浴びるようになったMMW。この作品はキャンバスに様々な油絵具を塗りたくったアヴァン作品のような雰囲気があり、今聴き直してみて新鮮な感じを受ける。オルガン・ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニック、ワールドミュージックの要素が入り乱れたサウンドは少し時代を先取りしていたのかもしれない。レコード・ブームに乗って再注目です!!





Eyolf Dale / Wayfarers / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008610996


グレッチェン・パーラト、マーク・ジュリアナ、狭間美帆など、話題作を連発するUKのEdition Recordsより、ノルウェーの俊英ピアニスト/作編曲家エイヨルフ・ダーレの5枚目となる最新作はピアノ・トリオ作品。スキルフルなピアニストとしての実力、作編曲家としての能力は折り紙付きで、『Wolf Valley』(2016)によって一躍北欧からヨーロッパのジャズシーンで注目の存在となった。今作は、旅人を意味する『Wayfarers』というタイトルの通り、旅の始まりを感じさせる冒頭から、旅人が立ち止まり、塾考する旅路の過程がテーマ。抽象・映像的なイメージでありながら、ノルウェーの古典音楽、ジャズ、クラシックを融合したメロディーとハーモニーを、綿密に計算されているかのような組み立て力で、曲想を深く共有したトリオの変幻自在の演奏によって表現されている。音が風に舞っているような明るく軽やかな#1から、独特のリズムでぽつぽつと呟くようなピアノに始まるトリオの会話が面白い#2、瑞々しさと同時に薄暗い森の中に迷い込んだようなミステリアスさも醸し出すピアノが印象的な#5や、夜の闇の静寂が映し出された#6。そして、落ち着いたかと思えば疾走感に溢れ、ソリッドで熱量全開な#4#8。どれも複雑で予測不可能な演奏スタイルでありながら、ヨーロッパ作品ならではの抒情的な美しさも兼ね備えている。数学的であり、文学的であるともいえる…孤高のピアニストによる深みのある傑作が誕生した。





Eva Cassidy / I Can Only Be Me [Deluxe Hardback Edition] / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/DFN230206-009


1996年に33歳という若さでこの世を去ってしまった「奇跡の歌声」と称されるエヴァ・キャシディ。彼女の歌声が世界に広がっていったのは、彼女の死後であったが、生きていれば60歳の誕生日を迎える今年、なんと彼女の新たな作品が登場した。近年の機械学習技術を最大限に活用し、既存のボーカル・パートを丹念に復元し際立たせることで、生前にレコーディングされていた彼女の歌声と、新たにアレンジされたロンドン・シンフォニー・オーケストラによる優雅なサウンドが完璧に融合。抜群の安定感はもちろん、まっすぐでピュアな透明感とともにエッジのあるハスキーな音も混じり合う、耳に残る歌声がより鮮明に蘇っている。どこまでも伸びていって、どこへでも連れて行ってくれるような大きな力を感じる彼女の歌声は、壮大なオーケストラをバックで歌うべきだったとしか考えられない。





Diederik Wissels & Ana Rocha / Yearn / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008649313


オランダに生まれ、チェット・ベイカー、トゥーツ・シールマンズらと共演歴がある、ベルギー拠点のピアニスト、ディーデリック・ウィッセルズと、ドイツ人とポルトガル人の両親を持ち、彼と同じくジャズ、フォーク、クラシッックにルーツがあるというヴォーカリスト、アナ・ローチャによる双頭名義のヨーロピアン・ドラムレス・カルテット作品。今回は、前作とは少し編成を変え、ギリシャ人のトランぺッターに加え、ベルギーのテナー奏者をフィーチャー。ドラムがいないことで、透明度の高いピアノを起点に、ECMの音を連想させるような透き通った静寂が流れるように展開され、その静寂に混じり合うアナの滑らかな歌声とどこか独特な音使いに惹き付けられる。例えるなら水でできた鏡のような、それを通して自分を見つめているような美しく内省的な作品。





Tapani Rinne / Open / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245768580


アンビエント、アンビエント・ジャズ、ポスト・クラシカル・サウンドをシームレスに繋いだフィンランドのアーティスト2名による作品。90年代から活動を続け、これまで多くの作品を地元フィンランドのレーベルからリリースしているベテラン管楽器奏者Tapani Rinneと、ヨハン・ヨハンソン、マックス・リヒターやブライアン・イーノ、坂本龍一などから影響を受けたというプロデューサー/作曲家のJuha Mäki-Patola。それらの影響を強く感じるJuhaのシンセサイザー、ピアノなどによるミニマルで冷たく透明感のある土台に、輪郭がぼんやり浮かび上がってくるようなTapaniによる温かみのあるサックスとクラリネットが溶け合うように重なっていて、目を閉じるとフィンランドの自然がどこまでも広がっていくような感覚になる。フリー・ジャズやECM作品が好きな方にもおすすめしたい作品。





渋谷毅 / Piano Solo Live / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008620702


カーラ・ブレイの楽曲をあたかも自分のものであるかのように自然体で弾き連ねた『カーラ・ブレイが好き!』の続編といった趣の本作。どういうわけか何度繰り返し聴いても飽きることがない。そもそも渋谷毅のピアノには繰り返し聴かずにはいられない何かがある。麻薬性とは別の、毒の抜けた何かだ。ライヴでもディスクでも同じ曲を何度も演奏している。演奏者ご自身も飽きないのだろう。だから聴く側も飽きないということか。極めてふつうの響きながら独特な感触の音色に気分が弛緩する。酒を片手に耳を傾ければ、感傷に溺れることなく通り過ぎた時間を愛でることができる。次はくぐもった音色のアプライトピアノで聴いてみたい。会場は古い小学校の音楽室がいい。無理なら夢の中でもいい。このジャケットアート、まるで夢の世界の光景ではないか。





渋谷毅&仲野麻紀 / アマドコロ摘んだ春 Live At World Jazz Museum 21 / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245769060


時折披露する消極的気味なヴォーカルが不思議な魅力を放つピアニストといえば、往年のアントニオ・カルロス・ジョビン、絶頂期の坂本龍一、そして近年の渋谷毅である。風で吹き飛ばされそうな声でたどたどしく歌うその系譜は本家渋谷系とでも呼べばいいのだろうか。旅するアルト奏者仲野麻紀とのステージを記録した本作ラストのタイトル曲でもその味わい深い歌を聴くことができる。静けさから立ち現れるアルトの息づかいに耳を奪われ、誰に聞かせるでもない佇まいの歌声に耳をそば立て、押しつけがましさ皆無のピアノの音色に時を忘れる。そして後に残るのは、旅に出て酒を飲みたい、楽器を奏でて歌いたいという衝動だ。





Chris Byars / Look Ahead / JazzTOKYO 羽根

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008648701


ベテラン・テナー・サックス奏者のクリス・バイアーズの新譜が届いた。STEEPLE CHASEから定期的に作品が供給されており、なにも大ニュースでは無いのだけれど、毎度確実にジャズの滋味を振りまいてくれる信頼のジャズメンだ。今回も安定し過ぎなほど上手くて、軽やかで、洒脱なプレイが嬉しい。長年ジャズCDショップに携わって良かったと思えるのは、実はこういったアーティストとの出会いだったりもする。自分がCDショップ店員でなかったら、驚異的なプレイヤーの話題作ばかり追ってしまって、本作はスルーしたに違いないと思うから。





Dan Rosenboom / Polarity / JazzTOKYO 菅原

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008648620


LAを本拠とし、シーンの壁を蹴破りながら縦横無尽に活動を展開する頴才トランペット奏者ダン・ローゼンブーム。1982年式。「米国屈指の実験音楽家デヴィッド・ローゼンブームの実息」という重すぎる肩書きを背負う彼だが、その演奏と作品群によって放たれる強固で先鋭的なエネルギーは、彼が単なる七光りでないことをはっきりと物語る。'18年には同郷のプロデューサーMASTによるモンクのトリビュート盤にてマカヤ・マクレイヴンらと共闘するなど、近年のシーンにおいても確かな評価を得ている。前作に引き続きオレンダからリリースされた本作は、盟友ギャビン・テンプルトンを含む5人編成による録音。全8曲、書下ろし。特に「The Age of Snakes」と名付けられた1曲目は20分弱に及ぶ大作で、聴く者を深く暗い暗渠へ一瞬にして引き摺り込む、黒い魔力を纏っている。





PETER BROTZMANN / Catching Ghosts / 吉祥寺ジャズ館 吉良

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008657784


まずACT MUSICとブロッツマンという組み合わせの違和感に興味を持った。
自分はグナワ音楽について全く知識はなかったが、調べてみると、本作でトリオの一角を成すMajid Bekkas(guembri & voice)はすでにACT MUSICからリーダー作リリースしており、本作の成立において重要な役割を担ったことが窺える。
普段フリー・ジャズに親しんでいないリスナーであればブロッツマンという名前だけで身構えてしまうところだが、ハミッド・ドレイクが生み出す呪術的なグルーヴも相俟って、いわゆるスピリチュアル・ジャズの文脈でも鑑賞可能。
なにより、御年81歳というブロッツマンの底なしのエネルギーには言葉を失うほかない。





TILO WEBER / Tesserae / 新宿ジャズ館 有馬
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008634818


演奏者の同質性を前提とした質の高いビルドアップ。使用楽器の柔軟性。リフのドラマティックな増幅。あらゆる面でのタイミングの良さ。それらを成立させるセンスと、全振りする姿勢。
どういうオーガナイズが成されればこういうことが出来るのでしょうか。
このwe jazzの快進撃は、現在のジャズシーンで最も才能が集まるコミュニティの一つによるものなのだと、改めて認識させられます。





KVL / Volume 2 / 新宿ジャズ館 荒川
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008676228


シカゴといえば、もはやINTERNATIONAL ANTHEMというレーベルの存在感は無視できない程のものになったわけだが、オースティンに拠を置くASTRAL SPIRITSもシカゴのジャズ・ミュージシャンを多く擁していて、彼の地の豊かさを物語る指標の一つになっている(CHICAGO UNDERGROUND QUARTETのアルバムもリリースしている)。
中でもドラマーのクイン・ケルヒナーが目立っている印象を受けるが、ケルヒナーがやっているトリオ、KVLの新作がコレ、というわけである。前作の『VOLUME 1』からはエレピの音色の為か、聴きやすい場面が増えたが、リズム・オリエンテッドな曲が揃えられているところが大きなポイントだろう。トラッシーなハットがはしゃぐように跳ね回る”Absent Cash”、ダビーなフリージャズ”Percival’s Dilemma”、ポリリズミックな”Microvibe”の3曲の流れはめちゃくちゃカッコいい。白眉はROVOを思い出させる第一部から始まる組曲形式の”Interconnectivity Suite”で、クロスリズム~グリッドからややズレ気味のビートダウンに入っていくところは特に最高。今年の「やべー」ビートを聴きたい方には今はコレをオススメします。





モンティ・ウォーターズ / ブラック・キャット+1 / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008643531


悠雅彦氏によるWHYNOTレーベル。そのCDリイシューの中の一枚。モンティ・ウォーターズはASで、悠雅彦が録音を嘱望したJoe Lee Wilsonグループの中核メンバー。増尾好秋(G)が切れ味鋭いプレイで対峙し、ロニー・ボイキンス(B)が支えつつ絡み付いていく様が聴きどころ。冒頭曲は後々スティーブ・コールマンとデイヴ・ホランドによって繰り広げられた要素を含み、先進性を感じさせる。
2&4曲ではバックボーンのブルースやビバップの確かな素養が認められる。3曲目はコルトレーンのジャイアントステップスのコード進行を借用した自作曲。
4曲目では幽玄美を繰り広げられている。
ボーナストラックが個人的には最も気に入っていて、アルバムの中では一番制約の少ない状況で4人の魂がぶつかり合う様が素晴らしい。
悠雅彦の磁場が導いた一期一会の組合せの妙と言える作品





NOAH HOWARD / Quartet To At Judson Hall Revisited / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008668360


ESPから発表された1st「NOAH HOWARD QUARTET」と2nd「At Judson Hall」の2IN1CD。
自己紹介的な1stもいいけど、おすすめは一気にスケール感を増した「At Judson Hall」。LPでは片面1曲づつの大曲2曲でした。2曲とも黒い情念が渦巻いて堪らないのですが、2曲目は「Homage To Coltrane」と題してるだけあってより気合いと熱さを感じます。





鈴木勲 / Approach / 新宿ジャズ館 木村

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008616089


1986年制作・発表と知って非常に納得した作品。メンバーは鈴木勲(B)、富樫雅彦(DS)、市川秀男(P)、塩本彰(G)。
こういう言い方をすると色々怒られそうだけど、1曲目なんかはキースのスタンダーズのベースをスワロウに変えてアバークロンビーを追加したらなんとなくこんな感じになるかなー、なんて思ってしまった。
細かく不満に思うところはありつつも、でも気になってひたすらずーっと聴かずにはおれない魅力がある。




BRANDEE YOUNGER / BRAND NEW LIFE (LP) / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 板橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008635802


名門インパルスからのセカンドアルバムで、今回のテーマであるドロシー・アシュビーを強くイメージさせる作品となっています。
まさにハーピストである彼女の原点回帰。

ただし、しっかりと現代的な要素、名だたる客演も招き、アップデートされた内容で素晴らしいの一言。
バックを固めるメンツも申し分です。

先行シングルでリリースされていた、「YOU’RE A GIRL FOR ONE MAN ONLY」は、ドロシー・アシュビーが作曲した未発表曲ということで注目を集めましたが、ぜひ作品全編を通して、この素晴らしい世界観の魅力を堪能していただきたいと思います。





BUSTER WILLIAMS / UNALOME / 吉祥寺ジャズ館 檜山

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008625246


ベテラン・ベーシスト、バスター・ウィリアムスの80歳を記念したスタジオ録音リーダー作。バピッシュでもなければモーダルでもない、いい意味で振り切っておらず、絶妙なバランスが心地よい。特にR&Bシンガーのジーン・ベイラーのヴォーカルと、ステフォン・ハリスのヴィブラフォンがサウンドに空間性と奥行きを与えており、何とも言えない臨場感をもたらしている。これといって派手なことはしていないが、だからこそバスター本人が長いキャリアの中で積み上げてきた音楽の本質に迫ることができる。





KIM RYSSTAD, ARVE HENRIKSEN, TORD GUSTAVSEN / Villfarande Barn / 新宿ジャズ館 四浦

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008649543


キムが生まれ育ったノルウェー南部のセテスダール地方は伝統的な民俗音楽でよく知られており、キムは現在、この地域の声楽を守り続ける数少ない歌手の一人である。セテスダールの音楽は、ユネスコの無形文化遺産のリストにも登録されている。いわゆるフォーク歌手である彼はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との共演でクリスマス・アルバムを録音し、大絶賛を浴びるなど活躍している。今までもシグール・ホールとヘルゲ・リエンのアルバムやビーディー・ベルの作品にゲスト参加していたので、彼の声音に魅せられていたわけだが、最新作である本作では、ピアニストのトルド・グスタフセンとトランペッターのアルヴェ・ヘンリクセンを迎えてのレコーディングという事で、遂に我々が聴きたかったサウンドが見事に展開されることとなった。3人のミュージシャンに共通する「声」や「歌心」が、ノルウェー・ルーツの音楽への昇華だということをまざまざと見せつけられた一枚となっている。





LIMOUSINE / Hula Hoop / 横浜関内ジャズ館 山田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008665106


フランスのバンド「リムジン」による2023年作。シンプルすぎて忘れやすそうな「リムジン」、という名前……。19年作"L'​é​té suivant​.​.​."が、プールサイドに男女が寝そべるマンガのジャケットの通り、バレアリック&チルな内容で良かったので覚えていました。新作はというと、適度なゆったり感を残しつつ、バラエティ豊かでポップな作品に仕上がっています。例えるなら、先輩の家で吞みながらおすすめのレコードを紹介し合っているような、あるいは、都会から田舎へ、さらに別の町へと晴れた日にオープンカーでダラダラとドライブしているような感じでしょうか。ソウル~ジャズを基調に様々な景色を見せてくれる一枚です。同時に入荷してきた前作"Siam Roads"もまた作風がガラッと変わっていて、タイのルクトゥンMEETSジャズ的な作品だというので驚きです。そちらも併せてどうぞ。





JOE LOVANO / Our Daily Bread / 横浜関内ジャズ館 山田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008655399


ジョー・ロヴァーノがECMで初めてリーダー作をリリースしたバンド"Trio Tapestry"。2019年に突如リリースされ話題になりましたが、今作がもう3作目とのこと。即興のイメージが強いピアニストのマリリン・クリスペルと、ロヴァーノとは同郷でバークリーの同窓生でもあるらしいカルメン・カスタルディとのトリオで、ベースレスの編成が最大の特徴ですが、今作は今までにないレベルで即興的な緊張感を内包しつつ、各プレイヤーの美しく豊かな音色が存分に生かされた作品になっているように感じます。展開もジャズ的というよりどちらかと言えばアンビエントに近く、緊密でありながらエレガント。最初から最後まで徹頭徹尾美しい響きに満ちた一枚です。特に2曲目、8曲目のマリリン・クリスペルのピアノの美しさは感涙モノです。5曲目のサックス完全ソロも、奥行きのある録音と相まって味わい深い仕上がりになっています。





PULVERIZE THE SOUND / Black / 新宿ジャズ館 久保田
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008570810


フリー系トランペット奏者ピーター・エヴァンスらトリオのグループ名がPULVERIZE THE SOUNDです。「サウンドを粉砕する」という名前の通り、アルバムは冒頭から怒涛の勢いで幕を開けます。ティム・ダールのゴリゴリに歪んだエレキベース、マイク・プライドのパワフルなドラム、そしてエヴァンスの輝かしいトランペットがものの数秒で炸裂します。そのキレ・速さがこのトリオの魅力ですね。完全即興で臨んだ本作は前2作よりも緊張感を感じられる演奏になりました。激しいばかりでなく、多様な音色と展開をみせる1枚です。現行フリーの傑作として太鼓判を押します。





ADELHARD ROIDINGER / Computer and Jazz Project I / 商品部 三橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008659257


オーストリアのベーシスト、アデルハルド・ロイデインガーが80年代にマイナーレーベルからリリースした作品が初再発。恐らく昨今のアンビエント~ミニマル~ニューエイジ復権の肌触りが感られる1枚として再評価されたのではないかと思いますが、内容はタイトルの通りシンセサイザーやコンピューター、ドラムマシンを多用した1作でコンピューターの出すミニマルなサウンドとジャズメンの人力演奏の対比が面白い作品。コンピューター登場時の衝撃は計り知れないと思いますが、その衝撃度は今のAI技術のそれと同等かそれ以上か。。。みたいなことを図らずも考えてしまいます。「AIが即興演奏をするときがくるのかね~」なんて頭をよぎりますが、それは即興ではなくどこまでいってもプログラム?だとすれば「即興」は「創造」と同意か?とグルグルと答えのない問答をしてしまいます。





ANAIS TUERLINCKX / Miroitements Étranges / 商品部 三橋
https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008641679


ベルギー出身のピアニストによるソロカセット作品。謎の創作楽器による演奏が1曲とピアノを使った演奏1曲を収めています。拾ったものを使ったピアノを演奏したりするなど、もともと"ちゃんとした"演奏をしてこなかった人物のようで、やはりこのようにズレてしまった音楽家は必要だなと思わせてくれる刺激的な内容。このズレが「コレはこういうもの」に対して揺さぶりをかけてくれ、ズレていない人には「正しく間違える」ことで違った道筋を示してくれるのじゃないかとヒントを得た気がします。