
はじめての ポスト・パンク
レコード・CD 名盤・定番選

1970年代末期、パンク・ロックがもたらした初期衝動と破壊のエネルギーが急速に消費される中、その灰燼の中から全く新しい音楽的表現が産声を上げました。彼らはパンクの「何でもあり」というDIY精神を継承しつつも、単調な3コードのギター・ロックという定型を拒絶。代わりに、ダブやレゲエの重低音、ファンクの鋭いリズム、フリー・ジャズの即興性、さらには現代音楽やエレクトロニクスの冷徹な手法を貪欲に取り込み、音楽の構造そのものを解体し、再構築していきました。
イギリスのロンドンやマンチェスター、アメリカのニューヨークにおけるノー・ウェイヴ、さらにヨーロッパの暗黒空間まで、このムーブメントは世界中で同時多発的に勃発しました。そこで鳴らされていたのは、都市の焦燥、冷戦下の不安、あるいは知的な批評性を伴う金属的な不協和音です。現在においても、ポスト・パンクの実験精神と研ぎ澄まされた美学は数多くのオルタナティヴ・ロックやクラブ・ミュージックに多大な影響を与え続けています。
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■コンテンツ
▽ジャンル俯瞰データ
▽英国初期の革新とポスト・パンクの誕生
▽イギリス北部とネオ・サイケデリアの台頭
▽シェフィールドとブリストルの実験的アヴァンギャルド
▽ニューヨーク、ノー・ウェイヴの突然変異
▽ヨーロッパ全土へと波及した暗黒空間とコールド・ウェイヴ

●発祥地
イギリス(ロンドン、マンチェスター、シェフィールド、ブリストル、リーズ、リヴァプール、スコットランド)、アメリカ(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、クリーヴランド、ボストン)、ヨーロッパ(ドイツ、スイス、ベルギー、フランス)
●時代背景
1970年代末期〜1980年代前半、パンク・ロックの形骸化と産業化に対するカウンターとして発生。冷戦の緊張や経済的停滞を背景とした都市部の虚無感と焦燥感がインスピレーションとなりました
●音楽的特徴
ダブ、ファンク、ディスコ、フリー・ジャズなど異種交配による複雑なリズム・アプローチ。シンセサイザーやテープを用いた実験の導入。金属的なギター・カッティング、不協和音、極限のミニマリズム、冷徹な空間処理による特有の音響デザイン
●代表的アーティスト
JOY DIVISION / PUBLIC IMAGE LTD / THE POP GROUP / WIRE / TELEVISION / THE FALL / SIOUXSIE AND THE BANSHEES
●注目レーベル(オリジナル/再発)
FACTORY / ROUGH TRADE / 4AD / MUTE / FAST PRODUCT / ZE RECORDS / Y RECORDS

■英国初期の革新とポスト・パンクの誕生
1970年代末期、パンク・ロックの初期衝動が終焉を迎える中、ロンドンやマンチェスターを中心に新たな表現の形が模索されました。その筆頭が、陰鬱な金属的サウンドと文学的な歌詞でポスト・パンクの音楽的骨格を決定づけたJOY DIVISIONの1979年作『UNKNOWN PLEASURES』でした。同年に発表されたJOHN LYDONによるPUBLIC IMAGE LTDの『METAL BOX』は、パンクの様式を解体し、レゲエやダブの重低音と金属ノイズを融合させた画期的な作品として歴史に名を刻んでいます。
また、ブリストルのTHE POP GROUPが放った1979年の『Y』は、ファンク、フリー・ジャズ、ダブを過激に交錯させ、強烈な政治的メッセージと共に当時のシーンに衝撃を与えました。ほか、WIREが追求した性急なミニマリズムの衝撃、GANG OF FOURが放つ鋭利なファンク・グルーヴの肉体性、そしてTHE FALL独自の強烈な反復がもたらす言葉の羅列は、形骸化したロックを内側から完全に破壊する凄みを放っています。

■イギリス北部とネオ・サイケデリアの台頭
イギリス北部のマンチェスターやリヴァプールでは、特有の冷徹な空間デザインと哀愁を帯びたメロディが育まれました。特にFACTORY RECORDSの初期を支えたA CERTAIN RATIOは、1981年の『TO EACH...』においてマンチェスターの陰鬱さに鋭いファンク・ビートを導入する先駆的な試みを行いました。同じレーベルに所属するSECTION 25が1981年にリリースした『ALWAYS NOW』は、冷徹なエレクトロニクスと呪術的リズムを融合させた陰鬱な音響の極致です。
また、VINI REILLYのプロジェクトであるTHE DURUTTI COLUMNによる1980年の『THE RETURN OF THE DURUTTI COLUMN』は、繊細なディレイ・ギターとレーベル独特の美学が結実した静謐なるポスト・パンクの歴史的傑作です。CRISPY AMBULANCEが空間に刻んだ緊迫感、CHAMELEONSが追求した壮麗なツイン・ギターのレイヤー、ECHO & THE BUNNYMEN独自の冷徹なネオ・サイケデリアの響きは、都市の空虚と哀愁を鋭利に包み込んでいます。

■シェフィールドとブリストルの実験的アヴァンギャルド
シェフィールドやブリストルを中心とした地域では、テープ編集やエレクトロニクスを用いたアヴァンギャルドな実験が繰り広げられました。CABARET VOLTAIREが1979年に発表した『MIX-UP』は、ノイズ、電子音を駆使しインダストリアルとポスト・パンクを直結させた実験的先挙作です。同じくシェフィールドのCLOCK DVAによる1981年の『THIRST』は、冷徹なエレクトロとジャズ的素養を融合させた暗黒のサウンドを決定づけました。
一方、ロンドンの実験的スタジオを拠点としたTHIS HEATが1981年に遺した『DECEIT』は、即興演奏とテープ編集を駆使してプログレッシヴ・ロックの残骸から全く新たな音響を構築した異能の極致であり、今なお色褪せない狂気を放っています。COMSAT ANGELS特有の冷徹なギター設計、ARTERYが刻む不穏なリズム、さらにはBLURT独自のミニマルなサックスの絶叫まで、各グループが提示したアヴァンギャルドな実験精神は音楽の未開の領域を鮮烈に切り開いています。

■ニューヨーク、ノー・ウェイヴの突然変異
アメリカ、特にニューヨークの地下シーンでは、ノー・ウェイヴと呼ばれる音楽構造の徹底的な解体が行われました。オハイオ州クリーヴランド出身のPERE UBUが1978年に放った『THE MODERN DANCE』は、アヴァンギャルドなノイズとポップネスを融合させ、いち早くインダストリアルな響きを先取りしました。ニューヨークのノー・ウェイヴの爆心地たるJAMES CHANCE AND THE CONTORTIONSの1979年作『BUY』は、フリー・ジャズの即興性と過激なファンク・ビートをポスト・パンクの精神で暴発させた歴史的名盤です。
また、ARTO LINDSAY率いるDNAの1981年のEP『A TASTE OF DNA』は、ノー・チューニング・ギターを中心に音楽の構造解体を徹底した象徴としてその異端の音像を今に伝えています。TELEVISIONが構築した精緻なアンサンブル、ESGによる肉体的なミニマリズム、LIQUID LIQUID独自の変則的なグルーヴは、ノー・ウェイヴが放つ特有の知性と都市の焦燥感をリアルに抉り出しています。

■ヨーロッパ全土へと波及した暗黒空間とコールド・ウェイヴ
欧州大陸から英米圏、さらには南半球までを網羅したポスト・パンクの変異は、冷徹なミニマリズムと電子音、そしてプリミティヴな初期衝動を融合した壮大なコールド・ウェイヴの美学を形成しました。ドイツのDAFがエレクトロニクスと強靭な生ドラムの冷徹な反復を肉体へと直結させた1981年作『ALLES IST GUT』は、電子肉体音楽への扉を開いた歴史的転換点です。
続いてスコットランドのJOSEF Kがカフカ的文学性とジャキジャキと疾走する鋭角ギターを同居させた同1981年の『THE ONLY FUN IN TOWN』は英国北部独自の尖鋭な知性を証明しました。英米の中心地を離れたこうした世界各地の突然変異は、FIRE ENGINESが放ったスカスカで性急な金属性の混沌や、ORANGE JUICEによるソウルとパンク・ロックの果敢な異種交配を経て、ベルリンで電動工具を打ち鳴らすEINSTUERZENDE NEUBAUTENのノイズ、奇妙な電子アートを追求したDER PLAN、スイスの冷徹なミニマル・シンセを象徴するGRAUZONE、フランスらしい哀愁が漂うASYLUM PARTY、そしてオーストラリアから狂暴なブルース・カオスを撒き散らしたTHE BIRTHDAY PARTYへと連鎖し、世界各地の地下深くで今なお色褪せない狂気を放ち続けています。