<連載>原田和典のJAZZ徒然草 第127回

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2024.04.09

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沖縄R&Bの聖地・コザに響き渡る“銀天ママさんズ”のサウンド。話題の映画『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』の中川陽介監督に話をうかがったぜ


「音楽の向こうに新しい人生がある」
このキャッチコピーから、いきなり嬉しくなる。
中川陽介監督の最新作『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』が4月14日から東京・アップリンク吉祥寺ほかで全国公開される。舞台は沖縄のR&Bの聖地・コザ、物語の中心となるのは高校生時代に大人気を博した女性R&Bバンド“銀天ガールズ”。20 年を経て、それぞれ家庭をもつアラフォー世代となったメンバー4人が、地元の沖縄・コザの商店街「銀天街」の街おこしを目指して“銀天ママさんズ”として再結成、さらに巻き起こる悲喜こもごもに引き付けられる作品だ。沖縄では昨年10月に先行公開され、8週間のロングランを記録する劇場も出た。
「ジャズ的なハーモニーを盛り込んだ/ソウルクエリアンズへの目くばせも感じられるR&B」というべきガールズ/ママさんズの音楽監督はChoro Club等で活動し、中川監督のサウンドトラックにも欠かせない存在となっている沢田穣治が担当。上映日の4月14日には高円寺メウノータにてjimama(vo)、上門みき(uklele 、 vo)、沢田穣治(bass etc.)、中西文彦(g)、中川監督が集う『「コザママ♪ うたって! コザのママさん!!」サントラ Live!』(18時半開場・19時半スタート)も開催される。当コーナーでは何度か沖縄のジャズ・シーンを取材してきたが、今回はより範囲を広げつつ、中川監督に思いっきり語っていただいた。



---- 『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』は音楽、青春、哀愁、笑い、人生模様が煮込まれたエモーショナルな作品だと思います。制作のきっかけからお伺いできますか?


中川陽介監督---- 銀天街(沖縄市)の町おこし映画を作れないか、という話が最初にありました。その時は探偵ものの脚本があったので、その方向でいこうと思っていたんですが、何度も取材に行っているうちに、銀天街が昔「黒人街」と呼ばれていて、ブラック・ミュージックが盛んだったことを知りました。コザというと、「紫」などハードロックのイメージが強いところがありますが、R&Bのイメージはあまり知られていなくて面白いと思ったんです。そこを下敷きにして、「音楽もの」「まちおこし」というキーワードでストーリーを作っていきました。

さらに、映画の世界にも共通することですが、「表現」という部分と、「商売」という部分のせめぎ合いがあるみたいな話を音楽業界の知り合いからよく聞くんです。才能があれば売れるということではないし、「売れ線」と言われているものをやらざるを得ない部分もあるだろうし、そういった葛藤も下地になってストーリーができました。「素人だからいいんだよ。金儲けのための音楽はやんなくていいんじゃないか」というセリフを主人公の夫に言わせているんですが、そんな思いが根幹にあります。
:1970年、キーボード奏者のジョージ紫を中心に結成されたハードロックバンド。筆者(原田)は沖縄市「ミュージックタウン音市場」でライヴを体験した。


---- 物語の中心となる“銀天ガールズ”はかつてコザで人気を博した高校生R&Bバンドですが、とある事情によって解散。20年の歳月を経て“銀天ママさんズ”として再結成されます。宮城真澄役の新垣美竹さんはドラマー、由起子役のjimamaさんはシンガーソングライターと、プロ・ミュージシャンの方の演技を見ることができるのも興味深いです。金城ななえ役の上門みきさんも、俳優業と並行してウクレレの弾き語りをなさっていますし。


ドラムは手元がどうしても映ってしまうので、プロのミュージシャンの新垣さんにお願いしました。ヴォーカルも当然本物じゃないといけないので探していたんですが、なかなか決まらなかったところjimamaさんが浮かんで、音楽監督の沢田穣治さんがアルバムのプロデュースをしていたので電話してみよう、となって。すぐに「いいですよ」と出てくれた形です。


---- 由起子が東京で歌っているテレビを、コザの仲間たちが居酒屋で見るシーンが本当に強く印象に残りました。彼女のリアルと、彼らのリアルが、はからずとも齟齬を生んでしまったというか・・・


jimama本人もメジャーと契約して、東京でヒット曲を何曲か出しているんです。そういう経験があるからこそ、この役ができたのかなと思います。一度東京に出て戻ってきている人間なので、その大変さみたいのもわかってるだろうし、一度受けた路線をずっと求められてしまう葛藤みたいなものもあると思うし、そういう部分も由起子というキャラに合っていたのかもしれないですね。


---- 上門さんは中川監督の「糸満3部作」の『のぶゆきと母ちゃん』『笑顔の理由』にも出演していらっしゃいますね


彼女が出てくると画面がすっと落ち着くんです。ものすごく器の大きな役者さんで、沖縄の映画には欠かせないと思いますね。ほか、『コザママ』に登場する俳優さんの多くに関しては、いろんなミニシアターや小劇場に足繁く通って、いいなと思う人を探していきました。




---- 監督は2009年から沖縄在住ですが、きっかけは何だったのでしょうか?


20世紀FOXさんと組んで『群青 愛が沈んだ海の色』(出演:長澤まさみ、佐々木蔵之介)という、少し大きな規模の映画を撮ったあと、一種の燃え尽き症候群のようになってしまったんです。次になにをやろう?と思った時に「農業かな」と。じゃあいっそ映画で何度も行ったことのある沖縄でやってみようかと引っ越しました。


---- 映画ではなく、農業が目的で引っ越されたんですね。


10年間実際に全く映画は作らず、農業だけは一生懸命やっていました。もう一生映画を作らないと思っていましたが、音楽監督の沢田さんだけがずっとしつこく電話してきたり、遊びに来たりしてくれて。


---- そして『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』で、長編としては十数年ぶりにメガホンをとられた・・・・。この映画では嬉しいことに、セリフにダニー・ハサウェイマーヴィン・ゲイの名前も登場します。


「うちなーんちゅ」は「やまとんちゅ」に何もかも押し付けられていて、同じように黒人は白人社会から虐げられていたという意味で、沖縄の人たちに黒人に対する連帯がやっぱりあったようです。劇中でジョニー宜野湾さんに歌ってもらった曲「燃える街」の中にもその要素があります。



ダニー・ハサウェイ『ライヴ』


マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン』


---- ジョニー宜野湾さんはロックバンド、ハートビーツ(1980年結成)の元メンバーですね。「燃える街」は監督の作詞ですが、ジョニーさんのパフォーマンスからは歴史の語り部のような印象を受けました。


本当は、歌っているシーンに、コザ暴動など当時の時代背景を説明するような写真を載せようと思ったんですが、ジョニーさんの歌が良すぎて、「写真はいらないな」と思いました。コザ暴動の起きた1970年、ジョニーさんは当時11歳、12歳ぐらいだったと思います。僕の歌詞に合わせて沢田さんが作曲してくれましたが、節が伸びたり縮んだりするので歌うのがすごく難しいらしいです。「監督が書いた歌詞だけど、僕が見たことを書いた曲という設定で歌うよ」とジョニーさんは現場でおっしゃってくれました。
※コザ暴動:アメリカ軍人が沖縄人を自動車ではねて、さらに別の軍人が追突事故を発生。騒然とする住民に憲兵が発砲。1970年12月20日未明、約5000人の市民が米軍関係者の車を焼き払った。


---- 監督がジョニーさんと初めて出会ったのは?


20年くらい前に(東京)中野の沖縄料理屋でライブを見たことがあります。ギター片手に出てきて、1曲目を歌い始めたら、迫力がありすぎて店内がシーンとなって。その頃はジョニーさんも結構突っ張ってたんで、MCもせずにどんどん歌っていました。いまや今沖縄のローカルタレントとしてテレビで人気者ですが、僕はやっぱり中野の居酒屋でのギター1本のロッカーの姿のインパクトが強くて、今回出てもらった形ですね。映画館でお客さんと一緒に観ていると、ジョニーさんが歌うシーンから、皆さんがより作品に没入していく印象がありました。



---- 沢田穣治さんの担当なさった劇伴も、銀天ママさんズのテイクを含めてとても魅力的に感じました。彼女たちは約20年ぶりの再結成という設定ですが、その頃の「4人編成で沖縄」というと、厳密には90年代ですがSPEEDの印象もありますし、「4人編成の女性バンド」というとやはり90年代ですし沖縄ではないですがZONE等のイメージもあります。でもこの銀天ガールズはギターが入っておらず、しかもつややかなR&Bです。


脚本を書いた時、僕の頭の中ではアレサ・フランクリンみたいなバリバリのオールドスクールなブラック・ミュージックが流れている設定だったんですが、沢田さんから上がってきたスコアはジャズ・ファンクみたいな雰囲気でした。沢田さんは、「やっぱり街の空気の洗礼を受けたあの年代であればこういう曲調じゃないの」という考えで。「ギターじゃなくて、オルガンの音がするキーボードが欲しい」とも言ってくれて、二人でセカンドストリートまで行って、中古のキーボードを買いました。ヴィンテージの雰囲気も出て、逆に良かったと思います。
また、この作品を製作するにあたって、知り合いのミュージシャンにどんな音楽が雰囲気に合いそうか挙げてもらって、片っ端から聞いていたんですが、その中ではロバート・グラスパーがすごい引っかかりました。ジャズ・ピアニストでありつつファンクでもあって、「グラスパー」というジャンル・ブランドになっている気がしています。あと最近よく聞くのは、カーク・フランクリンですね。とてもかっこよくて、もうゴスペルはここまで来ているのかと驚きました。



ザ・ロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ』


カーク・フランクリン『ロング・リヴ・ラヴ』


---- 監督はFMたまん(沖縄県糸満市)でラジオ番組『いとまん日曜映画館』をなさっていますが、選曲が親しみやすくて、しかも凝っている印象を受けました。「ラッパ隊がかっこいい曲特集」でブラス・ロックの曲を紹介していたり、ほかにもホール&オーツなど70~80年代のポップスがかかったり、音楽好きを楽しませてくれます。


トップ40もののラジオ番組は中学生くらいからずっと聴いていましたね。アメリカのロックが商業に行くちょっと前ぐらい、ジャクソン・ブラウンカーリー・サイモンキャロル・キングなんかが大好きでした。映画もニューシネマ、『明日に向って撃て!』『俺たちに明日はない』『スケアクロウ』などを青春時代に観ていました。音楽にしても映画にしても、やっぱりアメリカの文化にベトナム戦争の傷がまだ癒えない中で始まった、ゴツゴツしたものに惹かれていましたね。
少し時代は後になりますが、ジャズ系のものではクルセイダーズの「ストリート・ライフ」が好きでした。ランディ・クロフォードの歌が入っていて、当時のFENでよくかかっていたのを覚えています。
ジャズ・プレイヤーの演奏を見に行くと、瞬間のやり取りがすごいと思いますね。ただ映画音楽としては、もっと間があった方が好きです。映像ってやっぱり、全部埋められちゃうと辛いんですよね。沢田さんみたいに少しこう、空間がある音の方が好きかもしれないですね。
※トップ40:ヒットチャートの上位40曲。アメリカ・ビルボード誌のそれが有名。



ジャクソン・ブラウン『ジャクソン・ブラウン』


クルセイダーズ『ストリート・ライフ』


---- ぼくは沖縄に親しみを持っていて、コザにも何度か行きました。沖縄を題材とする映画はドキュメンタリーを含めて硬軟いろいろありますが、『コザママ♪』には「人々の笑顔」が広がっていて、気分が暖かくなります。


映画祭を狙うためには、非常に精巧な鍵を作ればいいんです。で、それを開けることのできる心を持っている人だけに開けばいい。でも、『コザママ♪』はすごく緩い鍵で、なるべく多くの人の心を開けたいと思ってつくっています。語弊がある言い方かもしれませんが、そっちの方が難しいんですよ。沖縄の置かれている状況とか、政治的にどうのという話ではなくて、個人のレベルで共感してもらえればと思いました。高いところから啓蒙するんじゃなくて、同じ目線でお話をしたかったんですね。


■中川陽介(監督)プロフィール 
武蔵大学経済学部を卒業後、1984年出版社入社。若者向けの雑誌編集部でデスク、FM番組やビデオ監督、プロデュース。 95 年退社後、97 年『青い魚』で映画監督デビュー。98 年ベルリン映画祭ヤングフィルムフォーラム正式招待作品選出のほか、数々の映画祭に招待、上映された。続く『Departure』では、サンダンス・NHK国際映像作家賞優秀賞、ベルリン映画祭ヤングフィルムフォーラム正式招待。 05 年『真昼ノ星空』(主演:鈴木京香)がベルリン国際映画祭のヤングフォーラム部門に正式出品。 09 年『群青 愛が沈んだ海の色』(主演:長澤まさみ)後、沖縄・糸満市に移住し、農家になる。 18 年に小説『唐船ドーイ』で新沖縄文学賞受賞。19年に10年ぶりにメガフォンをとり、短編映画『コザンチュ探偵新垣ジョージ』を総監督・脚本。 以後、コンスタントに短編映画を制作し、23 年、14 ぶりとなる長編映画『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』で劇場に復帰した。 デビュー以来全ての作品を沖縄で撮影。また、音楽監督・沢田穣治は、3 作目『FIRE!』(02 年)以来全ての作品の音楽を手がけている。


『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』
原案・監督・脚本:中川陽介 脚本:山田優樹 音楽:沢田穣治 撮影・編集:砂川 幸太 録音:横澤匡弘 
ゼネラルプロデューサー:森 寛和 プロデューサー:上里忠司 音楽プロデューサー:森脇将太 
配 給:ミカタ・エンタテインメント 宣伝:MAP 2022/日本/カラー/116分  
©YOSUKE NAKAGAWA / SOUTHEND PICTURES 
HP: https://kozamama.nice-movie.jp/

X(Twitter): https://twitter.com/koza_mama

2024年4月12日よりアップリンク吉祥寺ほか全国公開