<連載>原田和典のJAZZ徒然草 第109回

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2019.03.12

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オルガン・ジャズ、ソウル・ジャズ、リズム&ブルース、ファンク・・・ソウルフルな音楽をまとめた新刊『コテコテ・サウンド・マシーン』発売記念! “DJコテコテ”の生みの親である映画ライター/DJの鈴木並木さんに、根掘り葉掘り聞いてもらったぜ



新刊が3月18日にリリースされる。オルガン・ジャズ、ソウル・ジャズ、ホンカー、リズム&ブルース、ジャズ・ファンク・・・ブラック・ミュージックの幅広い楽しみ方を紹介する新刊『コテコテ・サウンド・マシーン』(スペースシャワーブックス)だ。アルバム100点、関連作200点の魅力をじっくりと紹介し、さらに浦風親方(日本相撲協会)、高橋利光(クレイジーケンバンド)、吉田哲人(作曲家、DJ、プロデューサー)との対談も収録した。もちろんディスクユニオン(各店、ウェブ)でも販売される。
その2日前の3月16日(土)には15:30から四谷のジャズ喫茶「いーぐる」で記念イベントが開催されることも決定した(入場料500円+飲食代)。伝説の巨匠から現役バリバリのミュージシャンまで数々の熱演を、著書の制作秘話を挟みながら、大迫力のオーディオで体験できる貴重な機会なので、ぜひお越しいただけると幸いだ。
この本を作った動機のひとつに、「DJ活動を通じて、自分の選ぶ曲で喜んだり沸いたりする人を見たこと」がある。そのDJ活動を後押ししてくれた張本人こそ、映画ライター/DJの鈴木並木さんだ。DJイベント「黒の試走車」、映画イベント「映画のポケット」(現在は終了)、自主上映会「渋谷並木座」を行なったり、リトルプレス「トラベシア」(今年中に第4号リリース予定)を発行するなど多方面で気を吐いており、僕は大きな刺激を受けている。“DJコテコテの生みの親”鈴木さんに、新刊に関するインタビューをしていただいた。
(S=鈴木並木、H=原田和典)


S インタビューのために『コテコテ・サウンド・マシーン』をいち早く読みました。『元祖コテコテ・デラックス』とは別物ですね。
H 一部サイトで“リマスター”“再発”みたいに紹介されていましたが、違います。なんであんな風に紹介されたのかなあ…。最新の書き下ろしです。映画で言えば、『ロッキー』シリーズと『クリード』2部作みたいな関係でしょうか。
S どうして再び“コテコテ”という言葉を使ったのか、気になるのですが。
H 編集者兼プロデューサーと何度も話し合って決めました。
S というのは、前に僕が『デラックス』の話を尋ねたとき、“それは今のポール・マッカートニーにキャバーン・クラブ時代の話をするようなものだ”と言われたことがあるからです。
H 『コテコテ・サウンド・マシーン』は『エジプト・ステーション』だから。なので今日は『エジプト・ステーション』の気分でいきましょう。
S プロデューサーと話し合って、すぐ『コテコテ・サウンド・マシーン』という題名に決まったのですか?
H 作業中に何度もタイトルは変わりました。僕の原案は『エンサイクロペディア・オブ・ソウルフル・ジャズ』。ゴードン・エドワーズやコーネル・デュプリーがいたエンサイクロペディア・オブ・ソウルというグループからとりました。でもこれじゃ覚えにくいし、文字数も多いから注文書に載せきれないかもしれない。『コテコテ・レボリューション』という案も出したのかな。ピヨピヨレボリューションという劇団があって、そのネーミングがいいなと思ったので。でも『コテコテ・レボリューション』だと何を題材にした本かわからない。どのセクションに商品を置けばいいのか、売る側が困惑してしまう。だからせめて“サウンド”という言葉を入れたら、音楽・芸術書コーナーには置いてもらえるだろうと。本の制作に向けて営業部がOKを出してから、編集部や印刷所が動き、取次を通って店頭に並ぶまでに、何十、ひょっとしたら何百という関門がある。その関門にいるひとたちは音楽ファンでもないかもしれない。でもそういうひとの心にとまらなければ、商品の展開にはつながらないし、お客さんにいきわたらない。『コテコテ・サウンド・マシーン』という題名に関しては、昨年グロリア・エステファンを描いたミュージカル「オン・ユア・フィート!」が日本で上演されたでしょう。グロリアといえばマイアミ・サウンド・マシーンで世界を席巻したシンガーですから、『コテコテ・サウンド・マシーン』に決めたときにグロリアの存在を意識してなかったといえばそれは嘘になりますね。
S 選盤の基準は?
H 基本的に手元に盤があるもの、ですね。プロデューサーか僕のどちらかが持っているもの。しかも今回は全ページ、カラーですから、現物を揃えることが最優先。もう『デラックス』の頃のように小さな白黒画像でジャケットをあれこれ紹介してもどうなのよ、という実感があった。だって、ネット検索すれば、いくらでもそのジャケットがカラーで表示されるわけだから。でもそのネットの画像は、解像度もピクセルも紙に印刷して商品にするには問題がある。だから現物をスキャナーにガッと取り込んで、それを印刷して製本する。ジャケット写真の迫力にも、今回たっぷり目をとめてほしいんです。
さらに企画段階で、1アーティストの作品を1枚ずつ、計100枚を見開き(2ページ)で紹介しようという骨子ができた。選盤は必ずしもそのアーティストのベストではありません。それよりも本全体のメリハリを考えた。いわゆる傑作ばかりがウジャウジャ並んでも息苦しいし、そもそも何が傑作かを決めるのは僕だけではなく皆さんでもあるわけだから。2ページで100アーティスト、これだけでもう200ページになる。本は“折(おり)”という単位で構成されます。1折は16ページ。基本、その倍数で本はつくられていく。文章にとりかかる前に、まず数学なんです。
S しかも対談、地図、人脈図もあって。
H 本文はエンタテインメント性が濃いので、それとは別に教材的なところもあると幅が広がると思い、地図と人脈図を入れました。これはプロデューサーの労作です。テキサス出身のひとがなぜ、ひとまずニューヨークよりロサンゼルスに行くことが多いのか、それが目でわかると思います。人脈のところは、波線を入れて、1970~2000年代ぐらいまでを大きくはしょっています。それを入れたら級数(文字の大きさ)が落ちて余りにも見づらいという理由と、入れるとピントがぼけてしまうのではないかという懸念からです。その間の、たとえばハービー・ハンコックジョージ・ベンソンクインシー・ジョーンズノーマン・コナーズグローヴァ―・ワシントンJr.、マーヴィン・ゲイダニー・ハサウェイカーティス・メイフィールド、いわゆるPファンク等の流れもすごく面白いんですけどね。今のジャズには、そちらのほうがよりダイレクトにつながる。だけどダイレクトにつながりにくいものどうしを、ちょっと力技で融かしていくのは、これはこれでやりがいがありますよ。今の音楽がとにかく面白いし充実しているから、現在とリンクさせたかった。
S データ記述も気合が入っていますね。アルバム・プロデューサーが誰か、ということもしっかり書いてある。
H ボカロにしてもヒップホップにしてもプロデューサーがキモじゃないですか。Pの視点いかんで音楽の風景が変わってくる。でも『コテコテ・サウンド・マシーン』でPの名前を書いたのは、そうじゃないんです。黒人音楽は黒人だけでは交易できない、ということも描きたかった。たとえばアトランティックのアーメット・アーティガンはトルコ人、ブルーノートのアルフレッド・ライオンはドイツ人。ロサンゼルスのR&Bシーンの大物であるジョニー・オーティスはギリシャ人。いわゆる黒人プロデューサーとされるエズモンド・エドワーズもカリブの出で、いわゆるアフリカン・アメリカンではない。アメリカ黒人が主役となる音楽を非アメリカ黒人が作品にして、世界に流し、その何割かが極東の島国に流れてきて、北海道生まれ・東京在住の自分の心をとらえ、それを日本語で2019年の日本のみなさんに紹介するという、この“ねじれ”。そのねじれを意識して読むかどうかで、『コテコテ・サウンド・マシーン』の味わいも変わってくるかもしれません。
S 『コテコテ・サウンド・マシーン』を読んでいて、「そういうつなげ方があるのか」と驚くところもありました。それに、オーデル・ブラウンの紹介ページで、雛形あきこや優香という名前が出てきた時はびっくりした。でも読んでみると、「なるほど、そういうことか」と思えてしまう。
H ぼくが初めてオーデルのレコードを買ったのは90年代のどこかです。レコードを聴き終わって、じゃあ今度はテレビ見ようかってスイッチをつけると、よくグラビアアイドルが出ていた記憶があるんです。それは必ずしも雛形あきこや優香ではなかったかもしれない。だけど原稿を書いている時に、その二人の名が並んでふと思い浮かんだ。“雛形あきこや優香”というのは、響きとしては、“タラタタタラララ、ターラ”。シンコペーションが利いているから、黙読でもリズム感が体に入ってくる。これが“井川遥や優香”になると1音足りなくてベタッとしちゃうし、“飯島直子や優香”だと“ターララララララ、ターラ”になって変化に乏しい。リズミカルな音楽を紹介する本ですから、文章もリズミカルにしたかった。逆に言えば、メロウなバラードを素材にした文章なら、僕はこんな風には書かない。
S 韻を踏むような・・・
H そうですね。ぼくは小学校の頃からバンドをやっていたんですが、その頃からやっぱり韻は大きなテーマです。中学でいわゆるヒップホップを聴いたときに、俺は間違っていなかったと思いましたね。
S ヒップホップの話をするのはすごく珍しいんじゃないですか?
H そうかもしれません。映画『ワイルド・スタイル』を見たのは上京してからですが、84年にグランド・ミキサーDST(DXT)の実演を夕張で見てるんですよ。“スクラッチ”と言っていたはずですが、レコードを楽器として操る発想にとにかく驚いて、家のプレーヤーで真似した。覚えているのは近藤等則の『メタル・ポジション』(85年)や、ジャマラディーン・タクーマの『ルネッサンス・マン』(84年)等を僕がかけて、ラップして、ピンポン録音でスクラッチしてカセットテープに録音したこと。東京に住んでいたらそのテープを放送局とかに持ち込んで聴いてもらえたかもしれないけど、今から何十年も前の北海道の田舎ですからね、業界人に聴かせようという考えすら浮かばなかった。
S けっこうピンポン録音はしましたか?
H しましたね。もっとポップス寄りな、シンガーソングライター的な音源も黙々と作ってました。家にはドラムもギターもあったし、そろばんをパーカッションとして使ったり。当時、すでにトニー谷を好きでしたから。休みの日はけっこう、ひとりバンドというか、多重録音に明け暮れていました。VHSテープも使って、ハモリを入れたり。
S 今でいうところのジェイコブ・コリアーのような・・・
H 昭和の道産子ジェイコブ・コリアー。ジェイコブに限らず、「ああ、こういうこと、昔おれがやりたかったんだよなあ」といいたくなるようなアーティストが少なからずいますね。YouTubeとかハーモナイザーとかDAWが存在するって、表現者にとっての黄金時代だと思いますよ。ぼくはテクノロジーには基本的に賛成です。なにか他人を幸せにさせる美しく平和なアイデアがあって、そのアイデアを具現化するためのツールなら、どんどん進化してほしい。
S ヒップホップの話に戻しましょう。
H 80年代後半にアフリカ・バンバータフル・フォースを知って、学校でもRun-D.M.C.の話ができるようになって、テレビでは「AVガーデン」という番組が比較的ヒップホップに積極的だった。いとうせいこうヤン富田中村有志が関わっていたはずです。桂木麻也子がいつも風呂に入っていて、のぼせないかと心配したものですよ。90年代でよく覚えているのはビースティ・ボーイズ2パックかな。ライヴでは上京してから見た近田春夫&ビブラストーン、ジャジー・アッパー・カットに衝撃を受けた。EAST END×YURIも何かの学祭で見ましたね。3人グループなんだけど、バックダンサーの2人も生き生きしていて、そのひとりがのちにRIP SLYMEをやるSUだった。
上京して出会った友人のひとりがレコード会社でトーキング・ラウドというレーベルの担当だったので、アシッド・ジャズとかドラムンベースもずいぶん聴かせてもらいました。「リミックス」の小泉雅史さん、「グルーヴ」の星出智敬さんにもよくしてもらいました。彼らからクラブ・ミュージックの情報を教えてもらって、僕がジャズ方面のことを伝えて、それによって自分の世界が広がった実感がありました。「ジャズ批評」を編集していた頃、僕が個人的に参考にしたのは、「リミックス」であり「グルーヴ」であり、英国の「ストレート・ノー・チェイサー」でした。それから長嶺修さんがいた時期の「ラティーナ」。
S 当時はネットがなくて、まさに紙媒体の時代。
H 『デラックス』の初版は8000部で、これは当時のジャズ批評の出版物の最低ライン。『ピアノ・トリオ』とかは1万2千部ぐらい作った気がする。(『デラックス』は)2年くらいで売り切った。そんな時代がありました。デジタルネイティブな世代のひとたちをすげえなと思うこともあるし、10代や20代の感性はうらやましいぐらい世の中を照らしているけれど、ブラウン管と薄型テレビを体験して、ダイヤル電話とスマホの両方を知っていて、LPからCDに移っていくときのあのざわざわした空気も体感していて、エレアコ・ギターの音がどんどん良くなっていったのも耳で実感していて、消費税がなかった時代にも生きることができて、それはそれでラッキーなのではと考えるようにしています。
S 『コテコテ・サウンド・マシーン』の対談に登場なさっている浦風親方、高橋利光さん、吉田哲人さんは皆、『デラックス』の読者だったそうですね。
H 偶然にも僕は、それを対談の場で知りました。当時若手だった僕が出したものを、やはり若手であったお三方が読んでくれていたということです。その当時は一面識もなかったけれど、当人のあずかり知らぬところで若手同士、実は見えないコミュニケーションが成立していて、先日、ついに対面することができた。これは壮大なロマンですね。そしてお三方はそれぞれ大成されて、後進の指導などにも情熱を注いでいる。そう考えるとぼくも次世代に、『コテコテ・サウンド・マシーン』に登場する音楽の面白さ、躍動感を伝えたくてしょうがなくなるんです。そしてこうした音楽が、今の音楽の源のひとつであることも。自分たちの体験してきたエキサイティングな事柄を、決して押しつけがましくなく、シンプルかつハッピーに次世代に伝えることは、彼らより長く生きてきた者にとって大きな課題のひとつだと思います。
入り口はいろいろあって、しかも大きく開かれている。星野源アンダーソン・パークENDRECHERIスナーキー・パピー、そのほか、どれを選ぶかは自由ですが、その糸をたぐりよせていくと、どこかで『コテコテ・サウンド・マシーン』に載っている音楽に出会ってもおかしくないんです。もっとも、あいみょんと『コテコテ・サウンド・マシーン』音楽の接点を、ぼくはまだ見つけていませんが・・・・いや、昔ショウケース・ライヴで弾き語りを見たときは、ギターも歌もすごいソウルフルだなと思ったし、日常を切り取った歌詞も飾り気がなくて良かったな。日常を切り取った歌詞って、これはまさにルイ・ジョーダンの世界ではないか! ということは『コテコテ・サウンド・マシーン』とつながるんだ!
S かなり強引なつなげ方ですけどね、今日び、そういう強引なところがもっとあってもいいんですよ。評論家のライナーノーツも、もっと“俺”を打ち出したほうが面白いのに、と、僕は思うぐらいで。
H それに関しては即答しかねますが、増田勇一さんのライナーノーツは“俺のかたまり”という感じで気分が熱くなりますよね。でもそれは僕が増田さんの文体を好きだから、ということなんだろうとも思います。『コテコテ・サウンド・マシーン』は、音楽をそこそこ知っている人ほどマニアックな内容に感じるかもしれませんが、実は全天候型の本なんです。1作品が2ページ見開きで紹介されていて、電車の待ち時間でもカフェか何かで何かの注文を待っている間でも読めるし、基本読み切りなので、どのページから読み始めてもOKです。とにかく内容、レイアウト共に、プロデューサーと考えに考えて作りました。ぜひ買っていただきたいし、読んでいただきたいし、笑顔になっていただきたい。そして音楽を、レコードを、CDを、もっともっと愛してほしいと切望します。

鈴木並木さんブログ「Eat Much, Learn Slow (& Don't Ask Why)」 http://emls.jugem.jp/
リトルプレス「トラベシア」通販ページ https://booth.pm/ja/items/750707
『コテコテ・サウンド・マシーン』発売記念イベント#1 3月16日(土) 15:30~ 四谷・ジャズ喫茶「いーぐる」(入場料500円+飲食代) http://www.jazz-eagle.com/
 

  • 原田和典 / コテコテ・サウンド・マシーン

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    コテコテ・サウンド・マシーン

    原田和典

    スペースシャワー・ブックス / JPN / BOOK / 4909087362 / 1007865278 / 2019年03月18日

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