ディスクユニオン ジャズスタッフ 9月度レコメンド・ディスク

ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!

Matthew Stevens / Matthew Stevens / JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009192703
マシュー・スティーヴンス。現代ジャズの名サイドマン。寡作。そしてプレイスタイルも、寡黙。選びぬかれた音を適切な場所にまちがいなく置いていく。華々しくはないが、居なければ音楽が成立しない。そういうタイプのギタリスト。ジム・ホールみたい。そう思ってスティーヴンスの発言を探ってみた。そこで名前が挙がっていたのはエド・ビッカート。エド・ビッカート?ポール・デスモンド『Pure Desmond』でテレキャスの音を聴かせるあの人。カナダ出身。そこでようやくスティーヴンスもカナダ・トロント出身だと気づく。同地で活躍したビッカートは地元の巨匠だった。そのあと師事したローン・ロフスキーもトロント出身。そうしてバークリー音楽院をへて、個性派揃いのUSジャズ界へ。クリスチャン・スコット(現チーフ・アジュアー)やエスペランサ・スポルディングといった最先端ミュージシャンからの信頼が厚いのは、なんでもできるテクニックもさることながら、トロントゆずりのサイドマン的職人魂ゆえのことだろう。それを思えば00年代から活躍しているのに単独リーダー作4枚目であるのも納得。と同時に、自身の名前を冠した本作に込める熱意も伝わる。全体に参加するジョシュ・ジョンソン(as)にクリス・フィッシュマン(key)はLA勢。M4ではジョシュとクリスがぼんやりひかり、コーリー・キングのハミングとスティーヴンスのアコギがやさしく肌にふれる。電脳空間の森のよう。ジェフ・パーカーっぽいなあと思ったらM6・7で本人が登場。陽光ふりそそぐM8は本作の白眉。後半でスティーヴンスはやっと前に出て、やはりLAのディラン・デイ(gt)とかけあう。LAっぽさを強調してきたがM1は7拍子のガチガチNYコンテンポラリー。リズミックなギターがジョエル・ロス(vib)のひんやり俊敏なプレイとぴったりかさなる。落ち着いたビートのM10ではアーバンでチルな空間が立ちあがる。かつてジム・ホールはデスモンドに「トロントで演るなら…」とビッカートを推薦、以来彼は同地のファーストコール・ギタリストとなったそうだ。そんなかんじで、スティーヴンスがいりゃ現代ジャズも安泰。このシブさ、わかればあなたもジャズ巧者。

Jon Batiste / Monk Meditations/ JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009238392
ジョン・バティステが3枚同時リリースを敢行。マルサリスかいな。すべてソロ・ピアノ。キースかいな。『Black Mozart』は前作『Beethoven Blues』の続編といったところ。それにモンク集×2枚。特にこの『Monk Meditations』が面白い。M1・3・8はオリジナル。ハンス・ジマーよろしく、いつ果てるともない不動の世界が出現。サウンドがほか2枚と明らかに違う。静謐な空間に、ポーンとピアノが鳴り響く。ニューエイジ的、ヒーリング的、まさしくメディテーション。そのままM2・4・5・6・7と、モンクの曲がECMライクな音楽に変身。“Ruby, My Dear”のカヴァーM5では、けだるいはずのメロディが高潔で崇高な美しさを放つ。M4“Midnight Movement”では冒頭、ハープのように繰り返される下行音型のなか『至上の愛』の〈承認〉のリフが現れ、そして“’Round Midnight”が奏される。メディテーションにはもっと深い意味もありそうだ。こんなモンク集はじめて。驚くもよし、癒されるもよし。バティステがちゃんとモンクを会得していることはもう一枚の『Monk Movements』を聴けばわかる。やはりすべて買うしか!

ネイト・マーセロー / ファンタスティック・ソーツ/ JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009290341
猛然たる速さで天空を翔け爆ぜ散り煌めく幾多の光を過ぎ越し照り映え輝く地表を眼下に蒼穹の先の星辰のありかへと突き進む。M1“There's Something Here...”でネイト・マーセローは自身のすべてを注ぎこみ限界を超えんとしているかのように聴こえる。ギターシンセは唸るように空間をおし拡げ、カルロス・ニーニョのサウンドメイクは重力を打ち消していく。疾駆するアッパーなドラムは誰かと思えばこれもネイト。そうして3'58"でアンビエンスな音響が広がるさまは、重力圏外へついに到達して、無辺の宇宙をただよっているかのようだ。しかしネイトは進み続ける。頭のなかの音楽は、その想像力はとどまるところを知らない。まさに“Fantastic Thoughts”だ。タイトル曲M4では盟友アーロン・スティールのラフなビートに乗って虹色のギターシンセが夜空を染め上げる。数え切れぬアイディアはすべて現実の音として刻みこまれ、猛スピードで私たちに降り注いでくる。怒涛の40分があなたを待っている。

Ulysses Owens Jr. / Kind of Grunge/ JazzTOKYO 東舘
https://diskunion.net/detail/1009247874
ニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”(M5)!強大なエナジーがスローなテンポで底のほうから湧き上がる。それからマッドハニーにパール・ジャムにサウンドガーデン…“現代のジャズ・メッセンジャーズ”と称されるユリシス・オーエンス・ジュニア&ジェネレーションYの最新作は、グランジ諸楽曲のカヴァー集。だがユリシスは別にロック少年ではなかったという。ここで試みられているのはグランジの再現ではなく、それらをメロディやコードやリズムに還元したうえでの再解釈だ。12曲中9曲は事前にリハをせずスタジオに入ってから音楽を組み立てていったという。自由なアレンジが楽しい。M9ではマシュ・ケ・ナダが出てくるしM10はレゲエ。しかし当然ながら全体はユリシスらしいストレートなジャズ・アルバムとしての高い完成度を誇る。事前に作りすぎず、スタジオで音楽を練り上げ、ゆらぎも含めたライヴ感を閉じ込めた『Kind of Blue』へのオマージュでもあろう。同作がブルースから始まりブルースでないように、本作もグランジから出発しつつグランジではない。M1で聴こえる“Milestones”に痺れる。これこそジャズだ。

ラリー・ゴールディングス, ピーター・バーンスタイン, ビル・スチュワート / ロンバス / JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009259573
ゴールディングス、バーンスタイン、スチュワート・・各人同等名義、現代最高峰のオルガントリオ。この3人、90年代初頭からリリースを重ねていますが、原文ライナーを読むと学生の頃から一緒に演奏をしていて、40年近い共演歴があるそう。そして今や各人がその楽器の第一人者として、現代ジャズ界を引っ張っているのも何だか感慨深い。で、その最初期の演奏から感じていたけど、オルガンといえばのコテコテさというよりは、コンテンポラリー色が強く、土臭さやブルース臭は控えめ。コントロールされつつもがっしり骨太・・そこに各奏者の音個性がじっくりとにじむサウンドだ。例えば、バーンスタイン作の「Dissipation Blues」、白熱しつつも大汗はかかない、どこか抑えられた、でも聴き手が感じるブルースの感覚って何とも個性的だと思うがいかがだろう。ルバートで始まり、ルバートで終わるキース・ジャレットの珍しいカバー「Everthing That Lives Laments」や、ウエイン・ショーターの「Penelope」の浮遊するオルガンと内省的な感覚もこのトリオ得意の表現と思う。シンプルさと緻密さ、三者の目指す音方向性の完全な一致、円熟したやりとりなどなど・・各個性が集合し、たどり着いた(そして今なお前進する)孤高の名ユニットだと思うのだ。

Murat Ozturk / Aina / JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009250480
トルコ人の父とイタリア人の母を持ち、フランスで生まれたピアニスト、ミュラ・エズテュルク(と読むらしい・・)の2021年のトリオ旧作が突如入荷。私、まったく知らない奏者でしたが、出自ゆえのエキゾチックさ、トルコと同じ中東地域のイスラエル的なメロディを感じる瞬間もあったり、うむこれはいいなあと聴き進む。口笛とピアノのユニゾンで始まる「Spirales」が一曲目。この出だしのキャッチーさで心掴まれる。刹那的に変化する曲展開もいい・・いやしかし、アルバムのハイライトは⑦「Equivox」⑧「Mélopée」⑨「10 ans」の3曲と思う。エスニック、土着色が全開に、陰影のある旋律は何か訴えかけてくるようだ。一音一音を活かす間、そして全曲に共通するゆったりしたテンポも聴き手に没入感をもたらす効果あり。一期一会感もあるし、どうぞお見逃しなく。

Seamus Blake / Electrifying Seamus Blake - EH! / JazzTOKYO 神尾
https://diskunion.net/detail/1009225390
シーマス・ブレイク、Cellar Liveからの一作目は、何とエディ・ハリスへのトリビュート作。ヴィージェイやアトランティックから、多くのアルバムを出しているハリスだけど、代表作ってなんだっけ?という声が聞こえてきそうだ。やっぱり「Freedam Jazz Dance」作曲の人になるんだろうけど、テナー、ヴァリトーン(サックスにつけるエフェクター)の先駆者だったり、その大きな音楽性も含め「ジャズ界の自由でユニークな異端児」だ。で、一方ブレイクはEWI(デジタル管楽器)を駆使して曲中でキュンキュンしたり、リバーブの効いたテナーで、なんともメロウな雰囲気を醸し出す。サム・ヤヘルのローズやオルガン、ティム・レフェブレのエレキベースのクールなファンクネスもいい。そしてあらためて思うのが、ハリスのメロディメイカー振り。例の「Freedam Jazz Dance」はもちろんだけど、特にラスト2曲「Funkorama」や「Illusionary Dreams」のメロディ、そこに乗る心地よくリラックスしたブレイクを極上と思う。ハリスの懐の広い音楽を屈託のなく聴かせる「いいじゃん♪」って感じの一作なのだ。

坂田明 ×トリプル・エッジ / アット磔磔 / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009266457
AIでおもしろそうなのは個人限定型AIである。例えばAIチャーリー・パーカー。パーカーのあらゆる音源を登録し、発言、証言、評論、個人史、写真、映像などなどインプットした分身AIにフリージャズなど演奏させてみたりする。あ、それではジミー・ライオンズ風になるだけのことか。AIサカタはどうか? ジャズ界隈ではいち早くコンピュータに接近し、1980年9月、坂本龍一の"B-2 Unit"とほぼ同時にダブテクノ作品"テノク・サカナ"を放った坂田明はテクノロジーとの相性は抜群のはず。ご本人とAIの対話など並のお笑い漫才よりおもしろそうだ。AIとの競演となると生身の勝ち。坂田さんならきっとインプットされた情報の裏をかいて、出たとこ勝負のデタラメでAIを圧倒するからだ。思い切りのよい坂田明の演奏は起承転結ならば起と転の連続で予測不能。この作品も基本は演奏者各々が即興的に反応し合うデタラメの4乗5乗6乗。唐突に顔を出すおなじみのサカタ芸もそれでこそ引き立つ。坪口昌恭のシンセサイザーと加藤崇之のノイズギターがアクセントになり、熱を帯びた演奏がライブハウス磔磔(たくたく)のある京都のムードに染まっていく。

テリ・リン・キャリントン / トリップ・ザ・ナイト・ファンタスティック / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009250959
テリ・リン、懐かしい!と思った人、それを口に出すとお歳がバレます。'80年代後半、新進気鋭の女性ジャズドラマーとして颯爽と登場。ウェイン・ショーターやデヴィッド・サンボーンのバンドでタムタムとシンバルの群に囲まれ両腕を広げて縦横無尽にスティックを振り回す姿をTVで観た初期印象は、4ビート志向のジェフ・ワッツやラルフ・ピーターソンとは別のコンテンポラリージャズ。'89年の初リーダー作もその路線で、サンタナ、ジョンスコ、グローヴァーと多数の豪華ゲストを迎え、自身のヴォーカルまで披露。全方向に間口を開放したスタイルで、スティーヴィー・ワンダーやジョニ・ミッチェルなど大物もこぞって重宝。21世紀に入ると後進の育成、女性ジャズコレクティブの組織と多彩旺盛に活動しながらジャズ周辺の若手を集めて2019年にSocial Science名義でアルバムを発表。本作はその第2弾である。ハウスミュージックのように感覚的に転調するアフログルーヴに始まり、プリンス風味のメロウファンク、まどろむようなシンセサイザーがサイコーなスロウグルーヴと続く。5曲目はなんだかイーグルスの"ホテル・カリフォルニア"のような展開。多用される英語のメッセージがボンクラにはチンプンカンプンだが、サウンド自体が魅力的で聴き入ってしまう。その鍵を握るのはおそらく全曲に参加するマルチ奏者モーガン・ゲリン。2年前、結末のないミステリーのような不思議なアルバム"Tales Of The Facade"で度肝を抜いてくれたあのセーネンだ。サックス、ベース、シンセサイザーと要所でマルチに暗躍するが、全編通すとモーガントーンで貫かれているように聴こえてくる。それもそのはず。表記を見ていくと、プロデュースはテリりんとモーガンゲりんのりんりんコンビなのだ。タワケタモノイイワユルシマセン! ドスボコビシバシ! (スティックの打音)

大友良英 & 松丸契 / Shutsumin / JazzTOKYO 赤尾
https://diskunion.net/detail/1009258659
このたび新連載"Spicy Sound Of Jazz"がスタート。タイトルだけはワールドワイドに発信します! 記念すべき第1回は大友良英と松丸契のデュオ。初回からフリージャズとさえ呼びはばかられるハードコアノイズ作品の紹介となり、早くも企画が破綻しそうな偽りの看板ぶり。紛らわしい表現はしないよーに!とインタージャズポールから警告が届きそうだ。前衛最前線のベテランと新鋭による硬派な雑騒音は、最初は音源がギターなのかサックスなのかすら判然としないかも知れない。やや左寄りがサックスのようだ。音色面で無秩序に聞こえるノイズに一定の発音方法を与えることで秩序が浮かび上がり、やがて楽曲としての独立性を帯びてくる。それが実感できる演奏である。ピットインでのライヴ録音となっているが、少なからず居合わせたはずの観客の拍手も喝采もない。サックスの生音成分も薄く、どうやらライン経由でミキサーに送った音をマスターにしたようだ。観客の反応もライヴ作品の一部と考えると、この点で辛口に★ひとつ減。最後の"明晰夢"が秀逸。ノイズミュージックの美しさと心地よさに気づける作品。

Nils Petter Molvaer / Be Quiet / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009232513
ニルス・ペッター・モルヴェルの新譜が出た。早速店頭で流してみると、早々に琴(古筝)の音が聴こえてきて、意表を突かれる。そしてとても静かだ。というのは、本作はモルヴェルが9人の異なるアーティストとデュオ形式で演奏したものだそう。ここに開けた空間がある。そこで1対1、対話がはじまる。まず、中国のChang Jingの古筝とノルウェーのモルヴェルのトランペットの組み合わせは異色に思えて、幽玄で日本のお盆のような霊性を感じさせる。M4のピアノは、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ。さらにアルヴァ・ノトら、エレクトロニクス、フィールド・レコーディング、チェロなど個性あふれる豪華な参加アーティストたち。すごく面白い企画だと思う。M3に登場するのは、イギリスのSSWイモージェン・ヒープ。息多めのヴォイスとエフェクトを駆使することで、もうひとりのモルヴェルが現れたかのような衝撃を受けた。やわらかくて靄に包まれたトランペットとその対話の記録。ふたりたちは溶け合い、夜の海になった。

Brian Marsella & Sae Hashimoto / Tunnel Vision / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009258631
こちらもデュオ。ジョン・ゾーン作品にも参加するピアニスト、ブライアン・マルセラ。ヴィブラフォンの橋本紗英は、NY在住で現代クラシックや実験音楽シーンで活動し、彼女もジョン・ゾーンと共演歴があるよう。ヴァイブの軽快なフレーズの繰り返しに、なにやらピチカートのような音が聴こえると思ったら、ピアノ内部の弦をミュートしてぱちぱち弾いていた。ミニマルでパーカッシヴな冒頭から、即興がスパークしていく。鋭いアタックでシャープ、軽やかな危うさを孕んだふたりの演奏には同じエネルギーが流れる。そんな中、M4「Sheep Water」では、映像的な描写が美しい。ピアノの弦を怪しく響かせたり、ヴァイブの音盤を弓で擦る奏法で浮遊感が生まれる。羊水に浮かんでいるとき、どんな音が聴こえていたのだろう?世界の外側のいろんなノイズがぶつかり合ってこんな風に響いていたのだろうか。その後のM5は、ピアノもヴァイブもとってもまろやかな音。ふたつの楽器の音響をまるごと体感できるデュオ盤。感覚がひらかれていく。

グレッチェン・パーラト / ワイズ・ワンズ / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009254879
私がここに勤務し始めた頃、『Flor』(2021)が出た。当時上京したばかりで音楽の探し方すらわからなかった私はグレッチェンやベッカ・スティーヴンス、ロバート・グラスパーなどを教えてもらい、感動でほくほくしていたのを思い出す。そこから5年が経ち、本作が出た。グラスパーとは15年ぶりの邂逅だそう。アラン・ハンプトンとの共同プロデュース、さらにマーク・ジュリアナやジェラルド・クレイトンらと、ひとつのサイクルが循環するようにこれまでの彼女のキャリアが線となりここに繋がる。集大成と言える最高の内容だと思う。M7ティアーズ・フォー・フィアーズのカヴァーはベッカによるコラやヴォイスを用いたフォーキーかつユニークなアレンジが冴えわたる。グラスパーのピアノをフィーチャーしたM9は、マーク・ジュリアナらリズム隊のグルーヴと交わるネオソウル的かつメロウなサウンド。50歳を迎えたグレッチェンのヴォーカルも年々素晴らしくなる。巡り巡ってその高みが確かに更新されていくという事実にまたもや感動を覚えているのだった。

Tyrone Allen II / Upward / JazzTOKYO 松本
https://diskunion.net/detail/1009281736
ユニオンのスタッフが発掘し、リリースから少し遅れて入荷してきた本盤。サリヴァン・フォートナーのレギュラートリオのベーシストとして、さらにTerri Lyne CarringtonやMiki YamanakaなどNYを拠点にサイドマンとして活躍するタイロン・アレンⅡ。自身の名義で初となる本作は、コンテンポラリー・ジャズにバップ的な要素、アンビエント、ニューエイジがシームレスに溶け合う佳作だった。風が流れるような浮遊感が心地よく、乾いたサックスの音、ハープを選んでいるのもとてもいい。色とりどりのアイデアに、彼のベースの引き出しも多様。ウッベ、エレベ、シンベ、エレクトロニクスを使い分け、ベースラインが隠れた軸になっているのが楽しい。それぞれの演奏は素晴らしいし、さらにそれを一つのサウンドスケープとして描き出すプロデュース力は類まれなものだと思う。最近ライヴを見に行ったメアリー・ハルヴォーソンのベーシスト(Nick Dunston)にも度肝を抜かれたし、日々素晴らしいベーシストを知れて嬉しい。

Ale Nunez / Blue Room / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009247867
コンスタントに良質な作品をリリースしているCELLAR LIVE。毎回新譜案内が届くのが楽しみなのですが、『トロントを拠点にしているSSWによるアメリカン・ソングブック集』がリリースされると知って心待ちにしていました。本作は偶然にも「East of the Sun」など家や部屋にまつわる曲が多く大切な人と温かい居場所を築く夢が描かれています。その一方で「Little Girl Blue」などの寂しさに寄り添うセンチメンタルなバラードも選曲されていて人生の光と影が美しく表現されています。エール・ニュニェスの強い希望で、名手ピーター・バーンスタイン(ギター)とニール・スウェインソン(ベース)とのトリオが実現。なんと事前のリハーサルは一切なく、前夜の初共演ライブの翌朝に全13曲を一発録音したとのこと。その瞬間だけのきらめきがギュッと詰まったジャズ本来の生々しく温かい息づかいがつまった作品となっています。

Guido Di Leone / Promenade / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009204882
ギタリストの故・グイド・ディ・レオーネ、ベーシストのダリオ・デイッダ、そして名ドラマーのジョーイ・バロンの3人が一発録りでレコーディングした全10曲入りの美しいアルバムが登場です。。長年ステージを共にしてきたグイドとダリオの見事なコンビネーションに、ジョーイの繊細なドラムが心地よいリズムの糸を織り込んでいきます。収録されているのはニーノ・ロータの名曲やボサノヴァといったチャーミングでラブリーなカバー曲と、グイドが書き下ろした5つのオリジナル曲、彼らは派手なテクニックを見せつけるのではなく美しいメロディや澄んだ響き、そしてお互いを思いやる「静けさ」をとても大切にしています。聴いているだけで、まるでお天気の良い日に静かな道をのんびりとお散歩しているような優しくてあたたかい気持ちになれる、そしていい音楽を聴いたと余韻に浸ることができるスペシャルな1枚です。

Stefon Harris / Legacy Dances / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009259279
ダイアナ・クラールやジョシュア・レッドマン、そしてチャラニー・ウェイドらのサイドマンとしてキャリアを積んできたヴィブラフォン奏者のステフォン・ハリス。2004年に自身のバンドを結成、元々その結成周年を記念して企画された本作は、2024年に急逝した創設メンバーのエレクトロ・ジャズの革新者ケイシー・ベンジャミンへの愛と追悼が込められた、切なくもパワフルな作品となりました。ケイシーのトレードマークであるボコーダーが冴え渡るM6「I Know Love」や、ルイ・アームストロングのカバーM3「What a Wonderful World」など収録、初参加のピアニスト、クリスチャン・サンズらを迎えジャズにヒップホップやR&B、伝統リズムをミックスした最先端のサウンドを展開。ハリスが掲げる「音楽を通じた共感」を形にしています。

Vanisha Gould / What An Interesting Girl / JazzTOKYO 中村
https://diskunion.net/detail/1009279196
ヴァニシャ・グールドは今作で、今のジャズ界で彼女がどれだけ特別な存在かを証明してみせました。彼女の魅力は、歌の巧さや声の美しさだけじゃありません。野良猫、一杯のジン、街角ですれ違う視線。そんな誰もが見過ごしてしまう日常の一コマをすくい上げてユーモアと切なさを絶妙にブレンドした物語に変えてしまう表現力がとにかくすごい。ジャズの伝統をリスペクトしつつも、懐古趣味にならずに「今の私たちのリアル」を歌うヴァニシャ。まるでその場で言葉が生まれたかのように語りかけてくる歌声は、ライブの現場でじっくり育てられたからこその説得力があります。ただ綺麗に歌うのではなく、曲の中の主人公をそのまま生きるような彼女のスタイル。ヴァニシャの目を通すとありふれた日常がこんなにも愛おしく深みのある音楽に変わるんだってことに気づかせてくれます。じっくり聴き込みたくなる名盤の誕生です。

Lakecia Benjamin / We Dream / JazzTOKYO 羽根
https://diskunion.net/detail/1009207953
ラキーシャ・ベンジャミン良いね!これまで現代ジャズを追っている好事家の間で話題になっていても、私の脳内に設置されているジャズ・アンテナはAMラジオ並の性能なので、普段はこうしたイケてる音楽からは圏外なのだが、今回の新譜を聴いて一遍に贔屓になってしまった。特に#6“Dream Breaker”でクリス・ポッター、ジェフ・ワッツといったヘビー級の連中と渡り合い、ゴリゴリの“どジャズ”をブチかます様には興奮させられた。熱心に彼女の活動を追ってきたファンからすれば、何を今更なのであろうが、こんなのも出来るんだと素直に驚いてしまったし、スピリチュアル、ファンク、R&B風味の演奏も、聴いてみれば大変心地よい。やはりきっかけは大事で、私にとってのきっかけは、この新譜がARTWORK RECORDSからリリースされたことに尽きる。レーベルを追うというのは輸入盤DIGの秘儀というか、醍醐味であって、アーティスト個人を追うのとは別種の、存外な結果をもたらしてくれるものだ。ARTWORKと言えばグラミー賞「最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞」に輝いたサリヴァン・フォートナーの“サザン・ナイツ”(2025年)で跳ねた印象が強いが、個人的には2024年にケニー・バロンがイマニュエル・ウィルキンスと共演した“ビヨンド・ザ・プレイス”が決定的で、このレーベルは追うべしと留意させられた傑作だった。ARTWORKは惜しくも2024年に亡くなってしまったフランス人プロデューサーのジャン=フィリップ・アラールが立ち上げた新興のインディーズ・レーベル。強力なレーベル・カラーに染め上げるのではなく、アーティストの自由な創造性を最大限発揮させるのが信条のレーベルと言えそうだ。サリヴァン・フォートナーとはimpulse!時代からの関係、ケニー・バロンとはそれ以上に長い付き合いとなり、何を隠そう1990年の大名盤、スタン・ゲッツの“ピープル・タイム”をプロデュースしたのがジャン=フィリップ・アラールその人。左様にジャズって時代・空間を縦軸・横軸にした繋がりが面白い。そのレーベル精神は没後もしっかりと受け継がれている。ほら、ラキーシャ・ベンジャミンも聴きたくなってきたでしょう。

山本剛 / PLAYS SONGS(CD)/ 横浜関内ジャズ館 小林
https://diskunion.net/detail/1009216797
山本剛トリオ×神成芳彦の第4弾。リスナーに親密に寄り添うメロディーの中にも、山本剛らしい遊び心があるフレーズが感じられて嬉しい。特に8曲目「Everything Happens to Me」があって、ラストの12曲目に「Everything」が来る洒落た流れは、アルバム全体の余韻に楽しく、そして深く浸れる。思わず口ずさんでしまうナンバーが紡がれたこのアルバムは、一人で静かに落ち着いてでも、誰かと一緒に語り合いながらでも聞ける日常に溶け込むような作品になっている。

YVONNE ROGERS / BUTTON JAR / 新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/detail/1009222306
注目のピアニスト、イヴォンヌ・ロジャースが話題のレーベル、パイロクラスティックから放つ、ソロ・ピアノ作「The Button Jar」は、現代ジャズの枠組みを拡張するスリリングな意欲作である。アダム・オファリル(tp)の「Elephant」への参加や、メアリー・ハルヴァーソン(g)のグループへの参加でも知られる彼女だが、それは、自身が打ち立てた強靭で固有の世界観が、その瑞々しい音楽性とテクスチャーへの鋭敏なこだわりを持って、同世代の先鋭たちを強く惹きつけた結果に他ならない。自由な即興と厳格な構造美を架橋する彼女の圧倒的なバランス感覚は、ニューヨーク・ブルックリンの先鋭的シーンが切り拓いてきた現代音楽的アプローチとも共鳴しながら、完全に独自の領域へと昇華されている。一音の余白にさえ深い思索を宿し、音響芸術の域にまで高められた彼女のサウンドは、自身の希有な才能の完全な独自性を確立している。既存のジャズ・ピアノのイディオムを鮮やかに再構築して、新たな聴覚体験を切り拓く、鮮烈な宣誓を、ご一聴あれ。YVONNE ROGERS(p)

SAM RIVERS / DIMENSIONS & EXTENSIONS (BLUE NOTE TONE POET VINYL SERIES) / 吉祥寺ジャズ館 山田
https://diskunion.net/detail/1009272302
録音はもちろんリード・マイルスによるジャケットまで用意されながら、ブルー・ノートのリヴァティ買収騒動でお蔵入り、のちにBNLAのリイシュー・シリーズでリリースされ、アートワークまで復刻されたのは1986年のフランス盤という、不遇を極め、最終的に一体どれをオリジナルとしていいかも判然としない一枚。四管ピアノレスのモダン~アヴァンギャルド・ジャズといえばそうなのだが、改めて聴くとアレンジも異様なほどしっかりしているし、ソロはリヴァースをはじめドナルド・バード(!!)、ジェームズ・スポールディングなど各々の個性が爆発した素晴らしい内容。BNLAやフランス盤を凌駕するであろうTONE POETの音質で聴けるというのも高ポイント。

EKEP NKWELLE / CAGED BIRD / 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 田口
https://diskunion.net/detail/1009293699
女性ジャズ・シンガー、エケップ・ンクウェレのデビュー・アルバム「ケイジド・バード」。ジャズの伝統を大切にしながら、ブルースからブラジル音楽、スピリチュアルジャズまで幅広く歌いこなす。メッセージ性の強い楽曲が並ぶ中、過度に感情を押し出すことなく安定化のある歌で聴かせるところにこのアルバムの魅力を感じました。感情をどこまで表現するのか、その絶妙なコントロールに高い技術を感じます。歌い手がすべてを語り尽くすのではなく、聞き手にとっての感情の余白を残してくれているように思います。

JASON MORAN / JASON MORAN PLAYS DUKE ELLINGTON / 新宿ジャズ館 逆瀬川
https://diskunion.net/detail/1009292226
現代ジャズ・シーンにおけるジェイソン・モランの重要性は年を経るごとに増している。現代のトップランナーであるイマニュエル・ウィルキンスを見出したのは重大な事件。しかしそれだけに留まらず、モランの"ブラック・ミュージックとしてのジャズ"を探求するような活動も、ジャズの歴史を学び、黒人の歴史、社会を目の当たりにしてきた現代の若手に刺激を与えているのは確かだろう。
ファッツ・ウォーラーへのオマージュで"ダンス・ミュージックとしてのジャズ"を再定義し、”黒人音楽の祖”と言われるラグタイムの作曲家ジェイムズ・リース・ヨーロッパに光を当てたモランは今回、デューク・エリントンをソロ・ピアノで取り上げた。洗練されたエリントンの楽曲と、モランのエレガントなピアノは実に相性がよく、モランの手によりエリントンが現代に降臨するかのような感覚さえ覚える。低音部を鳴らし続け度肝を抜く「Black And Tan Fantasy」のような、モランらしい大胆な解釈の演奏もあり、原曲との聴き比べも興味深く楽しめる。
ところでモランが師事したジャキ・バイアードには、エリントンが体調を崩した際に楽団で代演を務めたというエピソードがある。あらゆるスタイルに精通したバイアードならば、エリントンのピアノ、楽団の世界観を再現出来るだろう、と白羽の矢が立ったのだという。少々強引かもしれないが、エリントン、バイアード、そしてモランへと繋がる一本の線が本作で可視化された、なんて見方も出来そうだ。そしてその先に、イマニュエル・ウィルキンスら現代の若手たちがいるのである。

岡田暁生+フィリップ・ストレンジ / 新装版 すごいジャズには理由(ワケ)がある
https://diskunion.net/detail/1009297047

岡田暁生+フィリップ・ストレンジ / ジャズは自由にする すごいジャズには“やっぱり”理由がある / 新宿ジャズ館 木村
https://diskunion.net/detail/1009297046
2014年刊行「すごいジャズには理由(ワケ)がある」の新装版と、その続編が発売されました。
ジャズ批評はどうしても個々人の感性頼りの印象論になりがちですが、具体的な音の動きを譜例を交えて語り合って、ジャズ史の位置付け等を解説しているのが素晴らしいです。
前著が刊行させれた時に購入の決め手になったのは、オーネット・コールマンについて音楽理論面から説明がされていたからでした。前著では他にもアート・テイタム、チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンスについて対談されています。
今作ではより派生的にジャズを語る為に10のアルバムを取り上げています。マイルス、コルトレーン、トリスターノ、オーネットらの影響の波及と展開に話が進みます。前作ではアドリブ採譜が多かったのですが、今作では対談中に採譜されたコード譜が各所に差し込まれています。
個人的に興味深く読んだのは、キース・ジャレットのスタンダーズ、パット・メセニー、チャーリー・ヘイデンについての解説でした。
ただ前著今作共に、著者が目指すジャズ像に全面的に賛同出来ないこともあるでしょうし、作中で語られるプレイヤーのエピソードに部分的に違和感を感じることもあるかもしれません。一例をあげるならパット・メセニーについてアカデミックにジャズを学んだ代表格のように語られる箇所があるのですが、メセニーの音楽語法の多くは10代の頃カンザスのジャムセッションで猛者達に揉まれて育まれており、ごく短期間マイアミ大学に在籍しているものの、それよりもゲイリー・バートンのグループに参加し彼と対話することで、メセニーが獲得していた音楽語法が音楽理論的にどういうものなのか理解が深まった、という習熟経緯だったはずです。メセニーみずから語っている動画もあります。
本の内容にそう言った部分的違和感がありつつも、音楽理解の裏付けのある音楽批評はやはり意義があり貴重です。

JOHN COLTRANE / BLUE TRAIN / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1009292417
ジョン・コルトレーンを聞いたのは多分、高校生の頃だと思う。友人のミュージシャン志望の方から教わったのがアトランティックからリリースしたアルバム「ジャイアント・ステップ」だった。音楽理論が完璧だった友人がレコードをかけながら、「この部分でピアノが難しくて弾けなくなりそうになったのでそれを察したコルトレーンが早めにソロに入っていくんだ」と言うような説明をしていましたが、よくわからないながらも感心/感動したものです。ジャズ喫茶で様々なレコードを聞いていくうちに自分に最もフィットするサウンドを出すプレイヤーの一人がコルトレーンだった。数多いアルバムの中でも死ぬまで聞いても聞き飽きることのない、全曲が名曲、名演と言いたいのが1958年にブルーノートからリリースしたアルバム「ブルー・トレーン」。

レイス・デムス・ウィルトゲン/ フリーダム・トレイル / 商品部 川村
https://diskunion.net/detail/1009282470
ミシェル・レイス(p)、マーク・デムス(b)、ポール・ウィルトゲン(dr)によるトリオ、『レイス・デムス・ウィルトゲン』の最新作はルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団との共演で描く壮大なシンフォニック・ジャズ大作。オーケストラとの共演はジャズにおいては色物、邪道だ、と眉をひそめるジャズファンもいらっしゃるかもしれませんが、私は大好きです。特にキース・ジャレットの『Arbour Zena』は大傑作だと思います愛聴盤です。この作品もそれに迫るもので、さすがはヴィンス・メンドーサ、オーケストラのアレンジが素晴らしいです。あくまでトリオを主役としながら、元々シンプルで素朴なメロディーを、嫌味のない豪華なサウンドに仕立てております。ゲストのジョシュア・レッドマンのソロも、ここ数年の中でベスト!と言えるような熱がこもったプレイで、トリオだけでなく、オーケストラのテンションとグルーヴを大いに高めてくれています。それにしてもこれだけの大編成に大物ゲスト、大変余計なお世話ですが、時間もお金もたくさんかかったことでしょうから、いっぱい売れてほしいな、と心から願う作品。

HERE BECAUSE OF HOPE (TRANSPARENT OCEAN BLUE) / EZRA COLLECTIVE / 商品部 池田
https://diskunion.net/detail/1009248442
オレ達のエズラが帰ってきましたよ!!!ということで、エズラが新譜を出したらもう年間ベストは決まりとしている私としては待ちに待ったリリース、そして期待を裏切らない完成度に今回も感謝している次第です。これまでも客演にヴォーカリストを迎えることはありましたが、グライムやポエトリーリーディングのアーティストを全面にフィーチャーするあたり、今作はルーツを大事にする彼らのメッセージがこれまで以上に込められている1枚な気がします。そして、その希望に満ちた音楽は引き続き我々を踊らせてくれますのでご安心を。10月の来日の予習にもぜひ!
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