《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.22

  • 日本のロック
  • 惑星円盤探査録

2021.11.11

  • LINE

  • メール



「惑星円盤探査録 Vol.22」

Suchmos
『THE BAY』




彼らと初めて対バンしたのはどのイベントだっただろうか。
だいぶ曖昧になっている私の記憶を信じるとするならば渋谷のライブハウスでのイベントで、当時偶発的に多発した70~80年台のソウルやファンクをベースにした楽曲を発表するアーティストたちを“シティポップ”と総称し至るところでイベントが行われていたのだが彼らとの出会いもそんなイベントのひとつであった。
私が活動していた音楽ジャンルによるものかもしれないが、一昔前に世間が抱いていたバンドマンへのイメージとはかけ離れた人が今は多く、20歳前後ひと回り上の先輩バンドマンたちに遊んでもらっていた私は「世代の差だなぁ」なんてババくさいことを思っていたりした。“バカ騒ぎ”が苦手な私にとってはそっちの方が居心地が良いのであるが。
そういうなか彼らの第一印象は「久々に見たなぁガラの悪そうなバンド」だった。
共同楽屋で出番前の彼らがひとつのテーブルを囲み雑談をしていた姿が私の初見Suchmosで、この景色は妙に鮮明に頭に残っている。明らさまな戦闘感情を対バン相手へ投げかける彼らの雰囲気はハリネズミの棘逆立て状態を彷彿とさせた。
「どんな音楽やるんだこの人たち」と気になり袖から眺めてそりゃもうビックリした。
むちゃくちゃかっこいい。むちゃくちゃ上手い。
ソウルとジャズのエッセンスが絶妙、オーガニックなのにとても今っぽい。
全体的にダークでアンニュイなサウンドが個人的にも好みでどんどんライブに引き込まれていった。
見終わって袖から楽屋へ戻りながら「まずいなぁ」と心のなかで呟いた。
こんなバンドがいるなんて、マジかよって気分だった。
そんな風に「おっかなくて超カッコいいバンド」というイメージを抱き初対バン日を締めくくった。
その後何度か対バンをするうちに楽屋や打ち上げで色々話すようになって彼らが“良い奴ら”ということがよく分かったしメンバー間の絆も深くあぁだからあの演奏になるんだなと感じた。1人1人にスキルがあるのはもちろん、互いへの絶対的信頼が無いとああいうグルーヴは生まれないように思う。“信頼して仕事を任せる”というのは職種問わず大切で難しいことだなぁと最近改めて痛感しているのだが、演奏という瞬間的共同作業においてそこはかなり影響を及ぼしてしまう。「こいつに命預けられるか」を露呈し合う作業。一瞬の迷いが致命的ななか彼らはいつも優雅にアンサンブルの波を泳いでいた。
全くつくづく憎たらしいバンド。

「すげぇかっこいいの出来たから聴いてよ」と、とある打ち上げ終わりにもらったのが「LOVE&VICE」のサンプル盤で「この曲がさぁ」と解説する誇らしく嬉しそうな喋りっぷりが当時の自分はとても羨ましかった。

先日のニュースでHSUさんの訃報を知り、色々と当時のことを思い出した。
HSUさんとは色々喋ったけれどここで彼について何かを語れるような立場ではとてもないし、彼にもメンバーにも失礼な行為に思える。
とにかく確かなことはいつ見てもステージの上の彼は最高で最強であったこと。
音源を聴けばすぐにその姿を目に浮かべられる。これまでもこれからもそのグルーヴのうねりは鳴り続けとどまることを知らない。






≪前回までの"惑星円盤探査録"はこちら≫
一覧ページ




著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)