《連載コラム》 幸枝の『惑星円盤探査録』Vol.29

  • 日本のロック
  • 惑星円盤探査録

2022.06.09

  • x
  • facebook
  • LINE

  • メール




「惑星円盤探査録 Vol.29」

はっぴいえんど
『風をあつめて』




海の近くに引っ越して気付けば1年ちょっと。
馴染めないなぁと思っていた街の空気も、今やすっかり落ち着く心地良いものとなった。
好きなカフェ、好きなランニングコース、野菜を買うならここ、豆乳を安く売ってるのはここ、友だちへのお土産にはあのお店のお菓子....。
あんなに休みが苦手な性分だったのに、今はゆっくり出来ない日々が続くと「あぁゆっくりしたい...コーヒー飲みながら海辺を散歩したい...」と"週1のんびり願望"がむくむく湧き上がるようになった。

晴れた日、朝の海の煌めきはそれはもう格別なわけで、そんな時に良く聴いてるのはこの「風をあつめて」。
観光地の顔も持つこの場所だけれど、オフシーズンの平日はのんびり穏やか。いや、むしろ廃れた寂しささえ感じる。
この曲がその雰囲気にあまりに馴染むものだから、「松本さん、この場所を歩きながら歌詞書いたのかなぁ」と錯覚してしまいそうになる。

実際には1964年の東京オリンピック以後の変わりゆく東京の街、その失われゆく景色を描いた一曲ということらしい。
場所は違うけれども、この歌のなかにパッケージされている街の喪失感が、観光客がいない時の街の余白と日差しのなかで顕になるサビれによく似合うのだと思う。

売れなくてもいい、残る音楽を作ろう、というのがはっぴぃえんどのスローガンだったそうだ。その意図の通り、はっぴぃえんどは日本のみならず世界各地で現在も(何なら当時以上に)愛され、各メンバーそれぞれがレジェンドとして我々後輩ミュージシャンの憧れの存在となっている。

今の音楽は消費が早い、と嘆く声も多いけど、良い音楽は時を越えても誰かが拾い上げ、また沢山の人の耳に届く。
はっぴぃえんどを聴いていると深呼吸が深くなる。

良い音楽を作ろう。
私の出来うる限りの、良い音楽を作ろう。





≪前回までの"惑星円盤探査録"はこちら≫
一覧ページ




著者プロフィール

楓 幸枝
バンド活動を経て、現在はドラマー、作詞家、文筆業、MCなど活動の幅を広げている。
ミステリーハンターとしてフィンランドを取材するのが密かな夢。

Instagram
楓 幸枝(@yukie_kaede)

1st Single「ナンバ・ムッタ」配信release
friendship.lnk.to/NanbaMutta