2026.03.31 ジャズ 特集・お知らせ

ディスクユニオン ジャズスタッフ 3月度レコメンド・ディスク



ディスクユニオンのジャズ専門館スタッフが新譜の中で一押ししたいオススメ作品をご紹介!
今月リリースされた最新新譜はもちろん、改めて聴いたら良かった準新譜もコッソリと掲載。
最新新譜カタログ的にも、魅力ある作品の発掘的意味合いでも是非ご一読ください!




Triosence / Stories Of Life / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009089151


メロディを最優先に捉えた特徴的なサウンドは「songjazz」と評され、ヨーロッパのみならず日本でも幅広い層に支持されているドイツのピアノトリオ、トリオセンス。10枚目のアルバムとなる今作でも、ピアノの粒立ちがくっきりとした美しい楽曲が収録されています。ピアニストのシュラーの叔父さん(世間的に知名度は低かったものの世界中を旅しながら絵を描いていた憧れの人だったそうです)の死と人生を題材にした作品ということもあって、魅惑的なメロディの中にも影の存在がしっかりとありその部分がヨーロッパの美メロ好きの心を鷲掴みにしているのだろうと思いました。透明感のあるピアノ、どっしりと構えたベース、キレのいいドラムと3者のバランスも非常にいいです。




Luca Mannutza / Circles / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009150644


2000年代に人気を博したHigh Five Quintetの中心メンバーとしても活躍したピアニスト、ルーカ・マンヌッツァの新作です。派手さや軽妙さより、深みやニュアンスという言葉が似合うゆったりとしたクインテット作品で、マンヌッツァのピアノに、パオロ・レッキアのしなやかなアルト・サックス、ジョーダン・コルダのきらめくヴィブラフォン(ヴィブラフォン界の注目株!)、ダニエレ・ソレンティーノの旋律的なベース、そして常に圧倒的な存在感を放つドラマー、サーシャ・マシーンというメンバーで、音やリズムを複雑に厳密にそして優雅に構築しています。ボビー・ハッチャーソンの『Herzog』、バド・レディングの『The End of the Affair』のカバーを含めた8曲を収録。名作の素質をすべて備えた未来のクラシックとなるアルバムなのではないでしょうか。




Bill Ware / Martian Sunset / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009121430


クールな音色でホットな演奏、これがヴィブラフォンの醍醐味だと常々思っています。なぜかサン・ラを連想させたジャケットはどうなんだろうと思いましたが、アメリカのヴァイブ奏者、 ビル・ウェアの最新作も期待を裏切らない内容でした。レズ・アバシ(g)のゴキゲンなプレイが聴けるM1、ブルースチューンとして始まったのにあっという間に幻想的なナンバーへと変化するM2、タイトル名でもあるM5ではジョイ・アンダーソンのベースが生物のようにうごめきながら火星の岩だらけの地形を表現しています。個人的にはメンバー間の緊迫感のある掛け合いがたまらなくエネルギッシュでハードバップ的なM7(ビル・ウェア自身が吹いている鍵盤ハーモニカが軽やかなフュージョン感を出してこれも良い)と軽やかな春の陽気を感じさせるM10が良かったです。ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音されたということもあって音質も文句なしですよ。




John Pizzarelli / Dear Mr. Bennett / JazzTOKYO 中村

https://diskunion.net/detail/1009170253


歌うギタリスト、ジョン・ピザレリによるトニー・ベネット・トリビュート作品のご紹介。大ホールというより地元の小さいけれど馴染みのライヴハウスで歌っているかのようなリラックスした会話調のスタイルで12曲を披露しています。(それに意外でしたがトニー・ベネットのトリビュート作品って少ないんですよね)。かつて敬愛するフランク・シナトラから「お金と時間を費やしてでも聴きたい歌手」と評されたトニー・ベネット。ピザレリにとっては物理的にも精神的にも簡単に近づくことができなかったシナトラに対して、父親を通じて幼い頃からの知り合いでNYを歩き回っていたらひょっこり出会えたベネットは非常に距離の近い存在だったそうです。だからでしょうか、本作は単なるトリビュートではなく心を込めて書かれた直筆の手紙のように感じました。ベネットの70年にわたるキャリアのレパートリーを取り入れ親密なトリオ形式で再構成したチャーミングな作品です。




Veslemoy Narvesen / Letting All Light Through / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009172503


ひんやりした湿り気のある洞窟に迷い込む。小さい頃プレイしていたRPGのことを思い出した。ポケモンやファイナルファンタジー・シリーズは夢中になって遊んでいたけれど、必ずと言っていいほど暗い迷路のような洞窟が現れて、その度にその複雑さと不気味さにやめたくなっていた。ノルウェーの女性ジャズドラマー、ヴェスレムイ・ナルヴェセンによる本作は、ミュートピアノのような音色のポスト・クラシカル的な静謐さを纏いつつも、どこか陰鬱な湿度の高さも含んでいる気がする。ピアノ、ドラム、ベースのジャズトリオに、弦楽器やフルート、ハープなどが加わる密やかな室内楽、さらにはオーケストラを彷彿とさせる壮大なアレンジも。また、ドラマーのリーダー作とは思えないほどにヴォーカルが軸となって物語を描いているのが不思議だ。打ち込みやシンセがスパイス的な役割を果たしていて、懐かしいゲームを思い出すのはそのせいだろうか。真っ暗な洞窟はきれいな明るい場所へと続いていた。この作品もそんな“体験”となって何かを残していく。




山田あずさ/堀京太郎/上運天淳市 / ICI / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009164095


“マリンバ+トランペット+バスクラリネット”という初めて耳にする編成。その独特な編成から尖った音像を想像していたが、流れてきたのは緊張感と大らかさが隣り合うチェンバージャズだった。バスクラがどっしりと支える低音は頼りがいがあるあたたかな音。持ち替えられるサックスを含めたホーンはオーガニックに透き通る。物語のはじまりを予感させるオープニングは映画音楽のようで、ミニマルやアンビエントミュージックの要素も感じつつ、なんだか古い唄を語りかけられているような土着的な気配を立ちのぼらせる。さらに、マリンバやヴィブラフォンは薄い布を纏ったように全体を包み込み、お互いを引き立て合うバランスは思いがけず、このトリオ、実はすごく相性がいいのだ。植物はゆっくり時間をかけて芽を出す準備をしているころで、もうすぐ何かが起こる。そんな“予感”に満ちた音楽だった。




Patricia Brennan / Of The Near And Far / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009101329


メアリー・ハルヴォーソンのセクステット“アマリリス”のメンバーでもあり、現代NYジャズ/前衛シーンでは見落とせないメキシコ出身のヴィブラフォン/マリンバ奏者、パトリシア・ブレナン。ハーモニーを広げるだけでなく、パーカッシヴにも躍動するのが彼女の持ち味だと思う。そのアプローチはコンポジションにも表れ、打楽器的にストリングスを使った弾けるようなM1が鮮烈だ。ギターにはマイルス・オカザキが参加し、ブレナンとの交差やユニゾンも聴きどころ。さらに、エフェクトやエレクトロニクスを取り入れ、リバースさせたドラムプレイを断片的に張り付けるなど、美しいアンサンブルにいくつもの仕掛けが散りばめられている。それでも決して音楽が難解な方向へ閉じることなく、作曲と即興、室内楽とジャズの境界を自然に行き来する、まさに近年の流れの中にある重要なピースだ。日々シーンが磨かれ、更新されてゆく場面がここに凝縮されている。




ヘニング・シュミート / Music For 3 / JazzTOKYO 松本

https://diskunion.net/detail/1009165208


今日では音楽を公式に世に出す際、本の表紙のようなそれに“ジャケット”という名前がつき、アートワークと音楽はいつの間にかセットとなった。本作では、そのセットの一員として“香り”が付いている。というのも、ベルリンのピアニスト、ヘニング・シュミートが日本のデザイナーのミズシマナツコ、調香師の沙里とのプロジェクトのために制作した音楽をパッケージングしたものだそう。湖畔の森で録音された環境音に、ピアノと控えめなエレクトロニクスを重ねたスケッチのような音楽。それを聴いてふわりと立ちのぼる景色を教えてくれているかの如く、ぴったりな香りとその視点に感動すら覚えた。決して音楽だけが前に出ることなく、表の三角窓に合わせて景色が変わる中の写真、そして調合された香り、すべてがひとつとなって、私たちに新鮮な“気配”を届けてくれる。




大西順子 / American Classics / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009125682


かつて耳にすることが苦行になりジャズから関心が逸れてしまった期間も、大西順子は動向の気になるジャズ音楽家のひとりであった。偏屈で頑固な聴者たちによるジャズは4ビートだアコースティックだ云々の些末な論争も下火になった頃に颯爽と登場した大西順子は、当然ながら演奏者の視点でエリントン、モンク、オーネットなどジャズの本質周辺を掘り下げて現代的な味付けで提示した。テーマのコード進行を基にアドリブソロを繰り広げることこそジャズというハードバップに偏った価値観が蔓延した中で、そのハードボイルドな演奏には不思議で新鮮な響きがあった。スイッチが入るとのめり込むように加速感を伴って疾走する彼女のピアノには硬質で鋭利で覚醒した快楽がある。何度かの活動休止後の菊地成孔プロデュースによるアルバム"Tea Times"にはジャズが退屈になってしまった脱落者でもリピートしてしまう中毒性があり、続くDIWのレーベルSomethin'Coolからは歓喜と余裕が感じられる冴えわたった作品が連発される。今回は初のソロピアノ集。知られたスタンダードの他にかつては難解だったというセシル・テイラーやジェリ・アレンの楽曲にも取組んでいる。若い頃から夢中で探索してきたジャズという広大な森に潜む手に負えない魔物の正体が朧気ながら見えてきたということだろうか。大西順子はエリントンやモンクなどのクセの強い音楽を自分流に噛み砕いて再構築する。ライナーやインタビューでは言葉で経緯を語ってくれるから腑に落ちる。だから大西順子を聴くとジャズの謎が解ける...気がする。大西順子の絶頂期は更新されていく。




Shabaka (Shabaka Hutchings) / Of The Earth / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009173963


シャバカが時空ジャズ警察に指名手配された。スティーヴ・グロスマンが時代を逆行してビバップまで辿り着いてもお咎めなしだった当局は概して寛容だが、本件ではシャバカ容疑者が時空航行法に抵触する時間遡行により古代アフリカの原始呪術儀式における音楽的音声の聴取ならびに電磁記録媒体への採取を行い、その成果を自身の音楽作品に反映させたものと見立てているのである。しかしこれは全くの見当ちがいで、捜査機関のブラックカルチャーに対する認識不足を露呈することとなった。未来志向と語られるシャバカのサウンドには伝承音楽に通ずる土着性が感じられ、むしろ原始回帰的な逆の印象を受ける。その根幹にはアフロフューチャリズムなる芸術観があり、黒人の視点から科学技術と想像力で未来を創造するという概念のようだが、詳しくは図書館で。ひとりで創り上げたというこの最新作。未来と過去、都市と密林、資本主義と原始社会が交錯する。そして気づくと飲んだこともないサル酒を求めて秘境を彷徨っている。




V.A. オムニバス / Naive Melodies: Tribute To The Music Of Talking Heads / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009143641


日刊ゲンダイジャズ欧州特派員の惹瑞進歩(ジャズスミアユミ)がUKよりお届けします。本日推しの新譜はBBEレーベル発、NYニューウェイヴの最高峰トーキング・ヘッズ再解釈の企画盤。レアグルーヴや日本ジャズの再発見に積極的なBBEですが、2021年のデヴィッド・ボウイ・トリビュート作"Modern Love"は好評を博し、これはその続編といった趣き。今回も弦楽多重奏で始まりジャンル分けの呪縛から解放された自由で多彩なトラックが満載で飽きません。"Modern Love"ではジェフ・パーカーが絶妙なリフを聴かせてくれましたが、今回USジャズ畑からはシオ・クロカーが参加。'80年の名盤"Remain In Light"1曲目"Born Under Punches"をアフロスピリチュアルに再解釈しています。続くドミニク・ジョンソンによるハモンドオルガン独奏が感動的。曲の並びがサイコーです! じつはデヴィッド・バーンの演劇めいた歌い方が苦手でトーキング・ヘッズよりもトム・トム・クラブ派だった私も彼らの音楽を見直しました!




Grupo Um / Nineteen Seventy Seven / JazzTOKYO 赤尾

https://diskunion.net/detail/1009155283


革命マイルス派関東支部推進委員、蛇図前進(ジャズマエススム)だ。ブラジルのプログレッシブホッキバンド、グルーポ・ウンの未発表音源集第2弾が登場。ホッキとは貝ではなくRockのブラジル読みだ。つい知性が滲み出てしまう。さて、1曲目からソプラノサックスを前線に立てた威勢のいいサンバグルーヴが飛び出し、1977年当時なぜお蔵入りになったのか理解に苦しむ秀逸な出来映えの本作。ブラジル軍事政権下で問題視されたのはおそらく前衛的で過激な5曲目。政治権力というものは秩序維持の名目で個人を統制したがる困った存在だが、結局は税収確保のためなのだ。金にならず課税できなそうなゲージツブンカブンガクオンガクは煙たがられ、秩序を乱しそうなら弾圧される。5曲目はサイケな電子音飛び交うフリーダムな楽器乱闘で、とどめに爆発音で幕を閉じる。テロの暗示と受け取られても不思議はなく、レコード会社は当局に忖度してリリースを却下した。そんなところだろう。続くラストのジャズワルツは美し過ぎて美酒が欲しくなる。最高に美味い酒となると...タダ酒しかない!




壷阪健登 / LINES / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009157245


壷阪健登。1994年横浜生まれ。慶応義塾大学を卒業後に渡米、ダニーロ・ペレスが監督を務める音楽家育成コース“Berklee Global Jazz Institute”に選抜され、2019年にはバークリー音楽院を首席で卒業。石川紅奈とのユニット「soraya」や松井秀太郎のアルバムへの参加などで最近めきめきと頭角を現している俊英だ。本作は一昨年ソロピアノ作を出した彼の2ndアルバムで、NY録音のピアノトリオ。一曲目を聴けば、その輝かしい経歴にたがわぬ壷阪のタレントとスキルを、誰もが認めざるを得ないはずだ。ふわりと軽いタッチ。しかしそれは軽薄を意味しない。バップ・マナーを心得た絶妙のレイド・バック。若手にありがちな雰囲気で誤魔化すとか音数でごり押すとか、そういうことは一切なく、モンクにバドにバリー・ハリスと連なるジャズピアノ本家本元のテクニックを聴くことができる。アドリブもダレることなく、頭でっかちな窮屈さもない。良識あるフレーズがすらすらと自然に出てくる。うーむ、おぬしやるなと公安ジャズ警察も手出しできぬだろう。一方で数曲挟まるソロ曲では、一転してコンテンポラリーな音使いにより抒情的な風景を描く。壷阪が今回NYを訪れたのは、ロックダウンのために5年ぶりのことだという。ベーシストのチャーリー・リンカーンはバークリーでの学友。来るべきこの日のためにさまざまなアイデアを練り続け、技術を磨き続けてきた結果が活きているものと聴いた。ジャズの未来はやはり明るい。ジャケットのイラストは光文社古典新訳文庫でもお馴染みの望月通陽氏によるもの。聴きながら、金原瑞人訳の『武器よさらば』なんかを読みましょう。




ゲーム・ミュージック / MIDNIGHT JAZZ: FINAL FANTASY IX / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009147630


『FINAL FANTASY IX』は2000年にスクウェアから発売された人気RPGシリーズの第9作。「原点回帰」をテーマにVI以降のSF路線から離れ、笑いあり涙ありの王道ファンタジー路線で制作された。大ヒットしたVII・VIIIに比べ売上はそれほどだったが、魅力的なキャラクターにロマンチックなシナリオ、それにPS1最後期の美麗なグラフィックから成る独特の世界観には、いまでも根強いファンが存在している。そんな『FFIX』のゲーム音楽をジャズ・アレンジして1枚のアルバムに仕立てあげたのが本作だ。原曲はシリーズ第1作から音楽をてがける植松伸夫によるもの。そもそも植松氏のルーツのひとつはプログレだからジャズとの相性はかなり良く、終盤の戦闘BGMであるM1はハードなジャズロックに仕上がっている。さらに氏の音楽のもう一つの特徴に、洋画を彷彿とさせる美麗なメロディーがある。麗しき女剣士にまつわるM6は、弦楽四重奏と声からなる端正なアレンジによって美しさと儚さが際立っている。一方で現代シーン重要ミュージシャンが多数参加していることも見逃せない。山口由馬を筆頭に、馬場智章、BIGYUKI、マーティ・ホロベックにグレッチェン・パーラト…なんとゴーカですの!中でも私のお気に入りは北村蕗によるラスボス戦M11。ハウスビートの上を多彩な音色が行き来するデジタルなカッコよさ。でもってそれに続くのがメニュー画面のM12って…わかってますわねアナタたち!FFファン、現代ジャズファン、色々な人に刺さるハズ。




Joel Ross / Gospel Music / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009159360


『至上の愛』から強い影響を受けた『Parable of the Poet』(2022年)、ブルースの根本義を問い直した『nublues』(2024年)に続くBlue Note第5作目となる本作で、ブラック・ミュージックのルーツに深い関わりをもつゴスペルを取り上げたのはある意味で当然と言える。筆者にとってゴスペルはやや遠いジャンルだが、ハンプトン・ホーズ『The Sermon』やハンク・ジョーンズ&チャーリー・ヘイデン『Steal Away』など、ゴスペルやスピリチュアルを扱ったジャズ・アルバムには好きなものが多い。それらにはブルースとは程遠い、ハッピーで安らかな幸福感が充満している。「2020年代のジャズの最重要人物」(柳樂光隆)たるヴィブラフォン奏者ジョエル・ロスによる本作もそれらに連なるアルバムと言えるが、そこはジョエル・ロスのこと、トラッドをそのまま奏するといった方法はとらず、オリジナル曲で固められている。ヴァイブにアルトとテナーを加えたセクステットが変拍子の複雑なメロディーをクールにインテリジェンスにプレイしていき、私たちはジョエル・ロスを聴く醍醐味を存分に味わう。しかしそこに聞こえるのはブルースの哀訴・慟哭ではなく慎み深い喜びとおおらかな開放感であり、この点が前作までとは一線を画する。アルトが過去作のキーマンだったイマニュエル・ウィルキンスではなく、より明るくピースフルなジョシュ・ジョンソンというのも効いている。ライナーには各曲へ短文が付され、全体が聖書の物語をなぞっているのだとわかるが、あまりたじろぐ必要はなかろう。ゴスペルやブルース、そしてジャズとは文字によって説かれた宗教的感興を聴取者へ感覚的なものとしてじかに伝えてきたメディアだからだ。一方ボーカルの入るM11~M13は打って変わってシンプルな曲調。特にM12“Calvary (ゴルゴダの丘を意味する)”にはイエスが磔刑にされる最も痛ましい場面が対応し、音楽はゴスペルそのものとなって悲壮な調子を帯びるが、その後の曲で悲しみは癒されていく。彼らはこの物語を幾度となくなぞり、長い時間をかけてその連帯を強めてきたのだろう。そのことに対する共感と感動こそブラック・ミュージックの核心なのだと筆者は強く思う。




圭菜代 / Fairytale / JazzTOKYO 東舘

https://diskunion.net/detail/1009161032


香川県出身、都内にて音楽活動を行うシンガーソングライター・圭菜代 。公式サイトによれば昨年3曲のシングルをデジタルリリースしていて、本作は待望の1stフルアルバムということになる。トム・ヨークやビョーク、ビリー・アイリッシュから影響されたというその歌声は、たゆたうように穏やかで時に力強く、自らの居場所を密やかながらもはっきりと私たちに伝えているかのよう。伴奏はピアノとベース、時にチェロが入り、和音とフレーズをミニマリスティックに積んでいく。曲作りはオルタナ、ポスト・クラシカル、コンテンポラリー・ジャズを思わせるが、機械的な質感は徹底して排除され、しとやかに佇む音があの頃の消えかけていた大切な記憶の核にそっと寄り添う。古い伝承歌を聴いているような不思議な体験。ウーリッツァーが温かに響くM8“mermaid's lullaby”では後ろでオープンリールの回る音が聴こえ、細野晴臣の“ろっかばいまいべいびい”を思い出す。つましくも満ち足りた時間は幸福の意味を優しく諭している。




山本剛/峰純子 / ライヴ・アット・ベイシー 1976 / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009146080


これは驚きの発掘音源。日本女性ヴォーカルの最高峰、峰純子の一関 ジャズ喫茶ベイシーでのライブ盤です。1976年5月録音、バックは山本剛のトリオ。峰さんはデビュー作『チャイルド・イズ・ボーン』をリリースした直後。山本さんはTBM盤『サマータイム』を録音した時期になります。ピアノトリオの演奏からスタートして、会場があたたまったあたりで、ブルース曲とともに峰さんが登場。低めの落ち着いた歌声「どこにも声を当てないように発音する」というクルーナー・・その声がベイシーに集まった聴衆を包み込むのが感じられます。例えば「ビリー・ホリディが亡くなる少し前に吹き込んだもの」と語ってから歌う「I`m A Fool To Want You」の感情表現やたたずまいはどうでしょう。そして「帰らざる河」のようなポップス曲のジャズ扱いなども峰さんが得意としていたものですね。本盤の元となる音源は、彼女の夫でプロデューサー、プロモーターであった石塚孝夫氏の遺品の中にあったものだそう。前述のクルーナーのこと、日本人ヴォーカリストの課題である英語発音を克服するためにハワイに移り住んだことなどを氏から聞いたのを思い出します。ちなみに解説は石塚さんとも交流のあった高田敬三氏。本作正直、音質的には完璧というわけではないのですが、それでも店頭演奏で手に取られる方の多いこと・・音、時間を超えて訴える峰さんの歌をぜひお聴きください。




Peter Beets / Blues Goes to Spain / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009172641


オランダが誇るスインガー、ピーター・ビーツ。私的には‘00年代のピアノトリオ盤の印象が強いのですが、こうしたホーンが加わった演奏もいいものです。本作はスペインの作曲家、アルベニス、ファリャ、グラナドスの曲を取り上げていて、なんというか、まさに『Blues Goes to Spain』な仕上がりに・・程よいエスニック感、異国情緒が薫るビーツ印のストレートなジャズです。演奏の中心にあるのはもちろん小気味よいピアノ、長年行動を共にする、ルーベン・ロジャース(b)とウィリー・ジョーンズIII(ds)が脇を固め、3人のホーン(tp,tb,ts)が彩りを添えます。ファンファーレのようなメロディが印象的な(1)「Serenata Andaluza」から始まって、エスニックなリズムを交えながら、ピアノが立ち上がってくる(3)「Danza Ritual del Fuego」←この曲はギデオン・タゼラー(ts)のソロにも注目を。そして私、(4)「Mallorca」の相変わらず豪快なピアノを聴いて、やっぱりいいな~とにんまりしました。あ、あとジャケは「WAY OUT WEST」でお馴染みの藤岡宇央さんです。




Darren Litzie / On My Own Time / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009151303


マイナーレーベル発ピアノトリオ好盤の雰囲気が漂う地味ジャケ・・ピアニストはアメリカのダレン・リッチー。15年以上のキャリアがあり、本作が2作目になるそう。そして、聴いてみるとやはり紹介したくなる一枚です。サンバだったりブルースだったり、ストレートな4ビートだったりするのですが、全編歌ごころに満ちていて、ジャズ好きのツボを刺激される演奏。オープニング曲の明るいグルーヴ感もいいし、淡白で綺麗なピアノで始まるも想像外にメロディが溢れる「Moonlight in Vermont」、小気味よいワルツの「Just After Three」、テーマの不協和音もキャッチーに響く「Maybe We'll Try」など、何回か聴くと曲並びもいいなぁと。ラストのゾンビーズ「Time of the Season」までさらっと到達しました。弾き過ぎないピアノにタイトなベースとドラムの組み合わせもピッタリ。マイナートリオ盤がお好きな方はぜひチェックを。




Hege Saugestad / Randy’s Home / JazzTOKYO 神尾

https://diskunion.net/detail/1009105136


初回の入荷分があっさり完売、そして某誌オーディオディスク大賞用に再オーダー、入荷したら、またも即完売・・というノルウェーのシンガーです。ナチュラルな声がいいですね。基本ギターとベースというシンプルなバック、スタンダードを中心にした演奏で3人のインティメイトな音世界に浸ります。私、真っ先に「Misty」と「Moon River」の飾らないヘーゲの歌声に好感を持ちました。そして繰り返し聴いて「All the Things You Are」「The Masquerade Is Over」「I’ve Got a Crush on You」あたりのしっとりした感じ、ギターとの絡みも聴きものであると認識。気の合うミュージシャンと素の感じをレコーディングした魅力あり。小さなジャズクラブとかで、ちょっと飲みながら耳を傾けたいナイスシンガーです(下戸だけど)。




LINDSEY WEBSTER / Music In Me / 横浜関内ジャズ館 小林

https://diskunion.net/detail/1009164070


リンジー・ウェブスターの2026年最新作。アーバンメロウな控えめなサウンドで、アルバムを通して全曲安心して聞くことが出来る。少しずつ暖かくなってきたこの季節に、軽く冷やしたライトボディの赤ワインを飲みながら聞きたい。量はグラス1杯で充分、自分の中に流れる音楽が酔いを心地よく回してくれるだろうから。




LOUIS ARMSTRONG / Hot Five & Hot Seven At 100 / 新宿ジャズ館 四浦
https://diskunion.net/detail/1009149586


ハットハット・レコーズは近年、最先端の音響修復技術を含めた、リマスタリング作業を施すことで、ジャズの歴史的作品群を新たな視点で聴くことを目的とする、Revisited Seriesをスタートさせていた。スイスの名門、HARDSTUDIOSのMichael Brändliをマスタリング・エンジニアに迎え、ジャズの名盤に新たな息吹を与えるというものだった。それは、アルバート・アイラーの貴重なライブ音源や、サン・ラの「Nothing Is…」などのESPレーベルの作品群、オーネット・コールマンをはじめとする、このレーベルらしい演者たちの、前衛ジャズの名盤のみならず、名門ブルーノート・レーベルの音源や、ビル・エバンスのスコット・ラファロ擁するトリオの「At Birdland 1960」にまで及ぶという、注目を集めるに足るラインナップを備えていった。本作はその流れを汲むもので、元ハットハット・レコーズのオーナー、Werner X. Uehlingerが新たにスタートさせたレーベルAlAyからのリリースとなっている。今までは、あのルイ・アームストロングの最初期の1920年代の録音物ということで、貴重な音源として、あの独特なノスタルジックな音質を纏ったサウンド込みで、理解していたのだが、今回の盤の新たなマスタリングが齎す、今までに無い「迫力」が、ルイ本人のみならず、今まで伴奏といった感覚で聴いていたバンド・サウンドも、各プレーヤーへのフォーカスを伴うようになり、まさに新たな感覚で解釈することが出来、感動と興奮を覚えた。




IMMANUEL WILKINS  / Live at the Village Vanguard Vol.1(2LP) / 吉祥寺ジャズ館 山田
https://diskunion.net/detail/1009189171


個人的な話になってしまうが、前作"BLUES BLOOD"がリリース当時そこまでハマりきらず、最近になって改めて聴いていた。器楽と声楽/演奏の身体性とコンセプトのバランスが絶妙で「コンテンポラリー・ジャズの最初に聴く一枚として最適解かもな」と思っていた矢先に今作がリリースされたのだが、4曲のみ、全曲10分オーバーという、潔く、かつ振り切った内容に思わず笑ってしまった。期待通り、イマニュエルの演奏能力の高さ、ポスト・プロダクションがないがゆえに作曲の妙も存分に楽しめる。高速フレーズはもちろん、サブトーンをつぶしたようなギューッという音(あれどうやって出してるんでしょうね)など、奏法の幅も多彩。今作に関しては片面1曲ずつをじっくり聴ける2LP仕様で楽しみたい。
ちなみにこれ、"Vol.1"なのである。2や3があると思うと、みんなで愛聴して盛り上がって、どんどん続きを出してもらう他ないでしょう。




ANDREAS TSCHOPP / What If We Align Our Breath(LP) / 新宿ジャズ館 木村
https://diskunion.net/detail/1009192946


民族系吹奏楽器の新たな世界を見るようで非常に面白い。
よく分からない角笛やアルペンフルートや自作ウクレレ等が使われてる様だ。
素朴な音だけど心地よいノイズが乗って、民族音楽的に魅力的な音の数々に溢れている。
それらの音ではされてこなかった音の構築が生む新たな感覚が非常に新鮮だ。それだけで新しい世界観を生み出せるのに、一部分で現代的な音をそのままはめ込んでしまったのは惜しい気がした。




ベン・ウェンデル / バーコード / 新宿ジャズ館 逆瀬川
https://diskunion.net/detail/1009160336


ヴィブラフォン奏者4人とベン・ウェンデルのサックス1本。ワンホーン+4ヴィブラフォンという、斬新というか他に類を見ない編成の本作。コンテンポラリー・ジャズ、現代ジャズの文脈にありながら、その内容もやはり斬新というか類を見ないものに仕上がっている。ポリリズミックなパーカッション・アンサンブルという趣もあり、ジョビンのカバーなどスローな曲ではヴィブラフォンらしいサステインが美しく空間に響き渡る。その真ん中で上に下にと吹きまくるベン・ウェンデル。打楽器的なヴィブラフォンとサックスのユニゾンというのもちょっと新鮮。独創的な作品をリリースしてきたベン・ウェンデルの中でも特に変わっていて、ジャズの枠組みでも現代音楽の枠組みでも捉えきれない規格外のアルバム。今年まだ3か月が経ったところだけど、今年記憶に残る新譜になることは間違いない。
ところで本作の国内盤CDの解説は私が書いています。初ライナー。なのでここで推薦するのは宣伝です。ライナーでは参加しているヴィブラフォン奏者4人のことも少し掘り下げて紹介しています。国内盤のボーナストラックもなかなかイイので、ぜひお手に取っていただければ。




昼間賢 / ポール・ブレイ 即興の時を求めて / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1009201373


東京理科大学教養教育研究院教授、昼間賢氏による本邦初のポール・ブレイ論「即興の時を求めて」。昔からフリー・ジャズが好きだったのでポール・ブレイのレコードはデビューの10インチ、ESP盤、BYG~アーネット・ピーコックとの共演盤まで数多く集めてきた。「ポール・ブレイはモダンジャズの完成者である。その絶頂期は晩年に来ている」という仮説をもとにその魅力を解説する評論は皆無のため、新たな視点での評論やポール・ブレイに関する知識が深めることができたのは良かった。しかし、個人的には、やはりフリー・ジャズ時代が好きなことには変わりはない。音楽は趣味嗜好ですね。




Miles Davis / Round About Midnight(LP/180G) / 商品部 川田
https://diskunion.net/detail/1009182332


マイルス・デイヴィスが、コロンビア・レコードに移籍して1956年に発表した同レーベル初のリーダー作「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」が180グラム重量盤LPで再発。マイルスのクールで繊細なトランペットが素晴らしいハードバップの名作で、セロニアス・モンクのアルバム・タイトル曲"ラウンド・アバウト・ミッドナイト"はジャズを聞き始めた50年以上前から今日に至るまで、最も好きで思い入れの強い名曲だ。ハードボイルドでクールなジャケットに映るマイルスを見ながら赤ワインを片手に聞きたい夜の最高のBGM。




チェット・ベイカー / チェット・ベイカー・シングス(HYBRID SACD) / 商品部 西川
https://diskunion.net/detail/1009175833


いくつかのモノラルマスターが存在し、音質で最良と判断したテープを選択しリマスターされた音がどんなものか気になりました。張りのある、そして艶やかなトランペットの音色や目の前で歌っているようなヴォーカルはなかなかリアルです。バックの演奏もスタジオ内の空間も意識できるほど響きも感じられます。おそらくじっくりとアルバム1枚通して聴いたのは10年ぶりくらいになるでしょうか。モノラルとしては最高の復刻と言っても過言ではないでしょう。




WALTER SMITH III / Twio Vol. 2 / 商品部 川村

https://diskunion.net/detail/1009178336


常にジャズシーンの最前線にいるウォルター・スミス三世による、ロン・カーターとブランフォード・マルサリスをゲストに迎えた新作ブルーノート第3作目。
Vol.1に続いてのピアノレスサックストリオのフォーマットですが、メンバーは一新。ピアノレスサックストリオというと、ロリンズやコルトレーンの時代からピアノという、ある意味拘束着が外れ、自由奔放に吹きまくるサックスに対して、ベースとドラムもそれに負けないぐらいの個性でガッツリぶつかり合うものが多いスタイルの中、『Twio』は3人の対話とアンサンブルに重きにおいております。楽曲も近代のプレイヤーでは珍しく、古いジャズスタンダードを取り上げており、オールドファッションになりがちなところ、持ち前のユニークさとスタイリッシュなプレイで見事に着こなしています。個人的お気に入りは、まだブルーノートであることに違和感があるブランフォードのゲスト参加のエリス・マルサリスの名曲『Swingin' at the Haven』。親子ほどの年の差があるも古い友達のように、お互い奇をてらわず伸び伸びとしたプレイを聴かせてくれます。




DAVE STAPLETON / Quiet Fire / 商品部 池田

https://diskunion.net/detail/1009169033


某ストリーミングを徘徊中、"このジャケット、絶対内容いいだろ!"という直感だけで(当たってよかったです)先行配信されていた「Recall」と「When It Rains」を聴きリリースが楽しみだった1枚。UKのレーベルEDITION RECORDSの創設者デイヴ・ステープルトン、自名義としてはかなり久々のアルバムです。ビートが印象的でフェンダーローズとシンセを用いたサウンドのあたり、アルファミストを彷彿とさせるUKのムードをぜひ。

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